第19話 パレード
時は経ってパレード当日。私はかつてないほど緊張していた。
今日お兄様が、殺されてしまうかもしれないのだ。回避できるかは私にかかっている。
「どうしたの?マドレーヌ。顔が真っ青だよ。」
プルメリアが心配そうに声をかけてくれる。私はしっかりしなくてはと頬を叩いて気合を入れた。
思っていた通り、私は上空をスノーに乗って移動することになっていた。ナイトには地上に居てもらって、少年が花束を渡そうとしてきたら花束を奪ってスノーに渡す計画だ。そしてスノーはその花束をはるか上空に放り投げる。
そうすれば被害は出ないだろう。私とスノーとナイトで話し合って決めた作戦だ。言葉が通じないので意思の疎通は大変だったが、なんとか三者とも納得する作戦を考えることができた。
パレード開始前、教会で私はお兄様と一緒に居た。するとそこに、父の愛妾であるレイリーと、クリスティナとシドニーがやってくる。
一体何の用だろう。
「お久しぶりでございます。王太子殿下、マドレーヌ殿下。今日は絶好のパレード日和でございますわね。このパレードが上手く行くこと、お祈りしてますわ」
レイリーは口元を扇で隠して笑っている。なんだか嫌な感じだ。クリスティナも子馬鹿にするように笑ているし、シドニーも同様だ。
まるで今日何が起こるか知っているようで気味が悪い。
いやもしかしたら本当に知っているのかもしれないと私は思った。だってお兄様が死んで得をするのなんてこいつらぐらいだ。
お兄様は無言だ。返答する必要はないと判断したのだろう。身分はこちらの方がはるかに上なのだ、返事をしなくても問題はない。
レイリーはそんなお兄様を冷たい顔で睨んでいた。
パレードが始まると、私達は聖女の乗った馬車を囲むようにして移動する。他の隊員達は騎士らしく背筋を伸ばしてまっすぐ前を見ていたが、お兄様と私は周囲に笑顔で手を振らなければならなかった。
老齢の聖女様にあわせてゆっくりと馬車を進ませる。やがて、運命のポイントに到着した。私はスノーとナイトに合図を送る。
大きな花束を持った子供を見つけると、ナイトは全速力で走りだした。ナイトは子供から花束を奪うと、追いかけてきていたスノーに投げ渡す。スノーはそれを受け取ってそのまま急上昇すると下に人の少なそうな場所で空に投げた。その瞬間、花束が爆発する。スノーは急降下し、民衆はパニックになった。
やった、お兄様の死を阻止できた。私は安堵して周りを気にしていなかった。
その瞬間パニックになった民衆の中から、私を狙って何かが投げられたのにも気づかなかったのだ。
気づいたときにはそれはもう目の前に迫っていた。
私が思わずスノーに抱き着くと、スノーは自らの翼を私と投げられたものの間に差し込んだ。
すぐ近くで大きな爆発音がした。伏せていた顔をあげると、そこには翼がボロボロになったスノーが居たのだ。
投げられたものは私にだけではなかった。他にも数個の爆発物が投げ込まれたらしい。お兄様を殺そうとした花束ほどの威力は無いが、それでも密集地帯に放り投げられると結構な被害だった。
その場は阿鼻叫喚だった。幸い死者は居ないようだが、怪我人が多すぎる。聖女様が馬車から降りて治療にあたっていた。騎士達は高貴な身分の私達や聖獣様を守るための陣形を組んでいる。街の憲兵達は民衆の対応に追われていた。
「スノー、大丈夫?」
私は自分の無力さに涙が出た。未来を知ることができるなんて大層なギフトをもらっておきながら、相棒に深手を負わせてしまった。
どうしてこの未来を夢に見ることができなかったのか。私が未来を変えてしまったから、こんなことになってしまったのか。わからない。
私はこの時女神に祈った。どうか皆を助けてほしいと。
すると私の左手に光り輝く聖痕が浮かび上がる。これは三柱の女神の内の一柱、調和の女神の聖痕だ。
女神に聖痕を与えられたものは、治癒の力を使える。私は夢中でスノーの傷を治した。
他のみんなの傷も。どうやら聖女様だけではすべて治療しきれなかったようで、息を切らした聖女様にお礼を言われた。
「やはり女神様は見て下さっているのですね。マドレーヌ王女殿下が女神様より聖痕を与えられましたこと、お祝い申し上げます」
私も治療に加わったため、事態の収拾は思ったよりも早かった。パレードは中止になり皆一旦教会へ戻る。
教会には、未だ愛妾のレイリーと子供達が居た。お兄様と私を見て唇を歪めたのが見える。
お兄様も気が付いたようだ。
「今回の件は徹底的に調べ上げよう」
お兄様の発言を聞いたワトソン様は、畏まって言う。
「爆発物を投げ込んだもの、全員の顔は覚えました。あとで似顔絵を描きます」
『完全記憶』のギフトはこういう時便利だ。お兄様はワトソン様に託すと、教会長の所に向かった。
恐らくは責任の擦り付け合いをするのだろう。今回のパレードはほぼ教会が護衛を担当していた。さらに私が女神様に聖痕を与えられたことで、王家が有利な交渉ができるかもしれない。がんばってお兄様と、私は心の中で応援した。
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