第13話 フジの遺跡

 道中、適当なモーテルを見つけ、俺たちはようやく休憩することができた。


「しかし、エアちゃんはどうやってこっちの世界に来たの?」


 風呂に入った後、ロビーでライラがそう訊いた。確かに、目的がよく分からない。


「まだあなた方を信用したわけではないので、詳細は省きますが、説明しましょう。私は現在生存しているただ一人のエルドラド人です」


 そうだったのか。エルドラドは国としては滅びているのか? エアの表情に悲しげな様子は見えない。もう、とっくに受け入れた事実なのだろう。


「王族の末裔だった私はただ一人生き残り、エルドラドを守護する役目を担いました。ですが、地球にあるエルドラドの遺跡が盗掘され、マスターキーが持ち出されてしまったのです」


「地球にエルドラド関連の建物があったってこと?」


「はい。かつてエルドラドは、地球上の各国とも交易がありましたから」


 そんな歴史、聞いたこともない。試しにエルドラドとネット検索してみても、『南アメリカのアマゾン川上流奥地にあると想像されていた黄金郷』としか出てこない。エアの言うエルドラドと、一般に認知されているエルドラドは違うようだ。エアの話しぶりだと、超古代文明のようだ。


「その遺跡って、どこにあるんだ?」


「富士島です」


「フジシマか。まさかそんな場所に交易ポイントがあったとはな」


 それこそアマゾンの奥地とか、エジプトとかを想像したのだが、違ったようだ。フジシマは、太平洋に浮かぶ無人島。韓国から少し離れたところにある孤島だ。


「そんな辺鄙な場所にあるのね。そして、盗掘したのはオヴェスタ軍ね?」


「そうです。オヴェスタ連邦はマスターキーを発掘し、こちらに攻め入ろうとしました。そこで私が地球側に移動し、マスターキーを取り返そうとしたわけです」


 こんな非力な少女が発掘部隊を相手取ったのか。きっとテクノパシーを酷使したのだろう。


「質問。マスターキーはエルドラド人じゃないと起動できないんだよな? 盗掘されたとしても、放っておけばいい。オヴェスタ人はエルドラドへ入れないはずだ」


 ジムの疑問はもっともだ。エアの言うことは確かに矛盾している。


「ですが、実際にエルドラドへの門は開いたのです。考え得る可能性は一つ。私の他にもう一人、エルドラド人がオヴェスタ連邦にいます」


 マジか。要するに、そいつの手にマスターキーが渡ったら悪用し放題というわけか。


「ただでさえ強固なオヴェスタの覇権を盤石にするには、これ以上ない一手だな」


 ようやく敵の狙いがはっきりしてきた。これは、危険な逃避行になりそうだ。

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エルドラド狩りの汚職スパイ 川崎俊介 @viceminister

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