第22話 三年
女神様に聖痕を頂いてから三年の月日が経った。
十五歳になった私は相変わらず聖獣保護隊に所属している。最近はお兄様達との関係もだいぶ改善されて仲良く過ごせていると思う。しかし、なんといってもお兄様は国王になったのだ。忙しさで会える時間は格段に減っていた。
ちなみに父王はレイリー達と半幽閉生活を送っている。贅沢を好んで愛妾になったレイリーと我儘なクリスティナ達がそんな生活に耐えられるはずもなく、毎日癇癪を起しているという。最近それを憐れんだ聖女が直々に懺悔を聞きに行っているというから驚きである。
聖女はちょっとした時の人となっていた。聖女でありながら下々の者にも優しく手を差し伸べてくれると評判である。過激な信徒が多く、悪口を言おうものなら後ろから殴られると言われている。実際本当にそれが理由の事件も起きていた。なんだかきな臭い。夢の状況に似ているため、私はすこし警戒していた。
「あ、マドレーヌ。クッキー、こんなもんでどうかな?」
プルメリアがオーブンを覗き込みながら言う。最近私には一つ特技ができた。
それは聖痕の治癒の力をお菓子に込めることだ。食べたらたちまち傷が癒えたり疲れが取れたりと大人気である。
「うん、いいね!いい焼き具合、早速お兄様達に差し入れしないと」
最近は神獣様達のお菓子を作る傍ら、お兄様達への差し入れも作れるくらいには作業スピードも速くなった。だから念のため、治癒の力を込めたお菓子を毎日のように差し入れている。
王が隠居して大忙しのお兄様とお母様も大喜びだ。
お姉様も婚約者の元に嫁がれたし、弟のモーリスも最近はお兄様を支えるんだと勉強熱心だし順風満帆だ。
私は小間使いとして雇った十歳になったばかりのレミーにクッキーを渡す。彼女はお兄様達との間をつなぐメッセンジャーとして私が雇った。他には隊舎の雑用を引き受けてくれる。料理の下ごしらえなんかを率先して引き受けてくれるのでみんな助かっている。
ナイトは私から離れても不安に思うことは無くなったようで、レミーがお兄様達の所へ行くときはレミーの護衛をしてくれるようになった。
ナイトがにゃんと鳴くと私の手に顔をこすりつけてからレミーについてゆく。
私とプルメリアは聖獣様方にお菓子を配る。
ここ三年で聖獣様の数はとても増えた。私が夢で見た保護が必要な聖獣様を、スノーが見つけたことにして保護していたら増えていたのだ。
だから今年は大規模な入隊試験が行われる予定らしい。とても楽しみだ。いったい何人が聖獣様に認められるだろう。
美味しそうにお菓子を頬張る聖獣様を、私は撫でる。
そのままブラッシングを催促され、順番にブラッシングしてやる。
ここ最近は毎日がとても穏やかで楽しい。何事も起こらなければいいと心から思う。
それなのにその日はいつもと違った。レミーとナイトがいつまでたっても戻らないのだ。私は嫌な予感がして探しに行った。すると道中で、何人かの騎士に拘束される騎士と、怯えるレミー、そして血だらけになりながらレミーを守るナイトが居た。
「ナイト!レミー!」
私は二人の元に駆けだすと聖痕の力を使う。ナイトの傷は見る見るうちに塞がった。
ナイトはにゃんと鳴いて私の足に頬ずりしてくる。私は騎士達に問いかけた。
「何事ですか!?なぜこの城内で聖獣様が怪我をしているのです!」
私の一喝に騎士達は困惑した様子で話し出す。
「わかりません、こいつが急に走りだして、王妹殿下の聖獣様に切りかかったのです」
その騎士は拘束されがらも私を睨んでいた。その目は憎しみに満ちている。
ナイトと戦ったのだろう、その体は傷だらけだった。
「私に何か恨みでもあるのですか?」
「あんたが居る限り、聖女様は苦しみ続けるんだ。あんたが聖女様の邪魔をするから悪いんだ」
私はその名前に心臓が跳ねた。この状況は、私が火あぶりになった夢の中とよく似ている。
「聖女ですか?私は一度しかお会いしたこともありませんが、一体いつ彼女の邪魔をしたというのです?」
「うるさい!聖女様が言ったんだ。自分は所詮代理だからって。あんたが聖女の任務を放棄したから、代わりに聖女をやってるだけなんだって」
本当に聖女がそう言ったんなら大問題だ。彼女が代理の聖女であることは口外しない約束をしている。混乱が起きても困るからだ。
「そうですか、貴方は聖獣様を傷つけましたが、貴方は騎士で城内での出来事です。教会ではなくこちらで裁くことになるでしょう。連れて行きなさい」
私は犯人の傷を治すと、他に騎士に指示した。
犯人はとたんに青ざめて抵抗する。見苦しいなと思った。罰を受けると思わなかったのだろうか?そんなはずないだろう。私は報告をしにお兄様の所へ急いだ。
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