第8話 入隊日
「マドレーヌ殿下。ギフトとは女神様に寵愛された証です。その者の人生をより豊かに、幸福にするために与えられるものです。でももし覚醒したとしても使い方を間違えてはけませんよ。間違えてしまったらギフト自体を剝奪されてしまいます。そしてこれまでの代償を支払わなければならなくなるでしょう」
先生が引きこもりの私に説明してくれる。久しぶりに、私は前世ではない過去の夢を見ていた。
先生はそう言ったけど、そのころの私は半信半疑だった。だって毎日火あぶりになる夢を見るのだ。本当に私は女神様に愛されているのだろうか。先生の言葉を信じられなかった。
でも今は少しだけ女神様に感謝している。女神様が与えて下さった過去視のおかげで、聖獣保護隊に入隊できて、火あぶりを回避できたのだから。
今日は待ちに待った入隊日だ。私はワクワクして早く起きてしまった。完成した隊服を纏い、自分で身支度を整える。
自分の居住区の扉の前に立つと、乳母やメイド達が見送ってくれた。辛くなったらいつでも帰ってきていいと言われて涙がこぼれそうになる。
私はみんなに手を振ると、歩いて聖獣保護隊の隊舎に向かった。
隊舎に着くと、門の前で団長が待っていた。
「早かったな、マドレーヌ」
「おはようございます、隊長」
隊長の横の木には大きな鷹の聖獣様が止まっていた。
「あいつは私の相棒のグラスだ、早めに名前を憶えてやってくれ」
私は挨拶のしるしに昨日大量に焼いたバタークッキーを差し出す。
グラスは嬉しそうにそれを食べてくれた。
「そういえば隊員達にお前が王女だと言ったのだが、事情を知ってほとんどがお前に同情していた。気にしていたほどの拒絶反応は無いようだから、安心しろ」
隊長の言葉に私はホッとする。あまり気を使われないように仕事を頑張ろう。
「最初は平民のふりをして入隊するつもりだったと聞いて仰天していたぞ。王女なのに無茶が過ぎるとな」
どうやら聖獣様が選んだ隊員達はあまり身分を気にしない人が多いらしい。元々幅広い身分の人が選ばれているからだろうか。
「わー、遅れてごめんなさい!」
大きなカバンを持ったプルメリアが慌てて走ってくる。まだ待ち合わせ時間になってないから大丈夫なのにな。
「おはようプルメリア、今日からよろしくね!」
「おはようマドレーヌ!一緒に頑張ろうね!」
隊長は私達を見てほのかに笑った。
「新人が入ってくるのは三年ぶりだ。きっと可愛がられるだろう。まずは部屋に案内する」
二人で隊長の後をついてゆくと隊舎とは別の建物にたどり着く。こちらが宿舎なのだろう。
「女性は二階、男性が一階だ。部屋に荷物を置いたらすぐに他の隊員に紹介に行くぞ」
部屋はこぢんまりとしているが使いやすそうな部屋だった。王女である私にとっては驚くほど小さな部屋だが、夢の中では見たことがある。ワクワクとした表情を変えることもなく荷物を置いた。
隊長は私の様子を見ていたが、不満が無い様で安心したらしい。むしろ楽しそうな私を見て不思議がっている。
「貴族出身のやつは大抵部屋の狭さに驚くんだがな」
私は元気に予習済みです!と返した。
「え?マドレーヌは貴族なの?」
プルメリアが驚いたように声を上げる。
「私はこの国の第三王女だよ」
つい軽く言ってしまった。みんな知っているのにプルメリアだけ知らないのもなんだかズルいと思ったからだ。
プルメリアは呆けていた。いきなり言われても処理しきれないんだろう。
「え?冗談でしょう?」
プルメリアは私と団長を交互に見た。冗談じゃないとわかると青ざめる。
「わ、私今まで大変な失礼を……!」
私はプルメリアの手を取って言った。
「私は王女じゃなくてただのマドレーヌとしてこの隊に入って来たの。急に態度を変えないでほしい。私はもうプルメリアのことを友達だと思ってるから」
そう言うと。プルメリアは目を見開いた。
「……わかった。急に言われて驚いたけど。私もこれからもマドレーヌと仲良くしたい」
プルメリアは理解してくれた。それだけで私は嬉しかった。
隊長について外に出ると。そこにはたくさんの騎士達と聖獣様達が居た。視線が集中して緊張する。
持っていたクッキーに気が付いたのか、聖獣様達が猛烈な勢いで走って来た。
あ、まずい逃げなきゃと思った時、スノーの咆哮が響き渡る。
聖獣様達はぴたりと止まった。
私の目の前にスノーがやってくる。私はありがとうと言うとスノーにクッキーをあげた。
スノーが満足そうに私の後ろに回ると、聖獣様達が今度はゆっくり歩いて近づいてくる。私はみんなにクッキーをあげた。ついでにもふもふさせてもらうのも忘れない。
ふと視線を上げると、隊員達が茫然としてこちらを見ていた。
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