一年後

第76話 皆かわってしまった……

 何が何だがわからない。

 が、俺が困惑しているとアンジェリカも屋敷に帰って来たようだ。

 手を振りながら周りに挨拶をして俺達の横に来る。



「いやー1年しかたってないとはラッキー」

「は?」



 俺の横でアンジェリカは嬉しそうに話し始める。



「ナイ君の話では多少の時差は起きるだろうって聞いてなかったの?」

「聞かなかったの! それよりもアリシアが何で聖女に」

「そういう積った話は後にしよ。それよりもパーティーだよ。クロウ君やっと戻ってこれた……」



 アリシアは突然に俺に抱きついた。

 ちょ。



「クウガが見たら勘違いするから」

「クウガ君?」



 アリシアが顔を上げて俺を見てくるが笑みが怖い。



「その話も含めて夜じゃな……しかし、良く帰ってきたワラワは信じていたのじゃ」



 師匠……。

 俺は師匠の手を借りて立ち上がりふらつきながらも抱きついた。

 殴られてもいい、吹き飛ばされてもいい。でも今は抱きつきたかった。


 師匠も俺の背中を軽くたたいてくれる。



「メル姉さんー! クロー兄さんのお墓の発注終わったよ…………え?」

「ん?」



 俺は声の方に振り向いた。

 銀髪で髪を後ろにまとめた女性が俺と目が合った。

 身長は俺と同じぐらいで茶色いワンピースを着ていた。



「あ、初めまして」

「クロー兄さん!!」

「うおっと」



 女性は俺に抱きついて俺は師匠に抱きついたままなので師匠がそのまま転ぶ。



「潰れ、潰れるのじゃ!」

「ご、ごめんなさいメル姉さん! それよりも亡霊じゃないよね」



 女性がはなれ、俺も師匠から離れた。

 潰れた師匠はやれやれと起き上がる。



「ごめん、誰!?」

「ひどくない、ボクだよノラ」



 は?



「俺が知ってるノラは小さくて男の子っぽい女の子だったぞ!」

「美味しいごはんで成長したみたい……」



 成長したみたいって、立派な少女だ。

 もう男の子みたいだなって言えるはずもない。



「成長したんだな……」

「うん。メル姉さんから魔法も教わったよ」

「そ、そうか……ん?」

「ど、どうしたの!?」

「いや。俺の墓の話してなかった?」



 美人になったノラは突然目を背けた。

 俺は横に立っている師匠を見る、思わず目が合うと師匠も目をそらした。



「師匠!?」

「しょ、しょがないじゃろ! 半年も帰ってこなかったら準備も進めるのじゃ! ま、まだ仮じゃ、そう仮…………代金はもう払い終わったのじゃけどな」

「師匠!!」

「そう怒るな。そうじゃ! ほれハグしてやろ」

「っ!」



 俺は怒りに震えた。

 勝手に死んだ事にされて墓まで作られて、代金も支払い終わった。

 そのお詫びがハグだけでいいと思ってるのかこの師匠は!


