7 シルルテ村到着

 今は、村まで持ってきた木を村の中に入れようとしているところである。


 ただ、ここで一つの問題発生。


「よそもんかい? 村に入るんだったら、身分を証明出来るものを提示てしくれ」


 村の入り口に立っていた門番役らしき男性に呼び止められてしまった。


 身分を証明出来るもの? もしかすると、冒険者カード的なものがないといけなかったりするのかも。


 今現在そのようなものを一切持っていない俺にとって、不覚の事態。


 そもそもこの世界に来たばかりで持っているわけがない。ゴブリンと戦ったときの木は捨ててきたし。


 数秒考えを出しまくった後、身分を証明するものが何かを質問することにした。


「すみませんが、身分を証明出来るものっていうのは……どういったものですか?」


 俺のそんな言葉を聞いて、男性は少し驚いた表情を見せる。


「冒険者ギルドで冒険者登録した際に貰える冒険者カードや他にも色々が身分を証明出来るものだよ。要は、安全な人っていうことを分かればいい」


 冒険者ギルドかぁー。

 ラノベ読んでる時に、何度も出てくる単語だったからしっかりと記憶に残っている。

 それに……中学の時なんか、将来の夢は『異世界で冒険者』とか言ってたからな。

 あ、まあ、今となっては凄い黒歴史なのでこれらの記憶は深いところに封印でもしておこう。


「すみません。そういった類のものを持ってないんです」


 またもや男性は、俺の言葉に二度目の驚いた表情を見せてくる。


 しばらく黙った後、男性が口を開いた。


「もしかして、旅をしてる人だったりするのかい?」


 旅……旅かっ! その手があった!!


「まあ、そんな感じですかね。あそこの森を歩いてる時に魔物に襲われてしまい、身分的なものを証明出来そうなものを落としてしまったんですよね」


「やはり、そうでしたか! 珍しい服を着ていたのでもしかしたらと思ってたんだよね」


 よし。失敗すると思っていたが、どうにか出来たな。


 そこで俺は、今自分が着ている服の存在を思い出した。制服じゃんか……って、木の枝でゴブリンを殺した時の返り血が所々に付いてるし。


「まあ、遠くのところに行ったか住んでいたので、服が珍しいのもその理由ですかね」


 旅をしているという設定にしたので、俺は男性の話に合わせた。


「旅かぁー。若いのに凄いことしてんだなぁ」


「そ、そんなことないですよ」


「ま、君みたいな子が悪い奴ってことは絶対にないし、入っていいよ」


 そう言ってくると、着いておいでと言ってきたので俺は後をついていくことにした。


 ちなみに俺は、全くしていない嘘のこと言ってしまったので少しだけ申し訳なく思ってしまった。


 村の中に入りました。


「ようこそ、シルルテ村へ。この村と村人全員は、君を歓迎するよー」


 門番らしき男性は、元の場所へ戻って行った。


 その後俺はというと、木を一緒に持ってきた男性三人について行き、木を置いている倉庫に足を運ぶのであった。


 木を置いているという倉庫に着いた俺と男性三人。


 それと、シルテ様が言っていた近くの村で合っているはずだ。シルテ様=シルルテ村、名前と村名がこんなに似てるんだからな。


「おつかれさま。えーっと、そういえば名前を教えてないし、聞いてもなかったね」


 そんなことを男性たち三人の一人、白髪の混じった髪と髭を持つリーダーのような人が俺と残りの二人に向けて言った。


「そうだったな」

「そういえば」


 残りの二人も口を揃えて、そう言う。


 色々なことがありすぎたから、忘れてちゃったんだな。


 そう思いつつ、俺は口を開く。


「それじゃあ、俺から。改めまして、ナツナギナギルです」


 その自己紹介に三人は『?』でも浮かべたような表情をしてきた。


「どうかしました?」


「いや、えーと、もしかしてどこかお偉いさんだったりするの?」


「いえ、違いますけど」


「なら、苗字があるのは?」


「え? 自分の苗字ですけど?」


「えーっと、ナギル=ナツナギ君で合ってる?」


 そこで俺はあることに気がついてしまった。


 そう、ここが異世界だということに。日本の一般常識は異世界じゃ通用しない時もある。


 そうなると、本名をそのまま口にするのはダメではないのか、と。


 うーん、もうここは異世界じゃないんだし、とりあえず今はナギルにしておこうかな。


 シルテ様とまた話せる機会があった時にでも、聞いてみよう。


「はい、合ってますよ」


 そうか、と三人はそれぞれ口にしてくる。


「ナツナギくんだね。私は、ミドルよろしくね」と、白髪白髭のミドルさんが。


「私はオーン。よろしく、ナツナギくん」と、少々茶色が混じったオーンさんが。


「フォン。よろしく、ナツナギくん」と、黒に白が少し混じったフォンさんが。


 何かを言い忘れたのか、


「「「六十代だからね」」」


 ミドルさん、オーンさん、フォンさんの三人が口を揃えてそう言った。


 揃ったことにより、アハハハと笑い始める。


 それを見ていた俺は、この人たちは人生が楽しそうだろうなと思ってしまうのだった。


「そういえば」


「旅してるってことは、一時はここに泊まるってことだよな? そしたらこれから、ナツナギくんが泊まる場所に連れていかないとな」


 オーンさんとフォンさんが木を整理しながら口にしてきた。


「そうだな。皆に紹介しとかないとだしな」


 二人の話に賛成するようにミドルさんが続けてそう言った。


 話がまとまった後、俺たちは倉庫から出ていく。


 その時、前方から誰かが当たるような感覚がした。


 俺はその感覚があった下の方へ視線をずらしてみた。


 そこには、一人の少女が腰をぎゅーっと抱きつきながら上目遣いで俺を見ていた。


 周りを見てみると、そこにも数人の少年少女が立っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る