22_実力の差

「君の相手は、ダンテだけじゃないよ」


 テラは、近くの小石にマナを込めると、それをラオムに向かって投げつける。


「目障りだ。この程度の攻撃で、倒せると思ったか!」

  

 ラオムは、テラが投げた小石を片手で容易に掴むと、グッと力を入れて握り潰す。


「思ってないよ。これは、ただの囮さ」

 

 テラがにやりと笑ってそう言った瞬間、ラオムは背後に禍々しい気配を感じる。彼の背後では、ダンテが剣を構えている。テラが小石を投げた瞬間、ダンテは周囲に浮かぶ水晶玉を踏み台にしてラオムの後ろまでジャンプしていた。


「ぐっ、まさか!?」


 ラオムは、慌てて身を守ろうとするが、手遅れだった。身を守るより先に、ダンテの振り下ろした剣がラオムの首元に到達していた。


「うっ、うぐぐぐぐ!!!!」


 ラオムは、叫び声を上げ自らの首に魔力を込めるとなんとか引き裂かれないように耐え凌ぐ。


「うぉおおおおおおおおお!!!」


 このチャンスを逃すまいとダンテは、叫び声を上げ剣に渾身の力を込め、追い打ちをかける。


「ば、馬鹿な……」


 ラオムはあまりのダンテの力に慌てふためく。振り下ろした切っ先は、徐々にラオムの首に食い込んでいき、そのまま、ラオムの首を断ち切った。


 宙を浮いていたラオムの身体は頭部を失い、地面に落下する。両手で大切に持っていた水晶玉は地面をコロコロと転がる。


「やったね、ダンテ」


 テラは、ラオムを倒したダンテに向かって片手を上げた。


「テラこそ、相手の隙を作ってくれてありがとう。助かったぜ」


 ダンテは、そう言うと左手でテラとハイタッチした。


「どうして、こいつは魔法を使えたんだ……」


 魔族との戦闘を傍観していたギリは、抱いていた疑問を口に出した。


「ダンテが倒したのは、魔族ね。魔法使いが大気中のマナを使うのに対して、魔族は体内のマゴという力を使って魔法を使うからでしょうね」


 ハンナは、ギリの疑問に淡々と答えた。


「それってやばくない。魔族は魔法を今までに使えるのに、人は魔法を今までのように使えないってことだよね」


 ハンナの話を聞いていたテラは、横から話に参加した。


「魔族……初めて聞く。俺がいた1000年前にはいなかった存在だ」


 ダンテは、顎に手をやり呟いた。彼は魔族について全く見識がなかった。ただ、先ほど倒したラオムはほぼ人間の見た目をしていたが、魔物と同じ気配から彼は人間とはどこか違う存在だとは認識していた。


「ええ、あなたの知らない1000年の間に、魔族は突如として生まれたの。ちょうど、魔法が普及し始めた頃ぐらいにね」


 ハンナは、ダンテの言葉に頷き言った。


「そう、僕達は魔族だ」


 突如、近くから子供の声がして、さっとダンテたちは振り返った。地面に転がったラオムの水晶玉を持っている少年が、まるで元よりそこにいたかのように立っていた。

 

 気づかなかった。話しかけるまで……。


 ダンテは、気配を感じ取る力に長けていた。そんなダンテに存在を悟られることなく、この少年は易易と近くに転がる水晶玉を拾ってみせた。

  

 気配を感じとれなかったのはダンテだけではない。この場にいるものは、この子どもの気配を誰一人として感じられてはいなかった。


 故に、皆、その場で思わず凍りついていた。


 気配を悟られない間に、不意打ちをすることだってできたはずだ。でも、それをあえてしなかった。そのことは、この子どもが不意打ちを必要としないほどの実力を有していることを暗に示していた。

 

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