幻の古城

第66話 聖騎士アンジェリカに捕まる

 宿の店主にちょっと出かけてくる、と伝言だけ残して出発だ。

 俺とノラ、ミーティアとクィルの4人での散歩。


 聖都タルタン。

 大きな街でありゲームストーリーでは中盤ぐらいの街。

 そろそろ敵も強くなってきたし、ジョブを変えたりこの辺の周りでお金を溜めつつ新しい武器防具をそろえましょう。という街である。


 アリシアはヒーラーから聖女。

 ミーティアは武闘家から武闘師。

 クィルは弓使いからグランドアーチャー。


 だったきがする。

 まぁ基本ステータスアップに覚える技が強くなったりと、あくまでゲーム『マナ・ワールド』の事であり、今を生きる俺達に適応されているのかは謎。


 ステータスって見えないし。


 この5年間で何度『ステータスオープン!』ってこっそり練習したと思っているんだ。


 ノラが階段を降りて俺達の所に戻って来た、ミーティアが嬉しそうにノラに話しかける。



「ふっふっふ、クィルちゃん! ノラちゃん。きいてきいてこの変態ちゃん。今日は私達に好きなの買ってくれるって!」

「ちょ、クロー兄さん……大丈夫なの?」

「…………あまり高いのは困るからな、良識無いであれば」



 一応言っておかないと、4000金貨とかのアイテムねだられても困る。



「ミーティア。あまり無理いうノ。ダメ」

「どこで何買ってもらおう……」



 クィルの忠告も聞かないでミーティアが悩みだす。

 この辺は15歳ぐらいといえども子供だな。



「ええっと、じゃぁ……」



 俺は『じゃぁ孤児院いくか』と言いそうになって口を閉じた。ここで俺が孤児院に固執すると、師匠の後をついて行きたいのがバレバレだ。


 ここは偶然孤児院に行く事にしたほうがいいだろう。

 師匠が言うには帰りは夜、下手したら翌日って言っていたし、時間的には急がなくても大丈夫だ。

 速攻でいくとまるで俺が『ストーカー』みたいに思われてしまう。



「…………冒険者ギルドでもいく?」

「…………ボクは別にどこでもいいけど、普通女の子3人を連れて行くのに冒険者ギルドは無いと思うよ? メル姉さんを誘う時は気をつけたほうがいいと思う」

「うっ」



 ノラにめっちゃ駄目だしを食らった。



「変態ちゃんはデートした事ないんだよ。うんうん。ミーティアちゃんがエスコートしてあげる!」



 そういうミーティアも絶対にないはず何だけど。

 まぁ突っ込む事もあるまい。



「俺は別に3人とデートしたいわけじゃ。その暇つぶしというかね」

「ミーティアちゃんにまっかせなさい」

「ってかだ。クウガとはそのデートとかしないのか?」

「クウ兄ちゃんは呪いを解きたいって言うし魔王を倒すって言うしーそれにアリ姉ちゃんもいるし……」



 うおっと地雷を踏んだが、ミーティアの表情が暗い。



「クロー兄さん……それは言わない方が」



 ノラにも冷たい目で見られてしまった。

 ええっと、ええっと……。



「クィル! 何か食べたい物とかあるか?」

「にク」

「よし、肉だな。ほらミーティアも肉食いに行くぞ肉。クウガの代わりじゃないが、食べれば気持ちもかわるだろ」



 聖都タルタンの中央通り、お土産や飯屋など日本でいうと銀座通りッて所か、銀座何て行ったこと無いけど、商店街よりはな感じで若者が多い。


 串に刺した肉を焼いている店やアイスクリーム、古着ショップ、果汁ジュース何でもありだ、通るだけで食欲がそそられる。


 クィルがまず肉50本を頼んだ。

 俺も肉を焼いていた男も『5本じゃなくて?』と確認したが50本だった。

 ミーティアもアイスクリームを5段に重ねて器用に食べ始め、気づいたら食べ終わっていた。



「お代り!」

「クィルも」

「………………いやいいけどさ」



 俺は近くのベンチに座ったまま。

 ミーティアとクィルにお代りの代金と俺達の分も頼むとお金を渡した。

 財布が一気に軽くなる、やっぱ俺も宝石の数個スニーツ家からもってくれてば……後悔しても遅いが。



「クロー兄さんこれ」

「ん?」



 隣でまだアイスを食べているノラが俺に小さい包みをこっそり手渡してくる。

 中を触ると金貨手触りだ。

 俺はノラの頭を軽くたたいた。



「大丈夫だから」



 ほんっとノラは出来る女だ。

 最近思うがクウガにはもったいない感じもするな。



「ノラも好きなのを食べればいい」

「あの2人がおかしいだけでボクの胃は普通だからね。それよりも、何人かクロー兄さんを見ると逃げるんだけど」

「ああ、なんだろうな」



 待ち人の何人か俺を見ると慌てて消えていく、俺が確認しただけで2人。



「今ので8人目だね」

「は、8人?」

「うん」



 人気者すぎて困っちゃうな。

 と、冗談をいうが冗談ではない。



「お兄さん。こちらよろしくて?」

「はい?」



 声の方を振り返ると綺麗な女性が俺を見下ろしていた。

 


