第2話 闇オークション潜入
「何にせよ、裏稼業もやるなら本業もきっちりこなさないとな。例の闇オークションについて、追加の情報はあるか?」
「特に何も。事前のブリーフィングで出た内容が全てね。BSSとかいうテロ組織の幹部が来るっていうから潜入に行くけど、商品はありきたりなものばかりね。人身売買でもないようだし」
ライラはつまらなそうに口を尖らせた。ヤバい代物が出品されるとでも期待していたのだろうか。倫理観の欠片もないな。
「ただ、参加者に配布されている出品リストに、不可解なものがある。この【マスターキー】と書いてあるものね」
後部座席のライラは、ミラー越しにリストを指し示した。
「俺も気になってはいたが、どうせセキュリティ突破用のツールだろう? 犯罪者が欲しがりそうな物だ」
「そうね。単なるハッキング用ツールならいいんだけど、商品の概要すら書かれていない。他のは詳細まで書いてあるのに」
ライラの違和感は分からなくもない。だが、今回の任務はBSSの幹部を監視し情報を得ること。商品の方に注意を払っている場合ではない。
「そろそろ着くぞ」
「えぇ、一旦このことは忘れるわ」
今回俺たちは、大富豪の夫婦を装って闇オークションに参加する。後ろ暗い稼業にも手を出しているナブー共和国の実業家という設定だ。
事前に入手した招待状でゲートを通り、地下のドーム状の会場に入る。アンダーグラウンドな感じはなく、まっとうな美術品オークション会場といった雰囲気だ。豪華すぎず上品な内装だが、奥に配置された怪物の彫像が不穏な雰囲気を醸し出している。確かこの題材は、【わが子を食らうサテュルヌス】だったか? 普通の会場にこんなグロテスクな彫刻は置かないだろう。
BSS(ブラックサンドシンジケート)の幹部は、スーツ姿のサラリーマン風の格好で現れた。今回マークする対象はこいつだ。周りの富豪連中は気付いていないようだが、参加者の中には奴の護衛も紛れているようだ。屈強な男で、5人いる。迂闊に手は出せない。
オークションの中間には歓談の時間が設けられている。今回の任務はBSS幹部の監視と接触だが、さらに進んで懇意になっておくという手段も考えられるだろう。努力目標といったところか。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」
司会役はそんな通り一辺倒の挨拶を述べると、ここでの取引内容は他言無用と釘を刺した。
始まると、サイバー攻撃を受けて流出したとある大企業の顧客情報の一部から競りが始まった。身分偽装用の証明書一式、公式発表前の最先端兵器などなど、とても表に出せないような代物ばかりだ。
サプライズで女子供が出品されていたりしないか心配していたが、ひとまず安心した。まぁ、このラインナップを見る限り、安心してはいけないのだろうが。
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