第7話 脱出

「で? マスターキーが他の連中の手に渡るとどうなる?」


 どうにか車を回収し、逃げ出す道中で俺は訊いた。


「エルドラドへの道が開かれてしまう」


 エルドラド……黄金郷を意味する単語だ。金銀財宝でも眠っているのだろうか。


「金貨でもたくさんあるの? このハイテク社会でもう金の価値なんてそこまで高くないと思うけど」


 ライラの疑問はもっともだ。そんなことより、エアの扱うテクノパシーの能力の方が、はるかに危険で価値あるものだ。


「エルドラドにある財宝自体は大したことない。問題は、マスターキーさえあればどこからでも異空間たるエルドラドにアクセスできてしまうということ」


「じゃあもう手遅れね。マスターキーを拾った奴は財宝を取り放題ってわけね」


「違う。マスターキーはエルドラド人の手によってしか起動しない」


「生体認証か。ちょっと待って。じゃあ……」


 ライラがバックミラーを覗く。嫌な勘は当たったようだ。


「誰の手に渡ったか知らないけど、さっそくエアを拉致しようとしてきてる」


 ロケットランチャーを構える後続車両を見据え、俺は停車する。前方にも車が回り込み、退路は塞がれた。


「おとなしくしてくれて助かるよ、カリームどの。その少女は渡してもらおう」


 黒の大型車から下りた大男が話しかけてくる。こいつは、BSSの幹部、ソロモン・ロヴィツキィか。NISのデータベースで見たことがある。白髪の中年だが、筋肉質で威圧感がある。真正面から相手にはしたくないな。


「あぁ、特にこのガキに思い入れはないんでな。渡してやるよ」


 俺はそう答えたが、すんなり引き渡したところで口封じに殺されるのがオチだろう。どのみち、こいつから逃げるかこいつを殺すかはしないといけない。ここは湖にかかる橋の上。おまけに今は夜中。逃げづらいな。


 それに、最近は腕も鈍っているし、これだけ体格差のある相手とはやり合いたくない。もちろん、負ける気はしないが。


 俺はエアを立たせ、両手を後ろに回させた。ふと、エンジンと共に止めたはずのカーナビが光る。


【10秒後、機銃掃射。すぐに湖へ飛び込め】


 マジかよ。そういうことは早く言ってくれ。今すぐ飛び込んでは怪しまれる。時間を稼がなくては。


「あー、ちなみにだ。なぜこんなガキを欲しがるのか教えてくれないか? 言っちゃなんだが、商品価値があるようには思えない」


 残り6秒。


「なんでもいいだろ。諜報員様に教えるようなことではないよ」


「ということは、サンドバッグ用か? あんたがロリコン趣味とは思えないんでな。それとも……」


 残り2秒。今だ。


 俺はライラと共にエアを抱き上げ、真下へダイブした。前後を封じたのみで、俺たちを包囲しておかなかったのが間違いだったな。


 すかさず重機関銃の射撃音が鳴り響き、BSSの連中は跡形もなく消し飛ばされた。

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