第21話 聖痕

 私が女神様から聖痕を賜ったことは、すぐに民衆に知れ渡った。パレード会場で派手に治療していたのだから当然だろう。私があの場で聖痕を賜ったことで、神は民を見放していないという証明になったらしく。大きな混乱は避けられたそうだ。

 しばらくすると教会から、女神様から賜った聖痕のお礼の儀式をしてほしいと呼び出された。私は念のためお兄様達と一緒に教会に向かう。

 聖痕とは、与えられた者は治癒の力を使うことができるものだ。そしてなぜかどんなギフトの影響も受けなくなる。そしてギフトの効果を打ち消す・・・・・・・・・・・ことができる。

 私はもうトロイに心を読まれることも無いと安心していた。トロイも心なしか嬉しそうに私に話しかけてくれている気がする。トロイも好きで心を読んでいるわけではないのだろう。夢の中でも聖女と話す時だけ安心していたようだった。

 私の足元で、ナイトがドーナツを食べている。お兄様達にもおすそ分けしてまるで遠足のようだ。

 

「そういえば、犯人は捕まりましたの?」

 ワトソン様のギフトで作られた犯人達の人相書きは、すぐに街中に張り出された。とんでもない数の通報があったらしい。その中からワトソン様が一人一人を選別して犯人を特定したそうだった。

「犯人は皆レイリーに雇われたと言っていたのだけどね」

 何でもそれを聞いて王が怒って、まだ調査も十分でないうちに独断でみな処刑してしまったそうだ。本当碌なことしないな、王は。

 しかし今回の事はさすがに看過できない。お母様はレイリー達を監視し、完全に王から権力を取り上げようと動いているらしかった。

 そして旗色の悪さを感じ取ったのだろう。レイリーに追従して甘い汁を吸おうしていた下級貴族も最近は離れつつあるようだ。

 レイリーもクリスティナもシドニーも、お母様によって自由を奪われ癇癪を起こしているらしい。使用人もレイリーとその子供達の面倒は見たくないとどんどん退職を申し出ているようだ。

 そこまでしてやっと王はすべて失う危機感を抱いたらしく、早々にレイリー達を連れて隠居することを考え始めたそうだ。レイリーやクリスティナが隠居生活に耐えられるのかは疑問だが。恐らく監視付きの半幽閉生活になるだろう。

 私は少しホッとした。夢とはだいぶ違う未来になっている。

 ナイトがドーナツのお代わりが欲しいと私の膝の上に乗ってくる。私はもう一つドーナツをあげると、ナイトを撫でる。

 嬉しそうな私にお兄様達も安心したようだ。

 

 教会に着くと、教会長の所へ案内される。

 そこで私は血の気が引いた。

 教会長の隣には、私と同い年くらいの桃色の髪の女の子が立っていた。間違いない。聖女だ。あの夢の中で、私を火あぶりにした。

 お兄様が教会長に挨拶すると、私達はひとまず部屋に通される。

「ようこそお越しくださいました。今日は儀式の他に折り入ってご相談があってお呼びだていたしました。第三王女殿下はこの度聖痕が発現いたしましたが、困ったことに現状聖痕持ちの中で最も強い力を授かったのが王女殿下なのでございます。本来なら最も力の強いものが聖女として立つしきたりです。しかし王女殿下を聖女とするわけにもいかず……。元々次代聖女として勉強していたこのアンジーを代理の聖女として立ててもよいかとお伺いしたく」

 私はそれを聞いて驚いた。私が夢の中の聖女よりも強い力を持っているのかと。聖女――アンジー――は感情の見えない目で私を見ている。

「もちろんかまいません。聖女不在では教会もお困りでしょう。私の代理として他のものを聖女とすることを許可します」

 私はこう言う他なかった。できればアンジーではなく違う人にしてほしかったが、それを言うと角が立つ。

 私はその日の本来の目的であった、聖痕を授かった人間が必ずやらねばならない儀式を行いながら、お兄様達の様子をうかがった。

 さすがに聖女代理の身分ではお兄様達に話しかけられはしないから、今のところ恋に落ちた様子は無いようだ。

 帰りの馬車の中で、アンジーの印象を聞いてみる。

「話をしていないから何とも言えないけど、印象は悪くないかな?」

「落ち着いた様子でしたし、いい聖女になるのではないかと」

「何か彼女に気になるところがあるのかい?」

 お兄様に問われて私は言葉に詰まった。目をそらして沈黙する私にお兄様達は少し警戒心を持ったらしい。

「聖女には気を付けることにするよ。マドレーヌが何か感じたなら何かあるのかもしれない」

 私はお兄様の気遣いに感謝した。これから何が起こるのかわからないから聖女には近づいてほしくない。私は一抹の不安を抱えながら城に戻るのだった。

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