第12話 戦わずして勝つ

「なんだ。サリファスタンのデータセンターを潰したのは君らだったか」


 ジムは一時間と経たないうちに俺たちの過去の所業を暴いて見せた。さすがは世界最強のハッカーだ。


「会ったばかりの人間にすることではないな」


「同盟を組む相手の素性を調べておくのは、当然のことだろう? 本来なら会う前にすべきこと。遅いくらいだ」


 ライラの位置情報偽装をこうも容易く見破るとは、格が違い過ぎるな。


「で、どうするの? エアちゃんはマスターキーの起動装置みたいなもんなんでしょ? 各勢力との戦いは避けられないわよ?」


 戦い、か。面倒だな。


「諜報員の仕事は情報の収集と処理。派手に戦うことではない。戦うだけなら傭兵にでもやらせればいい」


「何が言いたいの? 傭兵やPMCを雇う金なんてないわよ?」


 ライラの疑問はもっともだ。だが、戦わずして勝つ。あるいは、戦う前に勝っておくのが、諜報員としてあるべき姿だ。


「ハッキングに強い人材がこれだけ雁首揃えてんだ。情報戦でどうにかするしかないだろ。目下の敵はBSSだが、奴らITには疎いから、どうにかなるはずだ」


「そうね。世界最強のハッカーと、テクノパシー少女、そしてちょっとITに詳しい私がいれば、どうにかなるかもね」


 ライラは若干不貞腐れているようだ。珍しいが、慰めるつもりはない。俺は取り合うことはせず、話を進める。


「BSSの兵士、特に少女兵は殺戮マシーンだ。幼少期から恐怖による服従を強いられ、命令とあらば自爆テロすら厭わない。ナメてかかると死ぬ」


 実際、死にかけた仲間の情報は何度か耳にしてきた。


「ホント、悪趣味な連中ね。そんなバカげた教育を施すなんて」


 教育というよりむしろ調教や洗脳に近い。虫けらのくせにそういうノウハウは保持しているのだから質が悪い。

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