第11話 料理改革
皆が帰って来た時にすぐにパウンドケーキを食べられるように準備していると、森の中から沢山の聖獣が走ってきた。みんな先輩達の相棒だ。
スノーが咆哮でみんなを止める。
「あれ?先輩達は?」
私が不思議に思って聞くと、聖獣様方はそろってばつの悪そうな顔をした。
……まさか置いてきたのだろうか。
その時、森の中から先輩達が走って来た。
「おーい、突然走り出してどうしたんだ!?」
緊急事態だと思ったのだろう、副隊長達は抜刀していた。
スノーが呆れた顔をしている。
多分パウンドケーキの匂いがしたから走って来ただけなんだろうな。
真相を知った副隊長達も呆れた顔をしていた。
「ロドリー、お前俺を置いていってまで菓子が食べたかったのか?」
副隊長が相棒の蛇のロドリーに問う。ロドリーはひたすら顔を背けていた。
聖獣保護隊の仕事はその名の通り聖獣を保護することにある。聖獣は自然界で突然普通の動物から生まれてくるのだ。ドラゴンだけは個体全てが神の使いなので例外だが、今は割愛する。
聖獣は心無い人間に狙われる。この世界に魔法は無いけど、怪しげな宗教団体には聖獣は魔術的な材料になると信じているものもある。
邪悪な人間に捕まる前に聖獣を保護してしまおうというのが聖獣保護隊である。現在四十匹ほどの聖獣がこの保護隊で暮らしている。
国中から集めたにしては少ないと思うだろう。実際それくらい珍しいのだ。だからこそ希少価値も跳ね上がる。
私達は気を取り直してティータイムの準備を始めた。
シナモン先輩達が相棒のいない聖獣様を獣舎から出してきてくれる。隊舎の前の広場に敷物を敷いて、それぞれが平等にケーキを食べられるように並べる。じゃないと喧嘩になりそうだったからだ。スノーが今にも飛びつきそうな聖獣達をけん制してくれている。
食べていいと合図を出すと、みんなすごい勢いでケーキを食べだした。これだけ喜んでもらえると作った側も嬉しい。
聖獣様達を広場で遊ばせたまま、人間達も食堂に行ってケーキを食べる。
みんなに手料理を振る舞うのは初めてだから緊張した。
なぜか食べる側も緊張しているように見えた。みんな恐る恐る口に入れている。
「うっま!」
誰かがそう言うと、みんな夢中になって食べ始めた。みんなが美味しいと声をかけてくれる。私はホッとした。
「こりゃあ今日の夕食当番も楽しみだね。美味しいものを作ってよ」
シナモン先輩が私の肩に手をまわして頭を撫でる。
そう、私は今日初めての食事当番だった。この隊では食事当番が夕食と翌日の朝食をまとめて作る。一日に二食だ。
実はお菓子を作っている時に少し仕込みをしておいた。同じく今日の食事当番であるダリアスもいたので手伝ってもらった。
ティータイムが終わって聖獣様達と一緒に駆けまわると、すぐに夕食の準備の時間になった。
今日の夕食はダリアスとアントニオ先輩が一緒の当番だ。
メニューは私の独断で決めたが二人とも異論は無いようだった。
「楽しみだな、料理のギフト持ちが作る料理なんて」
アントニオ先輩は力自慢でムキムキマッチョだ。食事も人一倍食べる。満足してもらえるように頑張ろう。
私はアントニオ先輩に大量のひき肉づくりをお願いした。機械のハンドルを回すのがちょっと大変だけど頑張ってほしい。
ダリアスには野菜をたくさん切ってもらう。
私も一緒に野菜を切ると、頃合いを見て野菜たっぷりのスープを作る。味付けはシンプルに塩だけだけど、細かくした干し肉を入れることで野菜と肉のうまみが染み出したスープにした。
野菜を切り終わったダリアスにオーブンの火入れを頼み、アントニオ先輩に合流する。大量のひき肉に卵と玉ねぎを加えて先輩に練ってもらう。そう、作るのはハンバーグだ。
三人で一生懸命大量のハンバーグを作る。絶対お代わりする隊員が多いので重労働だ。
「すごいな、いつも肉は焼くだけだから、こんな風にしているのは見たことが無い」
それでよく飽きないなと私は思う。平民の食事はきっとそんなものなのだろう。
「最高に美味しくなりますから楽しみにしていてくださいね!」
ハンバーグが完成するとオーブンに入れて焼いてゆく。
その間に昼間仕込んでおいた赤ワインのソースを温める。パンにもつけて食べられるようにユルめに作った。
そうしていると、食堂に隊員達が集まってくる。
ちょうどハンバーグが焼き上がりだ。盛り付けて渡すと見慣れない肉の塊に驚かれた。渡す直前にチーズを削ってかけてやると歓声が上がる。
先んじて食べた隊員がすぐにお代わりを要求してくる。だんだん足りるか不安になって来た。
「ちょっと、これ美味しすぎ!もっとチーズたっぷりかけて!ほんと、どうやってこんなの作ったの?」
シナモン先輩がハンバーグを二枚、お代わりを要求しながら聞いてくる。アントニオ先輩の筋肉のおかげですと言っておいた。人によってはスープがハマったようで何度もお代わりする人がいた。
「すごいね、マドレーヌ。みんな毎日マドレーヌに作ってほしいって言いだすんじゃないかな」
ダリアスの言う通り、ほんとにそうなりそうでちょっと恐ろしい。
みんなに少しずつレシピを教えていくことにしようと思った。
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