第15話 真夜中の襲撃

 その日私は夜中に目を覚ました。

 夢を見たからだ。久しぶりに未来の夢を。

 夢の中では、一匹の黒猫の聖獣様が旅の見世物小屋の主人によって売られていた。

 どうやって聖獣様を連れたまま警備が厳しい王都に入ることができたのかはわからないが、見世物小屋の主人は必死に買い手を探していた。

 聖獣様は何か薬でも飲まされているのかぐったりとしていて、逆らう気力もない様だった。

 その聖獣様は見世物小屋の主人の手から、誰かの手に渡る……そしてそのまま剥製にされてしまうのだった……。

 

 私はどうしようか悩んだ。誰も私の予知夢のことを知らない。誰に訴えてもおかしく思われるだろう。悩んだ末私は制服に着替えてスノーの所へ行く。

 真夜中に蒼白な顔で獣舎に現れた私を、スノー達は歓迎してくれた。

「どうしよう、スノー。誰かに話した方がいいのかな。でも、誰を信じたらいいの?」

 私はスノーに夢の内容を語って聞かせながら、どうしたらいいか悩んでいた。

 するとスノーがグルゥと鳴いて私に背中を見せた。そのまま振り返って私を見る。

「乗れって言ってるの?協力してくれる?」

 問いかけると、頷いたようだった。

 私はスノーの大きな背中によじ登った。きちんと跨るとスノーが獣舎の外に出る。そして翼を羽ばたかせた。

 どんどん地面から離れていく感覚が、最初は怖かった。飛行訓練なんてしたことは無い。

 でも、次第にわくわくした。スノーの背中は安定している。しかも私のためにゆっくり飛んでくれているのだろう。怖くなくなってきた。

 満天の星に照らされた王城は美しく、ずっと見ていたくなるほどだった。

 

 やがて王都の上空に着くと、スノーは旋回しながら私を見た。

 私は聖獣様がとらえられている見世物小屋の場所を伝える。

 大きなサーカスのようなテントだからきっとすぐにわかるだろう。スノーが一緒なら、きっと大丈夫だ。私は聖獣様のことを救出したらすぐに逃げようと思っていた。

 スノーは爪で見世物小屋のテントを切り裂くと、中に突入した。その場所には何やらきな臭いものが沢山あった。その中に埋もれるように置いてあった神獣様の檻を見つける。

「スノー!檻ごと持てる?」

 スノーは頷くと神獣様の入った檻を持って私を背に乗せる。そして飛び立つと、テントの上で街中に響くような咆哮をした。なぜそんなことを?

 周辺の住人が起きだして、こちらを見てくる。中にはすわ一大事かと逃げ出そうとする者もいた。

「え?スノー、どうする気なの?」

 やがて騒ぎに乗じて憲兵がやってくる。なるほど、それが狙いか。私はスノーと共に憲兵のもとに降り立った。

「聖獣保護隊です。こちらのテントで不当に捕らえられた聖獣様を保護しました。見世物小屋の関係者を全員拘束し、事件の子細を明らかにしてください」

 私が言うと、憲兵達は顔色を変えた。ドラゴンの聖獣を相棒にしているのは王女マドレーヌであると、今では街のみんなが知っている。お兄様の件と合わせて話題になったからだ。

 急いで駆け出す憲兵達を横目に、私はスノーと共に聖獣保護隊の隊舎に戻った。

 

 戻るとすぐに隊長を起こして子細を話す。聖獣様はスノーと夜の散歩をしている時にたまたま見つけたことにした。聖獣様は距離が近ければ互いの存在を感じとれる。怪しまれはしないだろう。

 その間にスノーが檻を壊して猫の神獣様を救出していた。

 すぐに事態の調査のために隊員を派遣しようとする隊長に許可を取ると、医者を連れて来る。

 神獣様は薬を嗅がされ大人しくさせられているだけで、薬が抜けたらすぐに元気になるだろうとのことだった。よかった。

 碌な食べ物を与えられていなかったためか痩せていたので、栄養のあるものをたくさん食べさせてあげよう。

 その日は疲れて獣舎で眠ってしまった。

 

 翌日、どうやら歩けるようになった猫の神獣様に顔を舐められて目を覚ます。

「おはよう、薬が抜けてきたのかな?朝ごはんは食べられそう?」

 神獣様は嬉しそうににゃーんと鳴いた。いきなりお肉の塊をあげても大丈夫だろうかと思った私は、厨房に行くことにした。神獣様はなぜか私に体をこすり付けるようにしてついてくる。助けた感謝のしるしだろうか。

 厨房内には入っちゃだめだよと言うと素直に従ってくれた。

 厨房で朝食の準備をしていた隊員に許可を取ると、私は肉と野菜を煮込んだ具沢山のスープを作った。これなら弱った胃にも大丈夫だろう。

 神獣様に差し出すと、夢中になって食べている。よほどお腹が空いていたのだろう。綺麗に作った分を平らげてくれた神獣様を撫でると、私は今日の仕事を始めようとする。

 しかし、神獣様は私から離れてくれなかった。怖い思いをしたから心細いのだろうか、いったいどうしよう。

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