第9話 繰り返す歴史
「プラネットDOSを悪用しようという輩がいると聞いてね。居ても立ってもいられず駆け付けたまでだ」
自分自身が出張ってこないところが、いかにも引きこもりハッカーらしいが。
「プラネットDOSのプレミアアカウントを出品するなど言語道断! プレミアアカウントなど作られては当時の設計思想から大きく外れてしまう」
ジムの許可のもと作られたわけではなかったのか。開発者に売上が還元されず、さらにはシステム自体の秩序も壊されるとなっては、堪ったものではないだろう。
「やはり、アプリの民主性が損なわれては困るということか?」
「いいや。プラネットDOSはただの装置に過ぎない。確かに【最高に民主的な兵器】という奴もいるが、そんな大層なものではない」
「ではなぜこんなものを?」
「個人に力を与えるためだ。言うなれば抵抗権というやつかな。決して、富裕層の政治的発言権を増長させるために作ったのではない」
義賊と呼ばれる所以はこうした思想にあるのか。
「どうかな? エアちゃん。君のテクノパシーがいかに強力であろうと、秒間10TBのトラフィックをどうにかできるほどではないはずだ。諦めたらどうだ?」
「数の暴力に訴える僭主は、エルドラドの歴史上でも多数現れてきました。彼らは大衆の支持を得て、自らが正しいと信じて憚らず、そしてすぐに破滅しました。あなたも同じ末路を辿るだけです」
エアは無感情にそう告げた。
まるでそうした歴史を目の当たりにしてきたかのような口ぶり。有無をいわさぬ凄みがあった。
「どうかな? プラネットDOSは迅速に全ての既得権益を破壊するだろう。俺が破滅するのはその後だ。俺自身は破滅しても一向に構わない」
「先人の築き上げた叡智の結晶を『既得権益』と一括りにしますか。想像力の乏しい愚か者の言いそうなことです。破滅するならお一人でどうぞ」
一気に場の空気がピリつく。エアも相変わらずはっきり物を言う奴だ。
「この話は一旦やめよう、2人とも。価値観が違いすぎる。生産的な議論になるとは思えない」
「そうだな。今は打ち切ろう」
ジムは賛同してくれた。一方のエアはそっぽを向いている。発言内容の割には子供っぽい態度だな。
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