03_絶望

 いない。奴はどこに行った……。


 クロノは急に表情を曇らせる。顔を上げたクロノが見つめた先には、すでにダンテの姿はなかったのだ。


「遅い」


 クロノの背後でダンテの呟く声がした。その声を聞いてやっとクロノはダンテに後ろに回り込まれていたことを知る。


 彼が落下し顔を上げるまでのほんの僅かな時間。仲間の剣士たちが持っていた剣を引き抜き、ダンテはクロノの背後まで移動し、すかさず剣を振り下ろしていた。


「甘いですね。僕の勝ちだ!!!」


 クロノはニヤリとすると、持っている杖でトンと地面をつつく。


 その直後、地面がボコボコと盛り上がり植物の根っ子が顔を出したかと思うと、剣を振り下ろすダンテに向かって直進する。


 ダンテは、やむを得ず剣を振り下ろすのを止め、根っこを体を後ろにそらし回避する。


 だが、不意を突かれたこともあり、根っこの攻撃を完全に避け切ることはできなかった。ダンテの左腕を根っこはすっと掠めていた。


 一見すれば、ほんのかすり傷だが、クロノの攻撃はそれほど単純なものではなかった。


「傷ついたな!これで終わりだ!」


 ダンテが傷ついたのを見て、クロノは勝ちを確信する。


 ダンテを襲った根っこには特殊な毒を含んでいた。その毒とは、人を花に変えてしまうというものだ。極微量でも傷口から入ってしまえば、花に変えられてしまう。


 ダンテの左腕は、傷口から毒が入りグチュグチュと動き始める。それを見て、ダンテは根っこに毒が含まれていたことに気づいた。


 彼の判断は早かった。自らの左腕が毒に蝕まれ、全身に回ろうとしていることに気づくと同時に、右手で持つ剣で左腕を躊躇なく切断した。


 左腕を切断したことによる痛みに苦悶の表情を浮かべながらも、クロノはさっと剣を構える。


「バ、バカな……」


 呆気にとられたクロノの声が聞こえた直後、彼の首は、きれいな放射線を描きながら宙を舞う。 


 ダンテは、横に振った剣を地面に突き刺すと、緊張の糸が切れたように地面に膝をつく。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を切らすダンテ。なんとかクロノを倒した彼だが、力の全てを出し尽くしてしまった。左腕切断による出血もひどく、次第に意識が遠のき、視界が真っ暗になっていく。


 剣によりかかることもできず、地面にバタリと倒れ込む。地面は、傷口から溢れた血液で真っ赤に染まっていく。


 そこに、追い打ちをかけるように、何者かが向こう側から歩いて来た。


 どうやら、俺の命もここまでらしい。


 ダンテは、自らの死を察した。向こう側を歩いてきたのは、マナ王国の魔法使いたちだった。それも、優れた才を持つ先鋭たちだ。


 彼らは、後ろに自分の得意とする魔法で作った巨人を引き連れていた。炎の巨人もいれば、雷や風の巨人もいる。


 歩いて来るのは、クロノの存在など霞んで見えるほどの強者揃い。今にも意識を失いそうなダンテが一人で相手にできるような相手では到底なかった。




 

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