第10話 物流のクラウド化

「奴らはマスターキーを悪用しようとしている」


 エアはしばらくの沈黙の後、唐突にそう告げた。


「さっきから言っている『奴ら』って、誰のことだ?」


「この世界のあらゆる勢力。私がこっちに来てから、色んな格好の連中に追いかけ回された」


 そうなのか。どうやってエルドラドからここへ来たのかは気になるところだが、今はそれどころではない。


「当面の脅威はNISの支援でどうにかなったわけだが」


「そのNISとやらも信用できないわね」


 一応、俺たちの所属する組織なんだがな。


「助けてもらってそれはないんじゃないか?」


「マスターキーの真価について、何か勘違いしているようね」


 エアの偉そうな態度が癪だが、俺は聞いてやることにした。


「その真価ってなんだよ? さっき言ってた、どこからでも異空間にアクセスできるって話か?」


「そう。エルドラドの埋蔵資産目当てというより、倉庫として利用したい連中が殆どなの」


「物流革命でも起こす気かしらね」


 ライラがそう差し挟む。


 確かに、どこからでも異空間の倉庫にアクセスできるとなれば、物流網自体が不要になる。トラックも、タンカーも、飛行機も要らない。まさに物流のクラウド化だ。


「でも、エルドラド人とマスターキーの両方が揃わないと異空間にはアクセスできないんだろ? エアは1人しかいないんだし、現実的ではない」


 そもそも、オークション会場でマスターキーを取り返した時点でエルドラドに逃げていれば済んだこと。何か他に条件でもあるのか?


「それに、マスターキーが何千本と要ることになる」


「マスターキーは鍵というより、権限付与装置なの。使用者が許可した人間全員に、エルドラドへのアクセス権を与える。だから連中は、私を血眼になって追うのでしょうね」


 想像以上に厄介な事態になってきた。


 


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