趣味で繋がった目隠れオタク女子と聖地巡礼旅行する話【こえけん応募】
井坂 鮎
第1話 出発前夜
*「」はすべてヒロインの台詞です。
「先輩おかえりです!」
バイト先から帰り、いつもの鯖に入ると聞きなれた声が聞こえてきた。最近毎日のように通話している
「あれ、私の声聞こえてます?」
「あーあー……。あ! もう先輩ってば聞こえてるなら返事してくださいよう~! マイク壊れちゃったのかと思いました~、ぶーぶー……ってか、帰ってくるの遅くないですか!? 待ちくたびれちゃいましたよ~!」
#報告というチャンネルにいることから察していたが、今日のめぐりは何か伝えたいことがあるらしい。その証拠に、いつも以上に食い気味に話しかけてくる。
「さて先輩。帰ってきた早々ですが、今日は2つの重大なニュースがあります。ふっふっふ~! 聞きたいですよね? 聞きたくて仕方なくなっちゃいましたよね?
へへ……良いニュースと悪いニュースがあるんですけど、どっちから聞きたいです? あ、その前になんですけど。スケジュール通りなら明日は休みで合ってますよね?」
待て待て。
返事を待たず、矢継ぎ早に喋るめぐりに俺はステイする。
「お、おおお落ち着いてなんかいられませんよ! 先輩が帰ってくるまで何度うずうずしたことか! ていうか、もう無理です、我慢なりません! 言っちゃいます! 良いニュースはですね……! な、なんとっ! 例の旅館の予約とれました! じゃじゃん!」
例の旅館というのは俺たちを繋げてくれた『
そう思うのも束の間、予約完了のスクショがめぐりから送られてくる。旅館の名前にダブルルーム。あれ、ダブルとツインって何か違いがあったよな……。
「そう、例の旅館と言えば『
いまやアニメ化も成功して、聖地どころか周辺の宿泊施設全滅まである人気な作品ですからね。本来なら、いまの時期に泊まることなんて出来ません……が……! なんと予約取れちゃったんです! ぱちぱちぱち~!」
めぐりの嬉しそうに手を叩いた音が聞こえる。
でもどうやったんだ? 譲ってもらったとか……?
「ちっちっち、無職のガチファンを舐めてもらっちゃ困ります。一般人は時間は有限ですけど、無職には無限のような時間がありますからね。正攻法で無理なら、物量でゴリ押しをするというのはひとつの定石……。
世の中にはキャンセルという制度があるのは先輩もご存じのことでしょう。ええ、そのもしやです。私は考えました。あれ? 徹夜でF5連打してキャンセル待ちを狙えばいけるんじゃね? と。で、ちょうど試行6時間にして手に入れられたのが、こちらというワケです」
6時間。
……6時間!?
「かかった時間についてはむしろ早い方だと思うので、問題ありません。チケット争奪戦でこのくらいのことは日常茶飯事ですからね」
「で、ここまで言ったら自ずとわかってくれるとは思いますが……。悪いニュースは出発が明日の早朝ってことと、私が超の付くほどの寝不足ってことです……。つまり私1人では寝坊が確実……。でも、先輩が来てくれたら、憧れの聖地巡礼旅行です」
「もちろん優しい先輩はついてきてくれますよね……?」
もう声からして眠そうだ。
予約を取れたことを報告するまで、いまのいままで起きていたんだろう。
「たぶん朝になっても私、机で寝てると思います……。郵便受けに部屋の鍵入れときましたんで、先輩。頑張ったご褒美に、私を連れて行ってください。迎えよろしくです……くか……」
ほどなくして、通話先からめぐりの寝息が聞こえてきた。
いくら俺を信用しているからって、ぶ、不用心すぎるだろ……。
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