11 仮冒険者になる
ウサギを四匹狩ることが出来た俺とミルドさんたちは、シルルテ村に戻って来た。
「ありがとうございました」
シルルの森に狩りに連れて行ってもらえたことについてお礼の言葉を述べる。
「いやいや、こちらこそ助かったよ」
「若い奴と話せるのは楽しかったぞ」
「また今度行く時行くなら、その時話そうな」
三人は、それぞれそう言うと村の中のどこかへ歩いていく背中を見送りながら俺は、見えなくなるまで見送って、借りている家へと戻ることにした。
それから歩き家に着きそうな時、
「それでは冒険者登録の仮試験を始める。まずは受験番号一番、ここに立って、この的を自分がいつも使っている剣を用いて二つに斬ってみろ。制限時間は、十五秒だ」
そんな男性の声が聞こえてきた。
なんだろう?
そう思って気になってしまった俺は、その声の聞こえてきた方向へ視線を移動させる。すると移動させた視線に映ったものは、このシルルテ村の中で見たこともない服を着ている髭をもっさり生やした男性の姿だった。
そしてその男性の他にも、十人くらいの少年少女達が立っていた。普通に気になってしまったので、その近くでそれを見ている人のところへ歩いて行くことにする。
「あの、これって何してるんですか?」
「ん? おぉ! あんたが村の中で噂になってる旅人さんだな。若いのに凄いことしてるじゃないかー」
「あ、はい。ありがとうございます」
俺の質問に答えることなく、なんか楽しそうに話してくる村の男性。
というか、そんなに噂になったらとは思いもしなかったが、旅人じゃなくて異世界人だから嘘ついてる気分にもなってしまう。ある意味旅人でも正解だろうと思うけど。
男性はそのまま続ける。
「あー、それでこれが何なのかって話だったな。これは、王都からこの村に来てくれる冒険者ギルドの職員なんだよ。それでこの冒険者ギルドの職員はこの村で、一年に一回来てくれるんだ。ここに来てしてくれるのは、冒険者ギルドでしか受けることの出来ない冒険者登録の試験を仮の形であるが受けさせてくれるんだ」
そこから男性には長々と説明をしてもらった。
ラノベでの異世界知識はいくつもあるが現実での異世界知識ゼロの俺には、凄く分かりやすい説明になってしまった。
とういうわけで、聞いた話を簡単にまとめてみよう。
難しくまとめてみると、今年冒険者になることの出来るように年齢になった少年少女たちがシルテ様テ村にはいて、でも冒険者登録をするためにはこの村ではできないためどこか遠い場所にある冒険者ギルドから冒険者登録のために職員を呼んで来てもらっているとのこと。
呼んで来てもらうのにお金はかからないのだけれど、この村は一応遠い場所にあるため一年のうちのどこかの月に来てもらうようになっている。
ちなみにいつもは、月の半分になった時……俺の世界でいうところの十二月の半分、六月に来てもらうということだな。
今のが難しくまとめみた感じである。
これを簡単にまとめてみると、今日はこの村で冒険者登録の仮試験があるということだ。
それでなのだが、冒険者に凄く憧れてしまった。だって、中学の頃に将来の夢として俺が持っていたものだし。
「わざわざ、ありがとうございます」
長々と説明を聞いた俺は、礼の言葉を述べる。人間誰しも、お礼を言うことは大事なのだ。
説明をし終わった男性が何かを思い出したかのようにして口を開いてきた。
「そういえば、あんた旅をしてるんだったよな。あんたは、冒険者登録をしているのか?」
親切すぎるのか、それとも俺が冒険者ではないということを、もしくはこの世界のじゅうにんではないことを……いや、中者と後者はありえないか。
親切な男性はそう言って、俺がどうなのかを聞いてきた。
「いえ。残念ながら、冒険者登録はしてないですね」
心を読まれたというわけではないのだが、正直心を読まれてしまったのではないのかと俺は驚いてしまっていた。
いやだって、普通そんなことを聞かないだろう。この村に住んでいた、ということならまだしも、この村には昨日来たばかりである。
それなのに、俺が冒険者登録をしていないということがばれてしまっている? みたいな感じになってしまっている。
まあ、そんなことはまったくもってありえない話だろう。
俺はすぐにそう考えて、今まで考えていた意味不明そうなことを記憶の外へと追いやって忘れようとしたのだった。
「それなら、してくるといいさ」
「出来るんですか?」
「ああ、出来るさ」
「この村に住んでないのにですか?」
「ああ、出来るさ。それで、受ける?」
まさかの予想外の話だった。さすがに冒険者登録の仮試験を受けることはできないだろうと考えていた俺の考えが、今の男性の一言で崩れ去ってしまう。
