第20話 小休止

 私達はひとまず教会から隊舎に戻って来た。お兄様の暗殺未遂と私の聖痕発現については後日話をするらしい。

 隊員も聖獣様もみんな疲れ果てていた。私は何かに没頭したかった。今日一日でいろんなことがあってまだ困惑していたのだ。

 隊員の一人に頼んで夕食当番を交代してもらう。他の隊員達と聖獣様達は大喜びだ。うん、聖獣様達も喜ぶものを作ろう。

「スノー、翼はもう大丈夫?」

 スノーに問うと翼を大きく広げて見せてくれた。どうやら傷は跡形もなく消えたようだ。

「良かった、今日はありがとう」

 スノーはどういたしましてと言うように唸った。

 

 私はスノーと別れて厨房に行くと今日の当番だったプルメリアとシナモン先輩と一緒に料理を開始する。

「今日は何を作るの?」

「今日はカツサンドを作るよ、ついでにデザートにプリン」

 食パンは大量に作り置きしているものがある。最近は隊員達がパンの作り方を覚えてくれて、みんなが作ってくれるのだ。

「また何かわからない料理だね。まあマドレーヌの事だからかなり美味しいんだろうけどね」

 私はプルメリアにはひたすら卵を割ってもらい、先輩にはひたすらキャベツを刻んでもらってサラダを作ってもらった。

 その間に肉の準備をする。少しの間ヨーグルトに漬けてお肉を柔らかくすると、古くなったパンを削って衣を作る。小麦粉と卵にくぐらせてから衣をつけて揚げると、美味しそうなカツになった。隊員達の為に厚めに作ったカツを切って、作り置きしているソースをかけて味見する。うんよくできたと思う。

「また美味しすぎるものを作ったね。これは最高だよ!」

 味見したシナモン先輩が太鼓判を押してくれた。プルメリアも美味しそうに食べている。

 私はプルメリアとカツを揚げる係を交代してプリンを作った。途中でサラダを作り終わった先輩にパンにカツを挟む作業に移ってもらう。

「今日はいろいろあったけど。マドレーヌが料理当番代わってくれてよかったよ。美味しいものが食べられるだけで士気が上がるからね」

 雑談しながら料理を作ると、あっという間に出来上がった。

 

 私達は聖獣様のご飯の準備をしていた隊員達と合流して、聖獣様のためのカツサンドとプリンを食事に追加してもらう。

 隊員達で聖獣様の所にご飯を持ってゆくと、みんな嬉しそうに食べてくれた。

 ついでに私は怪我をしている子が居ないか一匹ずつ見てゆく。細かい傷が残っている子がいたのですべて治療した。聖痕って便利だな。

「なんていうか、マドレーヌは聖痕が出現しても変わらないね。……教会に連れて行かれないよね?」

 プルメリアは心配そうに言う。聖獣様方が、一斉にこちらを見た。

「私は王女だから、教会に無理やり連れて行くのは不可能だよ。だから大丈夫」

 プルメリアはホッとしたようだ。会話を聞いていた聖獣達様達も、私が連れて行かれることは無いと知ってホッとしたようだ。メリーが切なそうに鳴きながら私の制服を引っ張る。行かないでという事だろう。

 私も、聖獣保護隊での生活を手放したくない。私の周りに集まってくる聖獣様達を順番に撫でた。

 

 食堂に行くと、みんなでカツサンドを食べる。やっぱり揚げ物は大人気だ。ナイトが机の下でお代わりを要求したのでこっそり食べさせてやる。

 私は食事が終わると、避けておいたカツサンドをバスケットにたくさん詰めて、ナイトと共に城の会議室に向かった。きっと昼間の事件のせいで、今頃高官たちは徹夜で会議をしているだろう。お兄様とお母様、他の高官達への差し入れのつもりだった。会議中であろう部屋の扉をノックして名乗ると、すぐに扉が開いた。どうやらお母様直々に扉を開けてくれたらしい。

「差し入れをお持ちしました。今日はお疲れでしょう?片手で食べられるものなのでどうかお召し上がりください」

 そう言うと、高官達から歓声があがった。

「ありがとう、マドレーヌ。丁度みんなお腹を空かせていたところよ。いただくわね」

 籠を受けとったお母様は嬉しそうだ。お役に立てて良かった。そこで私は違和感に気づく。

「王はどうしたのですか?」

 私が聞くと、高官達は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。なんでもレイリーに呼ばれて席を外しているらしい。この重要なときに?私は信じられない思いだった。王太子の暗殺未遂があったのに、愛妾の所に出かけるなんて最早それは王ではないだろう。

 早いとこお兄様に王権を譲った方がいいと思う。私はため息をついて会議室を後にした。

 

 

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