「聖騎士アンジェリカ…………」

「あら、私服なのにもうバレたのかしら、初対面なはずなのに?」

「クロー兄さん……」



 聖騎士アンジェリカ。

 年齢は20代後半、長い金髪を持つ女性騎士であり教会を守る武闘派部隊の女性副隊長。



「…………い、いやぁ……この街では、いえこの街以外でも有名ですから」

「それはどうも。隣座っても?」



 アンジェリカはとてもうれしそうだ。

 逆に俺はとっても嫌な予感がする。



「ど、どうぞ。俺達はすぐ行きますんで」



 立ち上がろうとすると、アンジェリカは俺の手を抑えてる。

 その顔は俺を見てほほ笑む。

 動くな。という合図だろう。



「ええっとクロー兄さんに何の用かな? 悪いけどクロー兄さんはもう心に決めた人がいるみたいだよ?」



 ちょっとトゲのある言い方をするノラ。

 頼むから喧嘩はしないでくれ、この人めっちゃ強いんだ。

 スタンピードイベでこの人の率いる部隊だけ帰ってくるぐらい強い。



「彼方が欲しいの」



 アンジェリカは俺の顔を見つめる。

 俺以外の男ならもうありがとうございます。と礼をいうだろう。

 尻尾を振ってついて行くに違いない。



「変態ちゃん!」

「討ツ」



 ミーティアの叫び、クィルの力強い声が聞こえると、黒い矢が何十本も飛んで来た。

 俺がクィルにあげた『黒狼の弓』から放たれた矢だ。

 目の前にいるアンジェリカはその攻撃を最小限の動きで全部避ける。


 ミーティアが「地下にいた魔物じゃん!」と叫ぶとアンジェリカは不思議そうな顔で俺を見る。



「地下?」

「そ、そうだよ! あの影ばっかりの女じゃん! イフで倒したやつー!」



 ああ。裏ボスアーカスか。

 顔グラ同じだもんな。

 ってメタ発言になってしまうが、手抜きなのか伏線なのか顔グラは確かに同じだ。

 よく見たら影の付き方とか違うんだけどね。

 それもあってゲームでは明確にいわれてないが血縁関係もしくは生まれ変わり説がある。



「よくみろ、生きてるから別人! さらに言うと倒してないし、俺達が逃げて来たの! そ、それよりも……おまっ街中で暴れたら最大禁固10年だぞ!」

「10年って1年の10倍!? ふえ? ふええええ!?」

「勘弁してください! 本当に間違えて打っただけで街中で暴れるつもりはっ!」



 俺はもう土下座だ。

 4人で街に遊びに行って暴れて捕まりました。

 一応の年長者は俺です、控えめに言っても『何してるんじゃドアホウ』案件である。


 最悪のパターンなだけでお金払って釈放とか冒険者なら罰点が付いたりと、色々あるんだけど9割以上牢に入る事になる。

 現にクウガだってグラペンテの街で暴れて牢に入った。


 そう言っていると、俺達を捕まえに来たのだろう周りに武器を持った人間がちらほら見えた。



「怒ってないわよ」



 アンジェリカが手をさっと上げると、その周りの気配が消えていく。

 アンジェリカ様様である。



「その代わり貴方が欲しいの」



 アンジェリカは土下座している俺の手をすりすりと触ってくる。

 これが普通の男だったらもう大きくなるよ! ……気持ちが。



「ミーティアちゃんドキドキ! え、変態ちゃん浮気!? ノラちゃんこれって浮気だよね」

「ボクに聞かれても……そのアンジェリカさん。ボク達はアンジェリカさんと関係がありそうな人と知り合いなんだ。あまりこういう事は言いたくないけど」



 ノラが俺達は聖王と知り合いなんだぞ! と交渉術を始めた。



「ふふ、まるで小さいナイトのようね。知ってるわ頭の良いお姫様」

「な、ボクの事!?」

「あれ。よくノラの事を女の子だって」

「わかるわよ? 他にもこっちを警戒してる亜人の女性、私の行動に興味しんしんなわんぱくな少女。それに1人だったらこんな状況力押しで抜け出しそうな君の事とか」

「…………そりゃどうも」

「一気に警戒モードになったわね」



 ここで警戒しないほうがおかしい人間だ。



「じゃぁ屋敷のほうに行きましょう」

「え。誰の?」

「この私、君達が牢に入らないため」

「断ると?」

「街中での明確な攻撃……禁固1年。冒険者なら降格。一般人なら保釈金――――」

「わ、わかった。いくから……ええっとノラ、ごめん。馬鹿2人が先走って」



 ミーティアとクィルが『悪くないしー』と叫んでいるが、どうみてもお前ら2人が悪い!



「結果的にクロー兄さんを守ろうとしたみたいだし、ボクは怒ってないよ? やっぱりクロー兄さんと一緒にいると楽しいし」

「そうか?」

「お話は終わった? 相談しても結果はかわらないわよ」



 アンジェリカが話終わると、近くに護送用の馬車が止まった。

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