しかし、この村の者じゃなくても出来るってなんかすごいな。今ので異世界が少し楽しくなってしまった。
「是非受けたいです」
凄く受けたい。だってここ異世界だよ。だって冒険者だよ。
完全に俺の心は異世界単語という不明なもののせいで、完全に逝ってしまっていた。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
ん? マイペース
そういうことなので、興奮しまくっている。流石に心の中でだけで。
「ようし。それなら俺に任せておけ」
男性はそう言うと、冒険者ギルドからやって来た職員のところに行くと、何かを話し始めた。俺はその場に残されてしまっているので、何を話しているのかわからない。
すると何かを話していると、その職員がちらっと俺の方を向いてきた。
一瞬だけだったので確実に目は合っていないのだが、なんというか、凄く睨まれてしまったような気がしたとは俺の気のせいだろうか……。うん、気のせいだろう。気のせいが良い。
たぶんなのだが、俺が受けたいと言ったから、睨んだというのはあれなのだがそういう感じで俺を見てきたのだろう。
なんというか、すまないとは思ってはいるのだが、冒険者の仮登録が出来ると知ったらしてしまいたくなるから仕方ないと思う。だけれども文句は、受け付けておりません。
しばらくして、職員と話をしていた男性が俺の方へ戻ってきた。
「あんた、受けていいだってよ」
おお、本当なのか。
「分かりました。ありがとうございます!」
俺はそう口にして、男性にどこに行けばいいのか言ってきた。というわけで、俺は言われた場所へと向かうのだった。
職員のところに着くと、
「お前が冒険者登録の仮試験に受けたいという旅人ってやつだな。まあ、受けたいのなら受けてもいいのだが、受験番号は最後にするぞ」
「分かりました」
職員から軽く説明をさせられる。
その後俺は仮試験を受ける少年少女たちの横に立った。
「では、仮試験を再開する。次は、受験番号三番」
名前の代わりに受験番号を呼ばれた少女が返事をしてその場で返事をした。少女はそのまま的のある場所に進んで行く。
「それでは、始めなさい」
「いきます!」
職員の開始の声と共に少は的に立てかけてあった剣を握るとそのまま構えて、的に向かって斬りかかって行く。
制限時間は、十五秒。見ているこっちからすると、十五秒はなんというか長い時間と感じてしまうのだが、仮試験を受けている人からすると凄く短い時間なのだろう。真剣に剣を振っているのだから。
「十五、六歳くらいかな?」
俺は横で立っている少年少女たちを見ながら、そう口にした。
確実に俺とは同い年ではないと思う。なんというか、少年少女たちから出ている雰囲気というか、オーラというか、そういうものが十五、六歳ですよ的なものを感じさせてくる。……うん、自分で言っていて意味が全くわからない。
そこから時間は経つのは、早かった。
「では最後の……十三番」
気づいた時には、俺の番になっていた。
「……あ、はい」
俺も一応返事をしてから、試験官のいるところへ行く。
「さっき見ていたから分かると思うが、この的に向かって十五秒間斬りまくれ」
「分かりました」
俺の番が来るまでずっと見ていたので、どうすればいいかくらいは分かる。的のところに立て掛けてある剣を握って、構える。
だが、生まれて初めて握るものだったせいで、
「おい、そんな構えで大丈夫なのか?」
剣を握って構えを取っている俺の姿を見た試験官が、そんな声を掛けてきた。
いや、俺自身も気になって仕方がないのだが、どうすればいいのか全く分からないのである。
「たぶん、大丈夫です、かね」
正直言うと、全然大丈夫ではない。一応旅をしてきたという設定になっているので、剣を握ったことはないのだなということを思われていればいい。
「そうか。分かった」
試験官はそう言って、
「では、開始」
仮試験を始めを意味する開始の声を上げるのであった。その声を聞くと同時に、構えていた剣を的に向かって振るい始める。
始まってから三秒程、正直剣を振っていてこれで良いのかな思い始めてしまっている。
それなら、スキルにある『連続突き』を使ってから、的に向かって剣を振るった方が良いのでは思い始めていた。
……。
…………。
………………。
しかしどうやって『連続突き』を使うんだ? この前ゴブリンを倒した時は、『連続突き』を手に入れた後だったし、その後は一度も使っていない。
「残り、五秒」
そんなことをしている間にも、剣を振るっている俺の耳に試験官のそのような声が聞こえる。
え? あと五秒しかないの!?
