24_勝機

「君なら手を取ってくれると思ったよ。じゃあ、後の奴らは消してしまってもいいかな」 


 フエンは、ニヤリと笑うと影から再び球体を作り出した。彼がまず標的にしたのは、ハンナだ。


「さよなら」


 フエンがハンナの方に人差し指を向けそう言った直後、作り出された球体が空を裂きハンナの心臓めがけて容赦なく直進する。


 球体の動きが早すぎる。今の俺の全速力では、追いつかない。


 フエンの目の動きから、ハンナが狙われることは事前に予想できたが、あまりに球体の動きが速かった。ダンテの位置からでは、球体からハンナを守ることは不可能に近かった。それに加え、ハンナ自身も、魔法が使えず身を守る術を持っていない。


「ハンナ!!!」


 ダンテは、思わず彼女の名前を叫ぶ。


 球体が何かを貫通するような音が響く。手遅れかと思われたが、意外にもハンナの身体は無事だった。


 ーーだが。


「テラ……」


 ハンナは、目の前に立つテラを見て目を見開き瞳孔を揺らす。一方、ダンテはグッと奥歯を噛み締め、眉を寄せていた。


 フエンが球体でハンナを襲った瞬間、一番彼女の近くにいたテラが、身を挺して彼女の身を守ったのだ。彼は、両手を広げ意識を保ちなんとか立っていたが、左肩を球体に撃たれて血が流れ出ている。


 咄嗟のことではあったが、身にマナを纏わせ球体の衝突時のダメージを最小限にとどめていた。マナによる防御がなければ、左肩を貫通し、ハンナにも球体が達していた。


「テラ、ありがとう。私のために身を挺してくれて」


 いつも冷静沈着なハンナだが、血を流してもなお守り続けようとしているテラの背中に今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。


「大丈夫さ、こんなのかすり傷だよ」


 テラは、顔を痛みで歪めながら虚勢を張る。


「感動をありがとう。でも、現実は残酷なんだよ」


 フエンは、無表情でそう言った後、指をパチっと鳴らし、今度は一つではなく無数の球体を作り出しふわりと浮遊させる。


「テラの頑張りを無駄にはしない!」


 ダンテは、テラがフエンの球体を防いでことで生じた僅かな隙を見逃さなかった。脱力で一気に、フエンとの距離を詰めた。


 フエンは身の危険を感じさっと振り返ると、視線の先にはすかさずダンテの振り下ろした切っ先が目の前に迫っている。


「ちっ!」


 フエンは、舌打ちをすると、背中から体を地面の影に向かって倒しダンテの攻撃を紙一重のところで回避する。そして、ポチャリと影の中に姿を消した。


 地面の影は、少し離れた場所に移動していく。


 やはり、そうだ。このフエンという子ども。接近戦に弱い。

 

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