第16話 新しい相棒

「おはよう、マドレーヌ。昨日は大活躍だったんだって?」

 私が聖獣様を引き離せなくて困っていると、レンを連れたダリアスが声をかけてきた。

「おはよ、ダリアス。そうなの、それでこの聖獣様を保護したのよ」

 聖獣様はレンに挨拶しているようだった。

「外傷は無かったんだろう。保護できて良かったな。……そういえば隊長がマドレーヌを探しているようだったぞ」

「ありがとう、行ってくる」

 私はダリアスと別れると隊長を探す。相変わらず聖獣様は私にぴったりと付いて来ていた。

 

 隊長を見つけると声をかける。

「おはようございます。サイモン隊長。」

「ああ、マドレーヌ、おはよう。丁度良いところに来た。昨日の事がどうなったのか話しておこうと思ってな」

 隊長はため息をつくと言った。

「まずあの見世物小屋の主人は王都の外で聖獣様を村人から買ったらしい。村人の所には今向かっている。王都には門番を買収して荷物のチェックをさせずに入ったそうだ。門番は捕まった。見つかっていた聖獣様の買い手はよりにもよって貴族だった。こちらにも厳しい処罰があるだろう。現在家宅調査中だ」

 事件は思っていたよりも大きなものになっていたようだ。

「聖獣様がらみの事件だからな、門番以外は教会が裁くことになるだろう。……ところでその聖獣様はどうした?」

 隊長が黒猫の聖獣様を不思議そうに見る。

「それが、全く離れたがらないんです。どうしましょう」

 隊長は少し考えると言った。

「相棒になりたいのかもしれないな。スノーの所に行って、大丈夫そうなら名前を付けてやったらどうだ?」

 一応複数の聖獣様に好かれるものは居る。私の場合は私と言うより料理が好まれているので特殊事例だが、相棒になるのは別に一匹でなくてもいいのである。私は早速スノーにお伺いをたてに行った。

「ねえ、スノー。昨日助けた子も相棒にしていい?」

 聞いてみるとスノーと聖獣様は何やら話し合ってるようだった。

 やがてスノーがこちらを見て頷く。私は聖獣様の名前を考えた。

「ナイト、ナイトはどう?」

 黒猫の神獣様はにゃんと鳴いて頬ずりしてきた。こうして私は念願のもふもふな相棒を見つけたのである。

 

 ナイトはどこへ行くにも私についてきた。足に絡みつかれながら歩くのにもだいぶ慣れた。さすがに訓練などの邪魔はしないが、必ず目の届くところに居てくれる。

 スノーは大きいから連れて歩けなくて寂しかったが、ナイトが来てから私は嬉しかった。

 今日はナイトを連れて王族の居住区に戻っていた。お母様達とのお茶会があるからだ。

 お土産にクッキーを沢山焼いた。

 お母様の部屋に着くと、乳母が扉を開けてくれる。私が宿舎に行ってからはお母様の所で働いているらしかった。

「ああ、マドレーヌ、いらっしゃい。活躍はきいているわ。早くあなたの口からも聞かせてちょうだい」

 お母様が私を抱きしめる、席にはお兄様とお姉様、弟のモーリスがすでについていた。

「姉上、その黒猫様は神獣様ですか?姉上がお助けしたのでしょう?かっこいいです」

 ナイトを救って以来、私の名声は市井に轟いているらしい。同時に私の過去も市井に知れ渡り同情の声を集めているようだ。過去の噂を流したのはいったい誰だろうな。

 そのせいで早く王が交代すればいいと言っている民も多いと聞く。お兄様はきっと、予定よりずっと早く王位に就くことになるだろう。今はその準備に追われているようだ。

 お茶会はとても楽しかった。まだ少し火あぶりの恐怖は残っているが、聖獣様方のおかげで夢を見なくなって、落ち着いてお母様達とも話ができるようになった。やっぱりこのお母様達が火あぶりになる私に冷たい目を向けるなんて考えられない。あの夢は一体何なのだろう?

 

 お茶会も終わりに差し掛かった頃、王の現在の話を聞かされた。お兄様と私が神獣様の相棒となり、愛妾の子のクリスティナとシドニーが教会に喧嘩を売ったため、王の足元は今にも崩れそうらしい。王はシドニーの王位簒奪宣言ですらも叱らず庇ったそうで、教会と貴族達から早く後進に道を譲れと遠回しな催促が来ているようだ。

 クリスティナがいつ教会に喧嘩を売ったのかは知らないが、姉弟そろってバカなことをしたものだと思う。

 別に王が早く隠居すればいいだけの話だが、王はその座を手放したくないらしい。あの手この手でお母様やお兄様、私達の機嫌を取ろうとして来る。もはや問題は機嫌を取るくらいでは収拾できないところまで来ているのだが、王にはわからないらしい。

「あなた達も気を付けてちょうだい。腑抜けた王はともかく、あの愛妾がなにか企むかもしれないわ。あの女、自分で子供達の教育に失敗したくせに、私達を逆恨みしているらしいから」

 前途多難だなと、私はため息をついた。椅子の下から、ナイトが慰めるようにすり寄ってくる。私はナイトを撫でて紅茶を飲んだ。この平和はいつまで続くのだろうか。

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