剣の振り方を未だに理解しきれていない俺の剣の振り方、実際どのような感じになっているのかが分からない。このまま剣を振るっていても、なんというか、合格出来そうな気がしない。
そんな時だった。
俺の頭の中にスキル『連続突き』の使い方が、浮かび上がったのだ。考えている時間も残っておらず、俺はそのまま頭に浮かんでいる『連続突き』を使ったのだった。
その瞬間、俺の体は何かに導かれるかのようにして剣を振るいにいく。
それはもう、一度も振るったこともない剣を何度も振るってきたかのようにして。
握っている剣を俺は、的に向かって、突き刺していく。何度も何度も何度も、的に穴が開くかのような速さで何度も突き刺していく。
ちなみに、『連続突き』には一度使った時に放つ回数があるので、その回数分終えるとまた『連続突き』を使わないといけない。
そして気が付いた時には、
「終了だ」
仮試験を終えるそんな声が聞こえてきたのだったその声を聞くと同時に俺は途中だった『連続突き』を強制終了させる。
そして的を見て、
「え、これって俺がしたのか……?」
疑問を持ってしまった。何故ならその的には、俺が仮試験を始める前までについていなかったはずの傷などがたくさん、それも数えるのもめんどくさくなりそうな数の傷がついていたからだ。
「さすがだったな」
試験官は俺が的につけた剣の傷を見て、讃頌の声を上げてきた。
しかし、自分でも驚きである。使ったこともなくて、振るったことさえない剣を使ってここまでの傷をつけてしまうことができたのだから。
驚きでいっぱいいっぱいだ。
そこから二つ目の仮試験が始まった。
話を聞くと、続いての仮試験は魔法についてらしい。
だがここで一つの問題が起きてしまった。だって、俺って魔法の使い方なんて知らないのだけれど。そもそも剣の振り方も構え方も知らなかったのだけれどね。
しかし、非常に困ってしまっている。魔法の使い方が分からない以上、仮試験を受けることが出来ない。
要するに、冒険者登録が出来ないのだ。仮ではあるが。仮ではあるのだが、冒険者登録はしていておきたい。
異世界にて男が胸に想うロマンのようなものだから、冒険者登録はしておきたいのだ。
「次は、受験番号七番」
しかしそんなことをしている間にも、どんどん俺への順番は回って来てしまっている。
どうすればいいんだ……!
『困っているみたいだね、ナギル君』
ここで聞き覚えのある、神界でも夢の中でも話した少女の声が俺の頭の中で聞こえてきた。
シルテ様……? けど、どこにいるんですか?
『どこにって、神界に決まってるじゃない。それよりも、魔法が使えなくて困ってるんだよね?』
当たり前のように会話出来てしまっているのは置いておく。
そうですけど。シルテ様は分かるんですか?
『分かるに決まってるじゃない!』
俺の目に映っているわけでもないのだけれども、シルテ様が胸を張って俺に言ってきているような気がしてたまらない。
それなら、教えてくださいよ。
『んー、どうしようかなー』
シルテ様はそう言って、教えてこない。
ということは、対価が必要ということなのか。
『対価……対価ねぇー。そうね、対価を払うんなら、教えてあげる』
シルテ様は乗ってきた。
どういう対価がいいんですか? シルテ様が望むやつで良いですけど。
正直、今はめんどくさい対価を望まれるよりも仮の冒険者登録がしたい。
『んー、今はまだ見つからないから、今度会った時に言うから。なら、魔法を使う方法を簡単に教えるからね』
そう言ってシルテ様は俺の頭の中で魔法の使い方を簡単に教えていく。
それからざっとシルテ様は説明をしてくれた。
『そんな感じかな』
けど、それじゃあ、今から使えないんじゃ……。
『うん。だから今からでも使えるようにするんだよ』
そのシルテ様の声を聞くと同時に頭の中に知らない単語が生まれた。
『火魔法:Lv1』
そんな、魔法を意味しているであろう単語。
俺はステータスを開いて、スキル欄にあるだろうと思う『火魔法:Lv1』を見つけにいく。そして見つけた俺は、意識をしながらしっかり見たいと思う。
すると、
火魔法:Lv1・・・火の魔法を使うことの出来るスキル。Lv1なので使うことの出来る火魔法を少ない。取得条件は、火魔法の魔法本を読むことや火魔法に関することをする。
そんなものだった。
おおぉぉぉ、シルテ様ありがとう!
