第13話 引きこもりの妹 ~ジャロン~
私には引きこもりの妹がいる。
その妹が最近聖獣保護隊に入隊したので心配が絶えない。しかし妹はこちらの心配をよそに入隊後は手紙一つよこさなかった。
訓練で疲れ果てているのだろうか。慣れない環境で一人で大変だろう。孤立してしまっていないだろうか。
私は我慢ができなかったのでこちらから会いに行くことにした。同じくマドレーヌを心配していた、いとこであるトロイを誘って、二人で聖獣保護隊の隊舎を訪ねる。
「お兄様、トロイ。今日はどうしたの?」
久しぶりに会った妹は少したくましくなったように見えた。トロイも驚いている。
「全く連絡をよこさないから心配になって来たんじゃないか。ここでは上手くやれているか?」
「ごめんなさい、忙しくて……ここでは毎日がとても楽しいの。時間があっという間に過ぎるのよ」
そういうマドレーヌの言葉に嘘は無いように思えた。
「二年ぶりですね、マドレーヌ。ずっと心配していました」
「ありがとうトロイ。手紙もちゃんと読んでいたわ。あまり返せなくてごめんなさい」
「気にしないで下さい。元気になって何よりです」
簡単に挨拶すると、マドレーヌは応接室に案内してくれた。
「なんだかいい香りがするね」
部屋の中には美味しそうなにおいが漂っていた。
「パンを焼いたの。お兄様達にも食べてもらいたくて」
そういえばマドレーヌは料理のギフトが覚醒したんだった。聖獣様に気に入られる料理がどれほどのものか、私は興味があった。
マドレーヌが紅茶を入れてくれる。いつの間にそんなことができるようになったのだろう。昔から大人しくて私の後ろに隠れているような子だったのに……。きっと頑張って覚えたんだろうな。
マドレーヌはパンと一緒に紅茶を出してくれる。紅茶にパンは合わないと思うが、妹の作ったものだ、いただくとしよう。
パンに手を伸ばすと、その柔らかさに驚いた。これは本当にパンなのだろうか。
ちぎって口に入れるとほのかに甘く美味しかった。これなら紅茶にも合うだろう。
「これは本当にマドレーヌが作ったのですか!?」
トロイが驚きの声を上げる。私も同じ気持ちだった。
「ギフトのおかげで作り方がわかるの。新しい料理を作るとみんな喜んでくれるから楽しくて」
どうやら
「お母様と叔父様にも食べていただきたいから、お土産に持って帰ってくれるかしら」
「きっと母上も喜ぶよ。こんなに美味しいパンなんて食べたことがないからね」
褒めると嬉しそうに妹は笑った。こんな妹の笑顔、久しぶりに見た。少し前まで触れたら壊れそうな顔をしていたのだ。
「そうだ、カリーヌとモーリスも心配していたよ。今度兄弟みんなで集まってお茶会でもしようじゃないか」
「でしたらその時はとっておきのお菓子を作りますわ。お母様がたくさんの最新の調理器具を取り寄せて下さったので作りたいものがたくさんあるの」
「他に欲しいものは無いのかい?私もこんなに美味しいものが食べられるなら協力を惜しまないよ」
おどけた調子で言うと、妹は金物職人を紹介してほしいと言った。なんでもお菓子を作る型が足りないから特注したいとのことだ。
私は王都のメインストリートにある王室御用達の金物屋の紹介状を書いた。
「費用は私のツケしてくれてかまわないよ」
「もう、お兄様、甘やかしすぎです。私だってお金は持ってるの。王からのプレゼントは全て換金していたから。たくさん」
その発言にトロイが噴き出した。
「換金していたんですか?とてもいいことだと思いますよ。王はもっと思い知るべきです」
「きっと王は自分の贈り物をマドレーヌが身に着けたことが無いことにも気づいていないだろう、王いわくマドレーヌも
妹は顔をゆがめて嫌そうにしている。王が送って来た手紙の内容はひどかったらしいからな。とにかくクリスティナと仲直りしろの一点張りで、笑いながら殺されかけて仲直りもなにも無いだろうに……王はそのことには気づいていないようだった。
私達がクリスティナにも兄弟の情を持っていると信じて疑っていないのだ。実際はまるで悪魔のようだと思っているのに。
何はともあれ妹が元気そうでとても安心した。
「そうだ、マドレーヌの相棒にも挨拶したいのだが、可能だろうか?」
「スノーなら今は広場で遊んでいると思うわ。行きましょうか」
外に出ると聖獣様と騎士達が居た。騎士達は私達に向かって礼をする。
それに楽にしてかまわないと返すと顔を上げる。団長がこちらにやって来た。
「王太子殿下、トロイ殿下、ようこそいらっしゃいました」
「そう畏まらなくてよい、妹の相棒に挨拶に来ただけだ」
そう言うと、ではごゆっくりと言って下がってゆく。妹がドラゴンを連れてやってきた。かっこいいな。
「私の相棒のスノーです。かっこいいでしょう?」
「マドレーヌの兄のジャロンと申します。この国の王太子です。スノー様、妹のことをどうかよろしくお願いします」
そう言うと、スノー様は頷いたように見えた。そしてある方向に視線を向ける。
そこには大きな馬の聖獣様が居た。その聖獣様は私に近づいてくる。そして頭を下げた。なんだろうか?
「すごいお兄様!聖獣様に相棒として認められたみたい!」
妹が興奮気味に言う。私は茫然とした。
「私は聖獣保護隊には入れない、王太子だからな」
そう言うと、わかっているとでも言いたげに馬の聖獣様は頷いた。
妹に会いに来ただけなのに、聖獣様に気に入られてしまった。私はこれからどうしたらいいのだろうか。
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