第2話 目的地へ
*「」はすべてヒロインの台詞です。
「むむむ……思ったよりバスが遅れてますね……」
最寄りのバス停で時刻表と睨めっこしているめぐりを見ながら、次に乗る新幹線の時刻を確認しておく。
幸い、新幹線までにはかなり余裕がある。30分も遅れなければ、予定に支障はないだろう。
「早朝だからって職務怠慢ですよっ、ぷんぷんっ。やっぱり早めの集合にしといて正解でしたね……危ない危ない……」
勢いよく椅子に座りながら、めぐりは頬を膨らませる。他の女性と違って化粧っ気はないが、それでも女の子だ。
遠出ということもあってか、めぐりはそれなりにお洒落な恰好に変わっていた。
起きた瞬間は上下ジャージだったというのに……。
8月もそろそろ終わりとはいえ、まだまだ暑い。事前にコンビニで買っておいたペットボトルをめぐりに渡す。
「あ、ありがとうございます。ちょっと走っちゃったので、汗かいちゃって……。んくんくっ……ぷはぁ……生き返るぅ……。ん、おかげさまで落ち着きました。お、バス来ましたね」
遅れてきたバスの運転手さんに会釈しながら、交通パスにタッチする。あとは駅まで一直線だ。
「バスが着くまで時間ありそうですし、改めて予定を確認しておきましょう。ええと、このバスを降りたら、新幹線と電車を乗り継いで……まずは海を見ます……」
めぐりはスマホの画面をこちらに見せながら説明してくる。表示されているのは、公式の聖地巡礼用MAPだ。
町おこしに絡んでいるため、その点はしっかり公式が供給してくれている。
聖地巡礼が盛んなのは、そういう背景もあるんだろうな。
「ここは第1話で主人公とヒロインが出会うところなのでかかせませんよね。それで海沿いを歩いていって、荷物を置きつつチェックイン。
まあそこからはふんわりですけど、夕方には港町をぶらり……で、その先に続く神社にお参りという感じです」
指をスライドさせてスクショを見ながら説明してくれる。
「ふっふっふ、完璧な段取りですね。やはり段取りガチ勢……。ここまで考えて安心を得られるというものです。ま、先輩が帰ってくるまで暇だったのもあるんですけど。送っておくので、確認よろです」
バスの車内が混んできたな。予定を確認し終わっためぐりと俺は他愛もない会話を時折交わしつつ、静かにバスに乗っていた。
「とうちゃーく! さてさて、どうします? まだ新幹線まで時間ありますし、そこのカフェで飲み物買っていきましょっか!せっかくの長旅なんでね……へっへっへ……」
泥棒のような忍び足のポーズをしながら、駅前のカフェに寄ろうとするめぐり。
しかし、台詞とは裏腹に頼もうとしているのは一番安価なドリンクだろう。それはこれまでの付き合いからわかっている。
さりげなく好きなものを頼んでいいぞ、と耳打ちをする。
「えっ!? さっそく奢りでいいんですかあ……? せんぱーい……? そんなに私のコト甘やかしてたら、財布の中身なくなっちゃいますよ……? でも、お言葉には甘えちゃいますっ。ふむふむ、私は何にしよっかな~……」
申し訳なく奢られるよりは、こんな風に喜んでくれた方がいい。俺はこういうめぐりの素直に人に甘えられるところがいいと思うんだよな。
「ではではー! 聖地巡礼旅行しゅっぱーつ! あとはここから3時間くらい電車の旅ですか……。あ! もし眠たかったら寝ちゃっていいですからね! 肩貸しますし、全然よりかかっちゃって構いませんから!」
片手に大きめのカップを持っためぐりがニコニコと先導する。
新幹線はすでに止まっており、2時間半近く(残り30分はローカルの各停電車)は乗ってるだけでOKだ。
思った以上にタイミングはばっちりで、自由席も選べるほどに空いていた。うん、そこまで外気を感じずに目的地につけそうだ。
「先輩……楽しみですねぇ……すぅすぅ……」
と俺が眠る前に肩に頭を乗せてきたやつがいるので、結局眠ることは出来ず仕舞いのまま新幹線を過ごすことになった。
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