第24話 入隊試験会場にて
今日は聖獣保護隊入隊試験だ。私が入隊してから行われるのは初めてであり、後輩ができるのを楽しみにしていた。
朝から慌ただしく準備していると、一台の馬車がやってくるのが見えた。
たまに貴族なら特別待遇で当然というような貴族が居るらしく、迷惑だなと思いつつも私はその馬車を止めるために動く。王女の命令で止まらぬ馬車なら身元を突き止めてお兄様に報告だ。
私はスノーに斜め後ろに居てもらって、馬車を止めようとした。しかしどれだけ声をかけても馬車は止まる気配がない。最終的にスノーが馬を脅して止める形になった。
横を馬に乗って併走していた者たちが落馬するも、私は聖痕の力で瞬時に傷を治す。後で訴えられても面倒だからだ。
「ここから先への侵入は許可できません。試験受験者ならルールをお守りください」
そう言うと。馬車の中から一人の女性が降りて来る。私は目を見開いた。それは聖女アンジーだったからだ。
「お久しぶりでございます。王妹殿下。聖女アンジーでございます。今日は聖獣保護隊の入隊試験を見学させていただくために参りました」
降りてきたアンジーはまるで当たり前のようにそう言った。
「許可できません。今日は聖獣様方も気が立っています。保護隊に見学者を受け入れる余裕はありません」
するとアンジーは何かの書状を取り出した。教会長の許可証らしかった。
「教会長の許可はいただきました。かまわないでしょう?」
私は意味が分からなかった。
「今回の行事の主催は教会ではありません。王城です。王の許可証をもらってからもう一度お越しください」
そもそも教会長もそんなことは百も承知のはずだ。いったい何を考えているのだろうか。
「今回の件は教会に厳重抗議させていただきます。大体、見学したいなら現場をとり仕切るものに事前に許可を取るのが常識でしょう?聖女ともあろうものが常識はずれな行動をするのはおやめください」
ただでさえこっちは忙しいのだ。私は聖女に背を向けて歩き出した。
これだけ言えば帰るだろう。
しかし、何故か聖女は私について来ようとした。スノーが聖女に威嚇して止める。
「わあ、なんてかっこいいのでしょう。私も早く聖獣が欲しいわ」
聖女は意味の分からないことを言った。聖女に聖獣様が与えられる規則なんてない。そもそも聖獣様と聖女は全くの無関係だ。聖獣様が聖女なら懐くとかそんなことも無い。
ちゃんと許可を取って保護隊の見学に来た聖女も過去には居たが、別に聖獣に気に入られることも無く帰ってゆくのがほとんどだ。まあ確かに気に入られて教会に聖獣様を連れ帰る聖女も居たには居たが……
聖女はその辺をしっかり勉強しているはずである。だが目の前の聖女は自分は聖獣様に気に入られると信じて疑っていないようだった。
スノーは咆哮する。どうしたのだろうと思っていると、聖獣様達の待機場所から沢山の聖獣様が駆けてきた。私はどうしたのかと疑問に思う。すると聖獣様方は聖女に向かって一斉に威嚇し始めた。
気に入られるどころではない、聖獣様は皆怒っている。私は珍しい光景を前に戸惑った。
聖女はさすがに怖かったのだろう。後ずさっている。
「どうして、私聖女なのに……?」
呟く聖女に私は首をかしげた。
「聖女かどうかと聖獣様に好かれるかどうかは別問題です。教会で教わるはずですが?」
不思議そうに問う私を聖女は睨んだ。
「なんで貴方ばっかり……!」
そう言うと、聖女は後ろで成り行きを見ていた護衛と思しき人たちに命令すると、慌ただしく帰っていった。帰り際護衛と思しき人達には申し訳なさそうに頭を下げられた。謝るくらいなら最初から連れてこないでほしいと思ったが、冷静に考えたらあの人たちには私が聖痕の力を使ったのだ。もしかしたら聖女のギフトの力に支配されていたのが解けたのかもしれない。
私は聖獣様方を連れて元の配置に戻った。レミーを呼んでお兄様に事の顛末を記した手紙を急いで届けてもらう。
その日からだ。私について悪意に満ちた噂が市井に流れるようになったのは。噂の情報源はまさに聖女の狂信者達だった。
私とお兄様はいよいよ聖女を止めるために動くことにした。
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