『いえいえ、対価があるのならこれくらい安いものですから。それよりも、火魔法の使い方を教えますね。今はLv1だから使える魔法は、ファイアボールくらいかな。使うには、ファイアボールと口にしてもいいし念じたりしてもいいよ。それで、魔法が発動されるのでー。それじゃあ、楽しみにしてるね』
最後にシルテ様はそう伝えてくると、俺の頭の中から消えていく。そんな感じを俺は感じた。
「では十三番」
「……あ、はい」
シルテ様と会話? らしきものをしていたせいで意識的なものがどこかに飛んでしまっていた俺は、試験官の声に反応するのが少し遅くなってしまった。
しかし止まっているのもあれなので、俺は試験官の方へ向かう。
「得意な魔法や使える魔法はなんだ?」
「えーっと、火魔法です」
得意というわけでもないけどね。というか、使えるのかも俺にはわからないのだけれどね。まあ、シルテ様がああ言ってたから大丈夫だと思うのだけれどな。
「では、あそこにある的に向かって火魔法を使ってみろ」
今いる場所から少し離れている場所に建っている的を見ながら、試験官は指さしながらそう言ってきた。
んー、あれに向かって魔法を放つのか。
成功するかどうかは置いておこう。
「ファイアボール」
シルテ様に言われた通りの魔法名的なものを口に出した。
瞬間、目の前から魔法陣みたいなものが現れたのだ。それだけかと思ったのだがすぐに、火の塊が魔法陣から現れて、的に向かって勢い良く飛んでいった。
おぉぉぉぉ! 魔法、そんなロマンの塊を使えたことによって俺はもの凄く激しく? 興奮してしまう。
それを見ていた試験官が、
「は!?」
驚きの声を上げてきたのだ。
「どうかしました?」
そんな驚いている試験官を横目に見ながら俺は、目の前に現れた魔法陣から飛び出していった火の塊を追っていた。
勢い良く飛び出していった火の塊――ファイアボールは的に直撃する。直撃したファイアボールは的に火を移して、的が燃え始める。
しかし燃えだしたのも一瞬で、すぐに消えてしまった。
なんか言葉にならないくらい、凄かったな。
「な、なんだ!? お前、今無詠唱で火魔法を使ったな!」
的を見ていた俺に対して、試験官が俺の肩を掴み揺らしいてきた。
視界が揺れる、凄く揺れる。
「えっと、無詠唱? いやー、俺には分からないんですけど」
正直なところ、どこが無詠唱なのかわからない。なので、俺はそう答えた。
「本当にわかって……いないみたいだな」
俺の言ったことを聞いて、試験官は俺の顔を見ながら、そう言ってきた。
なんというか、俺の顔を見てそう言ってきたから……いや、なんもないや。
何かを言おうとしたかったのだけれど、何を言おうとしたのか自分でもわからなくなってしまった。
そこからすぐに試験官は俺の方から手を離した。
「今回の仮試験はこれで終わる。受かった奴は、今から呼ぶが……今回は全員合格だ。今から受験番号一番から俺のところに来るように」
試験官はそう言って、俺にはわからないが何かの作業をして行く。それからすぐに俺の番がやって来た。
「これが今回の仮試験で渡す、冒険者資格証だ。これはまだ完璧じゃないのだけれども、これを持って大きな冒険者ギルドや冒険者ギルドがあるところに来て、これを渡せば本来の冒険者資格証をもらえる。それとこれはお前にだけ渡すものだが、俺が務めている冒険者ギルドに立ち寄ったらこれを受付嬢とかに渡してみろ」
そう言ってきて試験官は俺に、冒険者資格証を意味するカードのようなものともう一つカードのようなものを渡してきた。
「ありがとうございます」
それらを受け取りながら、俺はもう一つのカードの方を見た。
そこには試験官の名前――ウイゴーン・ドリルバというものの、その人が働いているであろう冒険者ギルドの名前が書いてある。
「それじゃあ、今度会う時にまた会おうか」
「え? あ、はい」
最後にそう口にしたドリルバさんは、俺の前から消えていった。
それから俺は、冒険者資格証ともう一つのカード――名刺のようなものを持って家へと帰って行ったのだった。
◇
時刻はすでに、夜くらいかな。
ただ、外には電気が通っているみたいなので、あまり暗くはなかった。それで俺は今、家の中ではなくて外にいる。
そしてこれから何をするのかといえば――。
「こんばんは、ナギル君」
俺の近くにやって来たオーンさん。昼ぶりくらいである。
「こんばんは、オーンさん」
