14_不穏な影
ドラゴンの上に乗ってしばらく森林の上空を滑空すると、一本の大樹が見えてきた。それは世界樹と呼ばれる大木だ。その木の幹の上には、エウノキ村という村があり、多くの人たちが生活をしていた。
「あれは世界樹……」
ダンテは、奥の方に大空を支えるように伸びた世界樹に思わず声を漏らす。1000年前の世界にもこの森に世界樹は存在し、現在に至ってもほとんどその姿を変えてはいなかった。
ダンテ……。
脳裏にあの日の妻の声と思い出が頭を一瞬過った。世界樹は、彼にとって特別な場所だった。妻であるカナメと初めて出会った場所であり、永遠の愛を誓った場所でもある。
「大丈夫?何か思い詰めているようだけど」
左腕のメイテツが、ダンテの異変に気がつき心配そうに話しかける。
「大丈夫だ。少し昔のことを思い出しただけだよ」
ダンテは、そっと下に伏せていた目を世界樹の方に向けた。
ドラゴンは世界樹の上にあるエウノキ村まで辿りつくと、器用に両翼を操り両足を地面につけて着地する。
ダンテは、さっそくドラゴンから飛び降りてエウノキ村を見渡す。
「だいぶ、様子が変わったな……」
眼前に映るエウノキ村の光景は、彼の知る1000年前の村の様子とはかなり異なっていた。立ち並ぶ建物も違えば、広場の雰囲気も変わっている。
ダンテたちがいるこの中央広場は、噴水があるだけのもっと閑散としていた場所だったが、今は多くの出店があり騒然としている。そして、何よりダンテの目についたのは、行き交う人々の様子だ。
「剣士がいない……」
ダンテは、行き交う人々の中、佇み呟いた。魔法使いの姿は村の至る所で確認できるが、剣士の姿は見渡す限りだと確認することができなかった。昔は、必ず腰に剣を携えた剣士が歩いていた。
「1000年前にソド王国をマナ王国が支配してから、剣士は徐々に衰退していったんだ。今となっては、剣士は激レア職業になってるんだよ」
テラは、呆然と佇んでいるダンテの隣に立ち、彼が知りたいであろう情報を話した。
「そうか、剣士の時代は終わったのか……」
ダンテはどこか悲しげな表情を浮かべ、変わってしまった村の風景を眺める。
「そろそろ、行きましょう。この中央広場を抜けてさらに奥に進むと虹の神殿がある」
ハンナは、ダンテとテラにそう言うと、虹の神殿がある方向へ一人先に進む。
「ちょっと待ってくれよ。ハンナ」
ダンテたちは慌ててハンナの後をついて行った。そんな彼らの背中を建物の影から覗き見る者がいた。
「この気配は邪剣……。奴らの中に、忌まわしき邪剣を持つものがいる」
ダンテは、背後から突き刺すような殺意を一瞬感じ、さっと振り返る。
なんだ、さっきの殺気は……。
だが、ダンテの振り返った時には、建物の影に潜んでいた何者かは姿を消していた。
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