第14話 夢の正しさ

 お兄様に聖獣様の相棒ができた。

 そのニュースは一気に社交界のみならず市井にまで駆け巡った。聖獣様に認められた王太子など前代未聞だ。人々は喜びと共にこれでこの国も安泰だと言った。

 お兄様は馬の聖獣様にシャーロックという名前を付け、普段の世話は私がすることになった。外に出る時はシャーロックに乗るか、馬車をひかせるということだ。

 

 お兄様が聖獣様に認められたことで、私にはある疑問が浮かんだ。

 夢の内容は本当に正しいのかというものである。お兄様と話していても思った。聖獣様に認められるほど善良なお兄様が、いくら聖女に嫌がらせをしたからと言って妹を火あぶりにするだろうか。

 トロイもそうだ。久しぶりに会ったトロイは私が知っている昔の優しいトロイと何ら変わりなかった。ギフトのことがあるから警戒するしかないが、これが夢の中の冷たいトロイに変わるとは思えなかった。

 夢の中の私は、聖女に大したことはしていない。別に殺そうとしたわけでもない。ただその行動を批判して軽い嫌がらせをしただけだ。それなのにこの国で一番重い刑に処したのだ。

 私は夢の内容を疑い始めた。何か裏があるのかもしれない。今後気を付けて生活しようと思う。

 

 その日はいつも通り平和だった。

 神獣様方は広場で日光浴したり駆けまわったり、騎士達はそんな聖獣様を見守っていた。私もプルメリアもすっかり隊になじんで、順風満帆だった。

 しかしそんな時、こちらに向かってくる大きな馬車があった。

 お兄様かなと思って首をかしげていると、隊舎の前で馬車が止まる。

 中から出てきたのは愛妾の息子のシドニーだった。

 隊長がいち早く近づいて用件を聞く。

「保護隊に何か御用でしょうか?」

 シドニーはあたりをきょろきょろと見回すと、隊長を無視してスノーの方に向かった。

「こいつにする。明日までに私の庭に連れてこい」

 みんなポカンとしてシドニーを見る。こいつは一体何を言っているのだろう。

「おっしゃる意味が分かりません。聖獣様はペットではありません。承服いたしかねます」

 隊長が顔をしかめながら言う。

「何だと!?ジャロンにはくれてやったのだろう!なぜ私だけ拒む。王に言いつけるぞ!」

「王太子殿下は聖獣様に認められて相棒となったのです。くれてやったわけではありません」

 隊長は強かった。シドニーはまだ十歳の子供だ。怒ったところで怖くはない。王に言いつけられたところで、こちらは教会に言いつければいいだけの話だ。聖獣様をペット扱いなど、教会から破門されてもおかしくはない。教会から破門された王子など笑い話にもならない。

「なら問題ないだろう。私は王子だ。いずれ王になる。認められないはずがない」

 なんだかすごい言葉を聞いた気がする。王になるのはお兄様だ。決してシドニーではない。というかこいつの王位継承順位は私やトロイより下だ。愛妾の息子なんだから。愛妾は子供にいったいどう話をしているのだろう。

「では聖獣様に問いましょう。殿下をお認めになりますか?」

 隊長はスノーに言った。スノーは尻尾でシドニーを打ち付ける。体の軽いシドニーは吹っ飛んでいった。

 誰もシドニーを助け起こさない。シドニーはよほど痛かったのだろう、ぎゃんぎゃん泣きながら起き上がった。

「どうやら認めていただけなかったようですね。お帰り下さい。そして今日のことは私から王に抗議し、教会にも報告させていただきます」

 隊長はシドニーを馬車に押し込むと、馬車の周りにいた使用人や御者に目配せする。

 彼らはまともなのだろう。申し訳なさそうに去っていった。

 

「王は今回のことも庇うつもりだろうか……」

 隣でダリアスが憂鬱そうにつぶやいた。十中八九庇うだろう。それで教会との関係が悪くなったとしても。

 しかし私は不思議だった。夢の中で、シドニーとクリスティナは聖女と仲が良かったのだ。だからシドニーは信心深い子なのだと思っていた。でも今の光景を見る限りでは信仰心など欠片も無さそうだ。いったいどうなっているのだろう。

 

 私が考え込んでいると、ダリアスが心配そうにのぞき込んできた。

「大丈夫か?また王がマドレーヌに庇ってくれるように頼んでくるかもしれない。クリスティナ殿下の時もそうだったんだろ?」

 ああ、ありそうだと私はげんなりした。絶対に庇ってなんかやるもんか。シドニーは私の相棒を連れて行こうとしたのだ。むしろ教会に破門されるように働きかけたいくらいだ。

 というか王はいい加減シドニーとクリスティナにちゃんと勉強させてほしい。二人とも勉強が嫌だと泣いたから王は教師を首にして、未だに代わりの教師を付けていないのだ。ちなみに理不尽に首になった教師のフォローはお母様がした。

 王が甘やかしたせいで二人はどんどん常識しらずのお馬鹿者に育っている。

 今後も何か起こりそうだなと、私はため息をついた。

 

 

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