第23話 聖女のギフト
「お兄様!」
私はレミーとナイトを連れてお兄様の執務室に駆け込んだ。
「どうしたんだい?マドレーヌ」
私は息を切らしながら先ほどあったことをお兄様に説明する。
お兄様は眉をひそめた。
「最近聖女がらみの事件が増えている。こちらからも聖女の行動を調査するように教会に働きかけているのだが教会からは返答すらない状態だ。間違いなく何かが起こっている。今詳しく調べているところだからその間気を付けてくれ」
お兄様達も疑問に思って調査していたらしい。私はお兄様に任せてその場は引くことにした。
「ごめんねレミー、怖かったでしょ?」
「大丈夫です、ナイト様が守ってくれました」
レミーは何でもないように笑っているが、怖くなかったはずがない。抜刀した騎士相手に戦っていたナイトもだ。
私達が隊舎に戻ると、すでに騎士達から報告を受けていたという隊員達に囲まれた。
「聖女の狂信者にやられたんだって!?」
「大丈夫だったか?」
どうやら聖女の狂信者に関しては市井でも有名になってきているらしい。彼らは現王族を非難している者が多く、特に私を目の敵にしているそうだ。しばらくレミー一人でお使いに行かせない方がいいかもしれない。
「なんだかおかしいよな。まるで魔法にでもかかったみたいに。聖女様、変なギフトでも持ってるんじゃないか?」
ダリアスが顔をしかめて言う。ギフト……ギフトか。でもギフトはむやみに悪用すると女神様方に取り上げられるはずだ。聖女として信者を増やしているだけだから、まだ悪用の範囲ではないとか?あり得るかもしれない。実際彼女は聖女としては歴代の誰より勤勉だ。
一つ悪事を働いたくらいじゃまだ猶予期間としてギフトが取り上げられることは無い。聖女がそのボーダーラインを見極めているとしたら今の状況も考えられる。それか聖女に全く悪意がないかだ。
だとしたらなんとかできるのは私だけだろう。聖女のギフトの効力を打ち消せるのなんて、彼女より強い力を持った私くらいだ。
私はナイトを撫でるとスノーの所へ行く。大丈夫、今の私は夢の中の様に一人ぼっちじゃないのだから。
「何とかなるよね、スノー」
スノーはグルルと鳴くと頬を摺り寄せてきた。周りの聖獣様方も心配そうに私を見ている。
その日の夜、私は夢を見た。王都が燃える夢だ。聖女の狂信者たちが火薬の入った瓶を王城に投げつける。旗印となっているのは前王と愛妾のレイリー、その子供達だ。聖女は隣国におもねる今の王族には政治を任せられないとしきりに訴えている。まごうことなきクーデターだ。
私は目が覚めると憤った。今の安定した政権でクーデターなんて馬鹿げている。聖女の目的がこれなら全力で戦わなくてはならない。
朝から怒りを発散するために、聖獣様達の宿舎で夢の内容を語りながら憤慨していると、お兄様に呼び出された。
お兄様に指定された場所に向かうと、昨日の騎士が拘束されていた。
騎士は私の顔を見ると真っ青な顔で謝罪してきた。私が眉を顰めると、お兄様が説明してくれる。
「彼は私が聖女のことを調査するように頼んだ調査員だったんだ。聖女の信者を演じるうちに、なぜか突然聖女の言うことは絶対という気分になったようだ。昨日お前に聖痕の力を使われて正気を取り戻したらしい」
これがギフトのせいだとしたらなんて恐ろしいギフトを持っているんだろう。でも私の聖痕の力でギフトが打ち消せるとわかったのは朗報だ。
「お兄様、私に作戦があります。協力していただけませんか?」
そう言うとお兄様方は目を見開いた。
「どちらにしても、お前に協力を頼むつもりだった。でも大丈夫か?聖女は恐らく、特にお前を目の敵にしているだろう?」
お兄様は私を心配していた。トロイも、ワトソン様もハンク様も、心配そうに私を見ている。夢とは何もかもが違う。だからきっと私は大丈夫だ。
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