 ああ、師匠の体温が温かい。

 俺は再び師匠に匂いをスンスン嗅ぐ、堪能した所で師匠から離れた。



「…………するんかいのじゃ」

「まぁ、そのOKでましたし。大丈夫です……思ったんですけど墓1個でハグ1回って事は10個作れば10回出来ますかね?」

「怒るのじゃ」

「冗談です」



 俺がそう言うとノラが小さく笑う。



「うん、クロー兄さんだ。この1年何があったのか教えるよ。クロー兄さんの事も教えて欲しいな」

「そっちは一年だけど俺のほうは2日ぐらいだぞ……」

「そうなの!?」

「ああ……」




 ――

 ――――


 アンジェリカの屋敷に入り客間へと座る。

 部屋の中には、師匠。ノラ。アリシア。庭先にいたクィル。俺を含めて5人だ。

 アンジェリカは側近のゾルに呼ばれてまた出て行った。

 聖騎士隊副隊長は帰ってきても忙しいらしい、まぁ軽い説明なら俺でもできるし現状を知りたい。



「少なくない!? まぁ皆忙しいか……」



 俺が感想をいうと部屋がノックされた。



「お帰りなさいクロウベルさん、いいえ実験体さん」

「その声は……シスターフレイ!」

「オギャ」



 オギャ? 何時からシスターフレイは化物にってシスターフレイは赤ん坊を抱いている。

 シスターフレイと同様に金髪な赤ん坊。



「ほーらパパです」

「…………笑えない冗談やめてくれませんか?」



 思わず敬語になってしまう。

 ここには師匠やノラもいるんだ、本気にしたらどうするんだよ。



「もちろん冗談。体の変化はありませんか? 時越えという珍しい体験とても興味深いです。後で魔力判定をさせてください」

「それはいいけど……ええっと結婚おめでとう?」

「いえ結婚はしてません」

「そうなんだ……」



 これが日本なら色々言われるが『マナ・ワールド』は広いし欧米では当たり前な事だったりもするのでこういうものかと、俺も納得する。


 実家にいるアンジェだって結婚はしてないし。

 1年かぁ……もう立派な子生んだかなぁ、アンジェの子でありながら俺達の非公認の弟か妹。



「父親は聞いていいの?」

「そうですね、クウガさんです」

「へえクウガって言う人なんだ。俺達の仲間にもクウガっていたけど偶然もあるもんなんだな。こっちのクウガに知らせたの? 驚いたでしょ」

「そうですね」



 シスターフレイがにこっと笑うと、対照的に周りの空気が冷えて来た。



「あのねクロウ君」

「アリシアなに?」

「そのこっちのクウガ君がフレイさんの赤ん坊の父親なの……」

「………………は?」



 クウガはハーレムの呪いを受けて女の子とエッチなイベントが多いが、最後まで手はださ……いや旅の途中で何人かそういう関係になったようなイベントがあったな。


 シスターフレイもその一人だ。

 なんだったらノラもその中に入っていたが、イベントが起きなく俺達が保護した結果、ノラはクウガになぜか惚れてない。


 俺達が先についたために起きなかったイベントといえば砂漠のスータンでの占い師フレンダ。あの子もクウガと秘密の一晩イベが予定されていた。



「あっ!」



 俺は思い出した事がある。

 シスターフレイとクウガもそう言うイベントがあって……クウガ達はもちろんそのまま次の町に行く。

 でも今回は1年ここにいたわけで……シスターフレイのお腹も大きくなったと。



「そのクウガは……? 姿見えないけど……責任取って聖騎士にでもなったとか……はっはっは……」

「それがね聞いてクロウ君。クウガ君は現在行方不明なのよ」

「ほわっ?」



 師匠がごほんと咳払いをする。

 アリシアが「それでねそれでね」ってずいぶんと嬉しそうだ。



「私は幼馴染なだけで全然気にしてないんだけど……逃げちゃった」

「うわぁ……」



 俺が思わず口から感想がでると、赤ん坊をあやしているシスターフレイが真面目な声を出して来た。



「実験とはいえ子供を産みたかったんだ」

「ううん! フレイさんにも怒ってないよ!? こんなに良くしてくれてるし……クウガ君から誰が好きって一度も話してくれた事ないし、でもフレイさんの妊娠がわかると逃げるのは駄目と思うんだ……赤ん坊の世話だって絶対に一緒にいたほうがいいよ」



 最低である。

 いや、ド最低である。


 でもクウガは呪いを解きつつ世直しをしたいって魔王かっこ謎の黒い塊。を倒して自分の呪いを解くまでが旅だったはず。

 ハーレムで我慢していれば……毎日3人に囲まれて何が不満だったんだアイツは。


 いや、別に子供が出来てもいい。

 全部責任とって逃げなければいいのに、そのアリシアはわからんがクィルなんて愛人でもいいっていってたし、ミーティアだって押せばいけるだろ。



「すぐに追いかけたかったんだけど、聖女の仕事があって中々ね……やっと動けるように」

「な、なるほど」

「それにクロウ君達の帰りも待っていたし」

「それはごめん。それもこれもあのクソ野郎が悪くて」

「なんじゃ……結局あったのじゃ。古代竜じゃろ?」



 それまで黙っていた師匠が口を開いた。



「師匠、知っていたんですか!」

「知っていたも何も、ワラワは聞いたはずじゃよ? 古代竜と知り合いなのじゃ? と」



 聞いたかもしれないが、知り合いか? と聞かれただけで師匠が知り合いとは考える事は不可能だ。

 それを文句言いたいが、もうあの狂った竜の事を思い出すだけで嫌なんですけど!



「そう、ウロコはウロコ! 竜のウロコ!」

「そんなのはスータンに行ったのじゃ……ドアホウも帰ってこないしの」

「クロー兄さんが帰ってこなく3ヶ月目、僕達は砂漠の街スータンに向かったんだ。そこでフレンダさんに再会してね……ためしに竜のウロコを占って貰ったら、そのすぐに」



 俺の苦労は……。

 ノラは「クロー兄さん何かごめんね」と謝ってくれるが、俺は手でそれを大丈夫だ。と伝える。


 あー…………仮説を考える。

 イベントがあったりなかったりするが、そもそも『俺が殺された世界線』そこでもアリシアは聖女になる。


 なる。

 と、言う事はなんらかのクエストが起きて俺が苦労しなくても聖女になったのではないだろうか。


 って事はだ。

 まさに苦労ベル。



「師匠!」

「なんじゃ?」

「胸を揉ませてください」

「ドアホウ、一度死んだ方がいいと思う」

「あの、素で引かないでくれませんか? 俺の苦労はもう苦労し過ぎて苦労ベルですよ!」

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