第25話 反撃

 私はお兄様と相談して、まず内密に教会長に会うことにした。

 教会長を城に呼び出すと私が聖痕の力を使う。すると教会長は青ざめて平身低頭しだした。

 やはり聖女のギフトにやられていたらしい。

「申し訳ない。今となってはなぜこんな馬鹿なことをしたのか自分でもよくわからない。聖女を何としても守らなくてはと強く思っていたのです」

 教会長は混乱しているようだった。それはそうだろう。恐らく聖女のギフトは精神に作用するものだ。それは狂信者達を見ていればわかる。

「聖女のギフトの制約がわかりますか?」

 お兄様が教会長に聞くと、教会長は考え込んだ。ギフトには必ず制約があるのだ。例えば私なら、眠っている間しか未来も過去も見られない。ワトソン様の『完全記憶』なら片目を塞いでいる間しか記憶することができない。だからワトソン様は常に片目を眼帯で隠している。

「聖女アンジーの能力の制約は恐らく、触れ合った相手にしか能力を発動できないというものでしょう。彼女はある時から人との距離感が近くなりました。あとは共にいる時間が長ければ長いほど強くギフトの力が作用するのかもしれません」

 教会長は少し考えこんでそう言った。

 それならば聖女の任を解いて王達の様に監視付きで幽閉してしまえばいい。できますねと、お兄様が言うと教会長は微妙な顔をした。

「狂信者達はどうするのですか?今アンジーの聖女の任を解いたら暴動が起きかねません」

 それは私に考えがあった。これをするには教会長にも協力してもらわなければならない。

 

「私がお菓子を作ります。聖痕の力がたっぷりと込められたお菓子を、それを教会で配ってほしいのです」

 本当は水などにも聖痕の力を込められないか試したのだ。でもどうしてもできなかった。私が聖痕の力を込められるのは自分で作ったお菓子だけだ。きっと女神様が私に与えてくれた特別な力なのだろう。

 私自身は危険すぎて狂信者達に近づけない。だから間接的に彼らにギフトの力を打ち消す聖痕の力を使う必要があるのだ。

 聖女は狂信者を作り出すまで時間がかかる。なら一口でギフトの効果を打ち消せる菓子の方が勝つだろう。狂信者の数を確実に減らせるはずだ。教会長は了承してくれた。

「ではお兄様、私は聖獣保護隊にも協力を仰いで毎日お菓子を焼きますわ。保護隊への協力要請はお兄様にお願いいたしますわね」

 お兄様はわかったと言って書状をしたためてくれた。それをもって、私は聖獣保護隊に戻る。

 事情を説明すると、隊長は驚いていた。しかし、王の命だ。聖獣保護隊の総力を結集してサポートすると約束してくれた。

 

 それから毎日私は、大量のお菓子を作り続けることになったのである。プルメリアやダリアス、お菓子作りの得意な面々が手伝ってくれる。

 作るお菓子は、願いを込めてマドレーヌだ。大量の貝殻の形の型に、生地を入れて焼いてゆく。教会で無料で配られるとしたら大盛況になるだろう。これで長い時間かけて民にかけられた聖女のギフトの効果は消えるはずだ。

 

 そんな中、不穏な知らせがあった。聖女が前王の元にしばらく滞在しているという事だ。何かしているとは思っていたが、今は一人でも多くの民を正気に戻す方が重要だ。私達は一か月にわたり、毎日お菓子を焼いて配り続けた。

 すると悪意を持って流されていた私の噂が消え去った。聖女の狂信者が起こす事件も無くなり、平和が戻ったようだった。

 後は聖女を解任してそのギフトを使えないよう拘束するだけである。

 クーデターの夢はしばらく見ていない。きっと成功するだろう。

 

 教会は聖女アンジーの解任を発表した。私がギフトの効果を打ち消したことで聖女を不審に思っていた民達は多く、特に混乱は起こらなかった。

 国の騎士達が現在聖女のいる前王の屋敷を取り囲む。私は何かあった時のための人員としてスノーに乗って同行していた。

 アンジーはギフトの力を故意に悪用した罪人として拘束されることになるだろう。

 騎士達が突入すると、中には王達しかいない。

 どうやら王達が聖女を逃がしたようだった。罪人を逃がしたとして王達が拘束される。

 この屋敷に居たものは全員アンジーのギフトに侵されているようだった。私は順番に聖痕の力を使いギフトを打ち消してゆく。

 ギフトの効果を打ち消した後、私は前王に問われた。

「お前は聖女が可哀そうだとは思わんのか」

「彼女は罪人です。そんなこと微塵も思いませんが?」

 私は父親とは一生分かり合えない運命にあるらしい。前王は事情聴取のため連れて行かれた。

 

 それからしばらくして、アンジーが見つかったという報告が入る。私は彼女と話をするため彼女が収監された場所に向かった。

 

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