第7話
爆発の原因は、配線ミスだったらしい。
どんなに説明されようと、納得することはできなかった。納得したところで、雅貴は帰ってこない。
一生。
永遠に。
「梅本」
最後の一人になるまで葬儀場に残っていた陽香は、尊志に肩を叩かれてようやく泣き腫らした顔を上げた。
「もう一回雅貴に挨拶したら、帰ろう」
「うん」
棺の中に、雅貴はいない。
爆発で吹き飛んでしまった身体は、見せられたものではなかったらしい。
誰もいないそこに、小学生の最後の試合、陽香がキャッチしたボールを入れた。
「いいのか、それ。大事にしてただろ」
「いい。内海に持ってて欲しいから」
「……そっか」
ぽたぽたと、透明な雫が落ちる。
「私さ、内海に愛されていたのかな」
棺の淵にかけた小さな手が、白くなるほど握られていた。
「何を今更。ちゃんと付き合ってただろう」
「でも、一度も好きって言ってもらえなかったもん」
尊志ははっとして、陽香を見詰めた。
「でもあいつ、梅本のこと想ってた」
「そんなの、憶測でしかないよ…」
「口では言わなかったかもしれないけどさ、行動では示してたんじゃないの?恋人らしいこと、何かしらしただろ?」
ふるふると首を横に振る。
「嘘だろ」
「本当」
「キスくらい……」
「一度もない」
「じゃ、じゃあ、手繋いだりとか。それは絶対しただろ」
これは幼稚園児並みか、と思いつつ、尊志は確認してみる。
「あるよ」
「ほら、」
「でもそれ、付き合う前の話だし」
あまりの何もなさに、尊志は唖然とした。
「内海にとって私は、親友でしかなかったんだよ」
「違う!」
違うのに。
それを証明できない。
『この花火が成功したらさ、俺、梅に―――』
どうして。
後数時間生きていていれば。
そうしたら七年分の想いが、陽香に伝わるはずだったのに。
「最後に雅貴に会ったとき、あいつ俺に宣言したんだ。『この花火が成功したらさ、俺、梅に―――』」
雅貴が、伝えたかった言葉。
夢見た未来。
「『俺、梅に、プロポーズしようと思う』って」
陽香の睫毛が、ぴくりと揺れた。
「『早く言わないと、告白のときみたいに梅に先越されかねないからな』そう言って、笑ってた。なぁ梅本。お前が告白する前から、雅貴は梅本のことが好きだったんだぞ」
「……知らなかったよ、そんなこと」
くしゃくしゃに歪んだ顔に、新たな涙が流れる。
「知らないんだよ、私は。何も」
尊志がどんなに言葉を尽くそうと、陽香にとっては無意味なことだった。
その言葉を伝えて欲しかったのは、たった一人、雅貴だけだったのだから。
もう二度と、確かめることのできない想い。
戻らない時。
帰らない命。
「もう、知ることはできないんだよ」
雅貴はもう―――何処にもいないのだから。
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