第4話 聖獣保護隊にて
「そうか、そこまで言うならいいだろう。私は副隊長のカルミン・メディス。君の名は?」
「マドレーヌと申します」
名前を名乗ると、副隊長は軽く目を見開いた。しかし、彼はその名前の意味するところに気づかなかったらしい。まさか
「彼女は先ほど合格したプルメリアだ。君の同期になる」
「プルメリアです。よろしくお願いします!」
私はプルメリアにも挨拶すると、笑いあった。彼女は私より一つ上の十三歳らしい。
いい子そうで安心した。
「そうだ、副隊長。お願いがあるのです」
私は居住まいを正して副隊長に向き合った。
「なんだ?」
「実は、試験を受けることを家族に話していなくて……きっと合格したと信じてくれないと思うので、合格だと一筆いただきたいのですが……」
「ああ、わかった。ついでにプルメリアの分も書こう。合格したら宿舎住まいになるんだ。書いた方が家族も安心だろう」
副団長は紙を持ってくるとさらさらと署名してくれた。あとでひと悶着あるかもしれないが、巻き込んで申し訳ないと思う。
その後は和やかに雑談して過ごした。今回の合格者はたった二人だけだったらしく、プルメリアと一緒に驚いてしまった。
ノックの音がして、新たに茶髪の騎士が部屋に入ってくる。
「今回の合格者は二名か。私は隊長のサイモン・キースだ。君達を歓迎しよう」
私達はそれぞれ名乗る。隊長は私の名前に少し反応したが、それだけだった。
「マドレーヌといったか、まずは君のことを何とかしたい。聖獣騎士団では本来、気に入られた聖獣を相棒として仕事をするんだが、君の場合は多すぎる。早急に一番相性の良さそうな相棒を決めてほしい」
そう言うと建物から出て先ほどの広場に案内される。
そこには相棒の決まっていない聖獣様がみんな揃っているという。プルメリアも興味があるのかついてきた。プルメリアの相棒になったウサギの聖獣様が横にぴったり並んでついてくる。可愛い。私も可愛い相棒ができるといいな。
広場に着くと、なにやら騒がしかった。どうやら聖獣様達が喧嘩しているようだ。
「なんだ?いったいどうした?」
隊長も困惑している。
聖獣同士は言葉が通じると言われている。恐らく様子からして口喧嘩だろう。マドレーヌが顔を出すと、複数の聖獣様がすごい勢いで近づいてきた。さすがに怖い。
聖獣様達は私に体をこすり付けて揉みくちゃにする。息ができない。
どうしようと焦っていたら何やら咆哮が聞こえた。
聖獣様達が私から離れてゆく。やっと視界が開けて安堵する。
目の前に居たのは、大きな白銀のドラゴンの聖獣様だった。
私は思い出す。聖獣保護隊には一頭だけドラゴンが居るのだ。生まれたての頃に密猟者に捕まったところを聖獣保護隊に保護された。それ以来百年近くにわたり出ていくこともなく聖獣保護隊に居てくれる。聖獣保護隊の守り神のような存在だ。
ドラゴンは私に顔を近づけた。なんてかっこいいんだろう。私は余っていたクッキーをドラゴンに差し出した。
それを食べたドラゴンは、なにやら納得したように頷いた。そしてまた咆哮する。他の聖獣達はとたんに大人しくなった。
ドラゴンが鼻先を私の手にこすり付けてくる。私はすべすべとした鱗を撫でた。
もふもふもいいけどドラゴンもひんやりしていい手触りだった。
「まさかドラゴンが相棒になるとは……」
隊長と副隊長がそうつぶやく。私の相棒はドラゴンになったらしい。
「恐らく皆が相棒になりたがったから、喧嘩を止めるために立候補したのだろう」
ドラゴンは聖獣達の中でも一目置かれているのだという。そっか、さっき揉みくちゃにされたのは相棒希望だったのか。
前世のお菓子パワーは絶大だったらしい。みんなやっぱり美味しいものが食べたいよね。
「隊長、私みんなにお菓子を作ってあげたいです。喧嘩にならないように全員分」
隊長は苦笑した。
「入隊したらそうした方がいいだろうな。頼むぞマドレーヌ」
「はい、任せてください!」
おそらく入隊までにはひと悶着あるだろうが、マドレーヌは楽しみだった。何が何でも入隊して見せると、父親の顔を思い浮かべながら闘争心を高めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。