それで話を戻すのだが、これからするのは――俺がこの村にやって来たから、宴会的なものをするのだという。
まあ、簡単に言うと俺が主役みたいな感じなのだが、俺はちょっとに都の前に出るのは好きじゃないから遠慮させてもらって、端っこの方で座っていたのだ。
「どうだいナギル君。結構のこの村良いだろ?」
「そうですね、凄く良い村と思いますよ」
まだ見ていないものはあるだろうけれど、今日までで見たものだけで答えようと持ってもしっかりと答えられると思う。
んー、それに、子どもたちが凄く元気そうで良かったと思っている。
ワイワイガヤガヤと、楽しく会話をしているシルテ様テ村の住人たち。見ているこっちも楽しくなりそうだ。
「……」
すると、無言で俺の膝の上にリーナちゃんがちょこんと座ってきた。オーンさんと同じように昼ぶりくらいである。
「……」
無言であるため俺も無言になってしまう。
その数秒後、俺の周りに村の子どもたちがいっせいに集まってきたのだ。
「たびびとさーん、おもしろいはなしをしてー!」
「おもしろいはなしー!」
「してしてー!」
座っているので集まってきたばかりの子どもたちは立っているせいで、肩や頭の上に子どもたちが……うん、まあ、目の前が子どもたちたくさん、という状況である。
だが、面白い話かぁー。
少し考えた俺は、頭の中に浮かんだ一つの話――昔話的なものでもしようと思う。
「それじゃあ、一つだけしようかな」
そんな俺の声に、
「やったー!」
「わーい!」
「わーい! わーい!」
子どもたちは元気な声でそう言ってきた。リーナちゃんはというと、俺の服を握って来ている。
嬉しいのかどうかわからないのだが、子どもだから嬉しいのだろう。
そこから俺は、
「むかしむかし、あるところに、一人の小人さんがいました。その小人さんには――」
昔話をして行くのであった。
――その小人さんには、一人もお友達がいませんでした。なので、小人さんは出身地である場所から違う場所にいる小人さんを求めて歩き出しました。目的にしていた場所はなかった小人さんは、着く場所にいる小人さんに声をかけようと考えていたのですが、着く場所には小人さんが一人もいませんでした。しかし諦めきれなかった小人さんは、また違う場所を求めて歩いて行きます。それから三日後、小人さんは遂に仲間を見つけることに成功しました。そこから小人さんは、仲間の小人さんと一緒にお家を作って、仲良くなっていきました。それからも楽しく生活をしていった小人さんとその仲間の小人さんは、最後の日が来るまで――。
「――楽しく生活をして行ったのでありました」
それが今の俺がもっとも知っている昔話。
それを聞き終わると、
「わーい!」
「おもしろかったー!」
「おもしろかったです!」
「たびびとさん、ありがとー!」
子どもたちはそんな讃頌の声を上げてくれたのであった。
近くにいたオーンさんも、
「凄くおもしろいじゃないか! 物語を作るのも上手いんだな!」
聞き終わると俺の背中をバンバン叩いてきたのであった。お酒をのようなものを飲んでいたからか、顔を赤くしている。
この人絶対に酔ってるな。
「すっげーぜ」
「ああ」
「さすが、旅人さんだな」
「よかったよ、ナギル君」
「楽しい話だったな」
話していたせいか知らないうちに集まっていたシルルテ村の住人達。他にもミルドさんたちもいた。
「……おもしろかった……」
俺の膝の上で小さくなっていたリーナちゃんが俺の方を向きながらそう口にしてきた。
そうか、それは良かったかな。子どもたちに対して話すのなんて一回もなかったからか、今回したことがなんというかとても良いものに感じれた。
けれど、俺の話した昔話って、俺がしっかりと覚えていた話じゃないからなんか申し訳なく感じてしまっている。
まあ、うん、すまない。
「どういたしまして、リーナちゃん」
俺はそう言って、リーナの頭をそっと撫でる。瞬間、目を閉じたが嫌がったりはしなかった。
その後、一時間くらいで宴会的なものは幕を閉じたのであった。
リーナちゃんはというと、俺の家に付いて来たんだよね。ということなので、一緒に朝まで寝たのであった。
あ、そういえば、布団を支給されたから、凄く寝やすかったよ。
異世界転移したんだが、神界に取り残されたのでマイペースに生きようと思う にしじまなな @NanaseAoi
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