第4話 マスターキー
「見たわね? カリーム・アル・ナブーさん?」
驚くべきことに、少女は俺の本名を正確に言い当てた。ナブーという姓は隠していたのだが。思わず呆気に取られていると、突然会場の照明が落ちた。
「マスターキーが! マスターキーがない!」
そんな叫び声が聞こえてきた。どうやら本来の任務どころではないらしい。
「例の商品が盗まれたようね」
ライラは冷静さを失わず耳打ちしてくる。
「今の子供がやったと考えるのが妥当だろうな」
「逃げ道は限られてる。警備員は一旦会場を封鎖するはずだし、追う意味はないんじゃない?」
「いや、何の策もなしにマスターキーを盗み出したとは考えにくい。何らかの逃走経路を用意しているか、あるいは突破するだけの実力があるかだ」
向こう見ずに突っ込んできただけの可能性もあるが、あの少女は只者でない気がする。スパイが勘で動くなど非合理的だが、今はそんな勘に頼るしかない。
暗視ゴーグルを取り出して出入口まで駆け抜ける。案の定、扉のロックはかかっていなかった。少女はハッキングかなにかで電子ロックを突破したようだ。
「どう思う? ライラ?」
「仮にハッキングで照明を落としたり、電子ロックを開錠したのだとしたら、デジタル技術で守られている建物に隠れるはず。そこのビルが怪しい!」
近くの海外資本の入っている会社の本社ビルに俺たちは駆け込む。自動ドアは半開きの状態で止まっており、入館ゲートも開きっぱなしだ。
エレベーターホールまで一気に走ると、さっきの少女がいた。
「残念ね。既にエレベーター管制システムは私の配下……うっ」
突如として少女は倒れ込み、尻もちをついた。
俺はそのまま少女を組み伏せると、手錠をかけた。
「さて。マスターキーとやらが何なのか、教えてもらおうか?」
「手錠はアナログだから、ハッキングではどうにもならないわよ?」
二人の大人に睨まれ、少女は観念したように俯いた。
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