第5話 父との戦い
マドレーヌが居住区に戻ると、大騒動になっていた。
「王女殿下!いったいどこにいっていたのですか?」
乳母のアリアが涙ながらに縋り付いてくる。
そう、私はこのバーレス王国の第三王女である。二年も引きこもっていたため引きこもり王女と呼ばれているらしい。引きこもった経緯が経緯だけに多くの貴族に同情の目で見られているが、馬鹿にする者もいる。
「マドレーヌが見つかったのね!ああ、よかった」
奥から母親である正妃と姉であるカリーヌが泣きながら走ってくる。私は少し悪いことをしてしまった気分になった。でも私の命がかかっているのだ、大目に見てほしい。
「マドレーヌ、どこに出かけていたんだい?その恰好はいったい?」
兄で王太子のジャロンが訝し気に尋ねてくる。兄の陰では同腹の弟で第三皇子のモーリスが心配げに私を覗いていた。
私は正直に聖獣保護隊の入隊試験を受けて合格したのだと告白した。
「聖獣保護隊!?なんでまたそんなことを……」
「お父様の命に従って、国のために使われるのが嫌だったからです。私は自分の道を自分で切り開きたいのです」
私は用意していた言い訳を口にする。
すると、兄達はいいように取ってくれたらしい。協力すると申し出てくれた。
実は正妃である母と父の仲は良くない。
母は隣国との友好関係を結ぶために、隣国から嫁いできた姫だった。力関係は隣国の方が上だ。
父には一人だけ愛妾が居た。最愛の女性であるという。母は最初は特に気にしていなかった。父は母を蔑ろにしたことなどなかったからだ。
しかし私が愛妾の娘に湖に突き落とされてから、状況は一変した。
愛妾の娘であるクリスティナが笑いながら私を湖に突き落とす姿は、多くの人に目撃されていた。
母だけでなく多くの貴族もクリスティナを幽閉すべきだと主張した。しかし父は、クリスティナを庇ったのだ。たった数か月の謹慎処分で済ませた。
それを聞いた隣国との関係が悪くなっても、父はクリスティナを庇い続けた。
世間では、私は父親に裏切られたから引きこもったと言われている。
私が引きこもったことで、父の旗色はより悪くなったらしい。
父は私が引きこもっている間、手紙や贈り物を送ってきたが、手紙は燃やして贈り物はすべて換金した。
最初の手紙に「お前も姉が幽閉されるのは嫌だろう?仲直りしてくれ」と書かれているのを見て気持ち悪くて見る気を無くしたのだ。
私は殺されかけたのである。それなのに仲直りなどと口にする父を許容できなかった。
「安心してマドレーヌ、私が必ず王の好きにはさせませんから、早速王の所に釘を刺しに行きましょう。私がサポートしますから、あなたは自分のやりたいことをやっていいのよ」
母が私を励ましてくれる。いつか火あぶりになって、この慈愛に満ちた目もむけられなくなってしまうのかと思うと素直に受け止められなかった。
私はドレスに着替えると、母達と同腹の兄弟達と共に謁見の間に向かう。一人で戦うつもりだったので心強かった。
「おお!お前達、久しぶりだな!今日はどうした?」
父は大げさに私達を歓迎した。関係を修復しようと必死なのだろう。
「今日はご報告があってまいりました」
母が扇子で口元を隠したまま言う。
ご報告という言葉を使うあたり王の意見を聞く気は全くないのだろう。
「
母が副隊長に書いてもらった合格証明書をちらつかせて言う。
王は固まった。聖獣保護隊は騎士団の中にありながらどちらかというと教会の管轄だ。面倒くさい立場の隊なのだ。王の威光も聖獣保護隊には届かない。
貴族の信用を失った今、その原因となった私に逃げられると面倒なことになる場所だ。
「ならん、それだけは絶対にダメだ。姓を捨て教会に入るようなものではないか!それにマドレーヌはギアムのせがれとの婚約が内定している。将来は公爵夫人になるのだぞ。そちらの方がいいだろう」
「あら、人殺しの娘は自由にさせるのに、マドレーヌには命令に従えとおっしゃいますの?マドレーヌはそんなこと、望んでおりませんよ」
「クリスティナは人殺しなどではない!」
その一言が、母の逆鱗に触れた。
「そうですか、それでは私はこの子たちを連れて実家に戻らせていただきます。この国にこの子達の幸せは無いようですので」
王は焦った。隣国に帰られたら間違いなく戦争になる。今急成長している隣国と戦って勝てるわけがないのだ。
「わかった。認める。認めるからそれだけはやめてくれ!」
母は鼻で笑うと私に言った。
「さあ、言質はとったわ。行きましょう」
私の背を押すと、母は振り返って謁見の間を後にする。兄弟達もそれに続いた。
どうやら私が引きこもっている間に父と母の関係は思っていた以上に悪化していたらしい。
母は部屋を出る前に一度振り返る。
「そうですわ、くれぐれも
私は母のおかげで父とバトルする必要が無くなって肩透かしを食らっていた。本当に予知夢の様に、母が私に冷たい目を向ける日がくるのだろうか?私は少し夢の内容を疑った。
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