第6話 余計なお世話
入隊試験の次の日、私は隊長と副隊長に身分を隠して入隊試験を受けたことを謝りに行った。母が隊長と副隊長には身分を伝えておいた方がいいと言ったからだ。
そしてあくまで一隊員として扱ってほしいとお願いする。隊長と副隊長は頭を抱えていた。
「まさか本当にマドレーヌ王女殿下であらせられたとは……」
本当に申し訳ないと思っている。王女が部下になるなんてやりにくいにもほどがあるだろう。
私は他の団員達には身分を隠してほしいとお願いした。そしてもし私が任務中にケガをしたとしても一般隊員の時と同じ責任しか追及しないと念書を書く。
そこまでして私の本気が伝わったのだろう。隊長達は昨日の様にフランクに接してくれるようになった。
「ついでだ、入隊日までまだ先だがドラゴンにも挨拶していくといい、というか早めに名前を付けてやれ」
そうか、パートナーには名前を付けるのか。私はどんな名前にしようか考えた。
美しい白銀のドラゴンだからスノーにしよう!気に入ってくれるといいな。
案内されて獣舎に入ると、ドラゴンがこちらにやって来た。
顔を私に近づけて頬ずりをしてくる。なんてかわいいんだろう。
「昨日はちゃんと挨拶できなかったわね。私はマドレーヌ。あなたの名前はスノーにしようと思うの、どうかしら?」
スノーはぐうと鳴くとさらに私に顔をこすりつけた。気に入ってくれたようだ。素敵な相棒ができて嬉しい。
私はその日はそれだけで部屋に戻った。入隊日までに宿舎に移る準備をしなくてはならないからだ。
乳母は部屋から通えばいいと言ったが、神獣保護隊の宿舎は城の敷地の中でも王家所有の森に近いところにある。結構遠いのだ。毎朝馬車で通勤するのもはばかられる。だから宿舎に入ることにした。
私は王女だから身支度を自分でしたことが無い。身支度を整える練習もしなくてはならないだろう。
私は見続けた過去の夢のおかげで一人で暮らすことに抵抗が無かった。
そんな時だった。突然王から手紙が届く。私はいつも通りそれを見ることなく燃やした。
そして準備に明け暮れる。
その二日後の夜のことだった。王から突然の使者が来た。
「マドレーヌ王女殿下。なぜいらっしゃらないのでしょう。今日は殿下の聖獣保護隊入隊を祝うパーティーですのに」
初耳である。この間届いた手紙に記されていたのだろうか。というか私は平民のふりをして入隊したいのだ。そんなパーティーは今すぐにやめるように使者に言った。
「そんなことはできません。すでに全貴族宛に招待状を出しています」
貴族全員に招待状を出したということは、聖獣保護隊の隊員にも私が王女であるとバレるということだ。
私は使者を待たせ、王に恨み言を綴った手紙を書いた。余計な事すんなという内容である。そして使者に渡す。
パーティーには絶対に参加してやるもんか。
使者は私を連れて行こうと粘ったが、乳母やメイド達が追い返してくれた。
聞いたところ、母や兄達も私が行かないなら参加する気が無いらしい。
祝いのパーティーに祝われる本人とその家族が居ないのだ。王の面目は丸つぶれだろう。いい気味だ。
それにしてもどうしようと私は考える。折角平民のふりで入隊しようと思ってたのにこのままでは保護隊の人達に気を使わせてしまうだろう。
まず隊長と副隊長にお詫びの手紙を書こう。折角平民としての入隊に協力してくれると言ったのに、無駄になってしまったと。
でも王女として扱う必要はない。他の隊員にもそう伝えておいてほしいと。
少しわがままが過ぎるだろうか。私は入隊試験に合格した日から、毎日見ていた火あぶりになる夢を見なくなっていた。すると心に余裕ができて、自分がどれだけ周りの迷惑を考えていなかったか思い知った。それでも母も兄弟も、私のことを心配し私のために力を貸してくれたのだ。
隊長達は王女に逆らえなかっただけかもしれないが、それでも優しくしてくれた。
あまり周囲に甘えすぎれば、また火あぶりになる未来が再来するかもしれない。私はなるべくいい子でいなければと考えていた。
苦心しながら手紙を書いて隊長と副隊長に届けてもらう。明後日はいよいよ入隊日だ。これから未来はどう変わってゆくのだろう。私はギフトが覚醒してから初めて、少し楽しみになった。
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