第18話 パレード準備

 朝、聖獣様方にご飯をあげていると、お兄様達がやってきた。

 私はその光景を見て息をのんだ。夢の中で私を火あぶりにする四人の男達が全員そろっていたからだ。

「マドレーヌ、紹介するよ。新しい側近のワトソンと、護衛のハンクだ」

 青い髪のワトソンは片目に眼帯をしている。確か『完全記憶』のギフトを持っていたはずだ。赤い髪のハンクは『威圧』のギフト持ちのはずだ。火あぶりになる直前に彼のギフトを使われ、恐ろしい思いをしたのを覚えている。

 恐ろしかったが私は何とか挨拶する。

「どうしたんだいマドレーヌ、顔色が悪いよ」

 お兄様が私を心配してくれる。大丈夫だ。もう火あぶりの夢は見ないのだから。私は少しでも未来を変えるため、ワトソンとハンクに好印象を持ってもらえるよう頑張った。

 

「今日はどうしてこちらに?シャーロックに会いに来たのですか?」

「それもそうなんだけど、私もパレードに参加することになったんだ」

「ああ、やっぱり参加することにしたのですね。王はうるさかったのでは?」

「王太子が教会に媚びを売るなと大騒ぎだ。誰のせいでそれをしなきゃいけない状況になっているのか、と聞いたらさすがに身に覚えがあるんだろう、黙ってしまったけどね」

 お兄様は少し疲れているようだった。無理もない、みんな早々に王座を交代させようとお兄様の教育を急いでいる。まだ十五歳のお兄様にはつらい日々だろう。

 まったく王はいい加減にしてほしい。

 お兄様はパレードの先頭でシャーロックに乗って先導する役目らしい。きっと民は喜ぶだろう。

「お兄様が先陣を切るなら私はしんがりを務めますわ」

 冗談のように言うとお兄様は笑った。

「最後尾がドラゴンとはかっこいいね」

 そうだろう、スノーはかっこいいのだ。

「側近の皆様方も、一緒にパレードに参加しますの?」

 そう問いかけるとワトソン様が頷いた。

「王太子殿下をお守りするのが僕らの仕事ですから」

「そうですか、お兄様をよろしくお願いいたしますわ」

 ワトソン様とハンク様は目礼していた。

 まだ側近になったばかりだからか、堅苦しい。お兄様も苦笑している。

 

 その時だった。

「トロイ様ー!」

 愛妾の娘のクリスティナが向こうから走ってくる。トロイは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 クリスティナは昔からトロイに執着している。きっと追い掛け回しているんだろう。

「あらやだマドレーヌじゃない。また私とトロイ様の邪魔をするの?」

 クリスティナが私に声をかけると、お兄様とトロイが私を後ろに庇ってくれた。ハンク様なんて腰の剣に手をかけている。その様子を見たナイトも敵だと判断したのだろう、姿勢を低くして唸っていた。

「またマドレーヌに何かするつもりか、人殺しめ」

 お兄様がクリスティナに言う。

 「人聞きの悪いこと言わないで!違うんですトロイ様。マドレーヌが私達を引き裂こうとするのが悪いんです」

 クリスティナの言葉に私は気分が悪くなった。こいつは全く反省していないんだ。

「スノー」

 私はスノーを呼ぶと私達を守るように立たせた。

 クリスティナは驚いてしりもちをついた。クリスティナはそのまま怖いわトロイ様ーと泣き叫ぶ。

 だがトロイが助け起こすはずもなく、クリスティナは泣き続けた。どうせウソ泣きだろう。トロイの気をひきたいだけだ。そんな方法で気をひけるのは王だけだと、いい加減気付いてほしい。

 私達はクリスティナを放っておいて隊舎の中に入る。扉を閉める直前、クリスティナが鬼のような形相で私を睨んでいるのが見えた。なぜ私を睨む。

 スノーが怖いのか、クリスティナは隊舎の中までは追いかけてこなかった。

「大変ね、トロイ……」

「いえ、お互い様です。あとでスノーにもお礼を言わないと」

 疲れ切った顔で言うトロイに同情する。あれに追いかけられるのは精神的につらいだろう。そのうえ自分に好意を持つ人間の心の声が聞こえるギフトのせいで、クリスティナの心の声も聞こえているはずだ。そりゃあ人間不信にもなる。

 その後は、隊長も交えてパレードの打ち合わせを行った。

 

 その日の夜の事だった。

 私はまた夢を見た。パレードで古代聖殿に移動する最中、一人の少年が駆け寄って来てお兄様に花束を渡す。

 側近達が止めるもお兄様は花束を受け取ってしまう。そして次の瞬間、その花束が爆発した。

 その爆発に巻き込まれてお兄様が亡くなる夢だ。

 私は驚いて飛び起きた。

 不安に駆られた私は急いでスノーの所へ行く。

「スノー、どうしよう!また夢を見たの!」

 私はスノーにすべてを話した。話しているうちに少し落ち着いた。足元をナイトが心配そうにうろうろしている。

 スノーは任せろと言うように頷いた後、ナイトと何やら話していた。

「今回も協力してくれる?」

 私が言うとスノーは顔を寄せてくる。私はスノーを撫でながらほっと息をついた。

 

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