第3話 プラネットDOS

「さて、次は新進気鋭の企業家、ジム・クウェル氏の開発されたアプリ【プラネットDOS】のプレミアアカウントです。こちら、詳細は皆さまご存知かと思いますが、一般アカウントよりさらに権限の強いアカウント20個が出品されています! なんと一般アカウントの200万倍の票を保有するアカウントです。さあでは5万ドルから!」


 スマホ・PCアプリ【プラネットDOS】は、個人でのサイバー攻撃を可能にした次世代のサイバー兵器だ。ユーザー投票によって攻撃対象を選定し、最も得票数の多い対象にサイバー攻撃を仕掛ける。具体的には、アプリのインストールされた全デバイスから、自動で対象に一斉アクセスしてサーバーをダウンさせるというものだ。現在の登録ユーザーは既に10億人を超え、10Tbpsの攻撃力を誇る。これは、インターネットサービスプロバイダやデータセンターが対処できる範疇を優に超えている。


 まだ出版社の公式サイトがダウンした程度の被害しか出ていないが、生活に必須のインフラを止めるだけのポテンシャルを秘めている。


 そんなアプリで、実に総ユーザーの4%分の票を獲得すれば、世界のサイバー戦を制したことになる。闇オークションの中盤にしてはとんでもないものが出てきたな。


「20アカウント全て、1億ドル!」


「1億5千万ドル!」


「1億7千万!」


 競りはどんどんヒートアップしていく。


「BSSの手に渡ったらマズいな」


「でも、興味なさげね」


 今回のターゲットは、ITには疎いとの噂。興味はないのかもしれない。


「くっ、早く【マスターキー】の競りが始まらないかしら」


 見ると、白い貫頭衣を着た少女が隣で歯噛みしていた。どこからこんな子供が入ったんだ?


「嬢ちゃん、こんなところで何してる?」


 警備員らしき大男が彼女に声をかける。少女は翡翠色の瞳で真っ直ぐ見返す。睨んでいるわけではない。むしろ何の感情も読み取れない。それでいて、その視線には有無を言わさぬ気迫があった。


「あなたたちこそ、こんなところに集まって、何をしようというの?」


 次の瞬間、警備の男は突然踵を返した。まるで何事もなかったかのように。あまりに一瞬のことで、周りの人間は誰も気づいていない。何をしたんだ?

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