第6話 エアという少女

「あんた、名前は?」


「エアと呼びなさい。フルネームを明かすつもりはないわ」


 随分と高圧的な態度だが、今の俺たちは文句を言える状況にない。仕方なく手錠を解くが、エアは疲労のためかまだ座り込んでいた。


「運んで」


 エアはそんな無茶苦茶な要求を出してきた。


「つけ上がるのもいい加減にしたら? あんたのテクノパシーが回復するのと、私があんたを撃ち殺すの、どっちが早いかしらね?」


「高貴なるエルドラド人たる私を撃ち殺そうとは。愚かな土人には博愛精神の欠片もないのね」


「少なくとも、あんた相手に博愛精神を発揮しようとは思わないわ」


 ライラはポケット越しに銃口を向ける。確かオークション会場には金属探知機があった。銃など持ち込めないはず。ハッタリか。


「くっ、なかなか強情な土人ね。私が偉大なる民族の末裔であることがまだわからな……」


 エアが言い終わるより早く、ライラのタクティカルペンが床を穿った。数センチずれれば、エアの太股に刺さっていただろう。こいつ、本当に手を出すつもりか? こんな子供相手に。


「ナメられたものね。テクノパシー程度でNISのエージェントを出し抜いたつもり? こっちは人一人を殺したところでいくらでも隠し通せるのよ?」


 ライラは睨みを利かせ、そう言い放つ。本気の脅し。少なくとも一般人に向けるような殺気ではない。


「うっ、私はただ、マスターキーをっ、マスターキーを、あぐようずるような輩をっ、うわあぁぁぁん!!!」


 エアは徐々に涙ぐみ、ついには大声で泣き叫び出した。さっきまでの高圧的な態度が嘘のようだ。こういうところは年相応なんだな。


「あーあ、泣かした」


 俺はライラに軽蔑の視線を浴びせつつ、エアの背中をさする。


「私の所為なの? この子が最初に脅してきたんでしょ?」


「まぁ、仕方がない。BSSの連中が来る前に、さっさと退散だ」


 マスターキーとやらが何なのかは分からずじまいだが、さっさと逃げないと面倒だ。


「で?マスターキーとやらはちゃんと持ったのか?」


「うっ、うん。ちゃんとポケットに……って、あれ?」


 エアの貫頭衣のポケットには、穴が開いていた。


「お、落としちゃったぁぁあああ!」


 再び絶叫して泣き出すエアを前に、俺たちはさすがに困り果てるしかなかった。

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