第65話 クロウベル暇をもてあそぶ

 翌朝聖王バルチダンがまたボロ馬車に乗ってやってきた。

 護衛はいなく御者すらいない、聖王が自らボロ馬車を動かしての二日目だ。


 宿の庭先でぐるぐるに縛られている俺と目が合った。



「君は……! クロウベル君と言ったな……君が渡してくれた借用――」

「あっごめん、それより縄をほどくから待って」

「まさか敵襲があったのか……スニーツ家以外にどこから」



 聖王がひどく心配しているが、俺は足の縄を斬ると体を伸ばす。



「いや、師匠の尻を触ったら窓から吊るされた」

「…………そ、そうなのか……その、昨日の行動を見る限り君はメル君の恋人なのかね?」



 俺が立ち上がり聖王を見る。

 何て良い人なんだ。



「いやーやっぱそう見える? 恋人かー素晴らしいね聖王様」

「ライトニング!」

「うおっ!」



 俺の近くに師匠の魔法が飛んで来た。

 振り返ると杖を持った師匠が欠伸をしている。



「朝から不機嫌になる事をいうなのじゃ、バルチダン頼んだ事は終わったのじゃ?」

「ああ、メル君が言っていたように試練のダンジョン。その許可書を後は……いやこっちの話だ。不確定な情報が多くて整理し終わったら伝えよう」



 俺の方をちらっと見て聖王は喋るのを辞めた。

 たぶんだけどアリシアの実家の事だろう。



「ドアホウ。まずは朝食じゃバルチダン、お主も食うていくのじゃ?」

「食べて行きたい所だが、これでも忙しい身で。ああ、あとシスターフレイのほうにも許可を得た。先に行くとよい」



 フレイか、教会の女性シスターがそんな名前だったな。

 孤児院でママ代わりの人でクウガを子供あつかいしていた、若い女性だ。


 もう一度心の中でいう、クウガとフラグがある若い女性だ。



「いや、もうなんでクウガばっかりモテるんだよ! 俺なんて師匠の尻を間違えて触っただけで一晩外だよ!?」

「…………いや、別にドアホウならロープぐらい外せるじゃろ……適当に戻ってソファーで寝れば」

「…………そうなんですけどほら一応は俺も男ですし、戻って師匠が熟睡していたらそのねぇ思わず触りたくもなりますし、それを我慢してるんです」

「そ、そうなのじゃ……?」



 なんだ、朝から変な空気になる。

 ノラもいるし俺も我慢は強いからそんな事は絶対に起こらないんだけど起こらないんだけどたまにそういう気分になりそうな時もある。



「おっはよう! クウガ君、先生。あとバルチダンさん! どうしたのクウガ君も先生も、変な顔してるけど」

「いや、なんでもない」



 アリシアが空気を変えてくれた。



「試練の洞窟。そしてアリシアの魔力治療の伝手もそろったのじゃ。後はアリシアの実家じゃな。あのクソ人間がどう邪魔をして――」

「先生! 私負けません!」



 2人で盛り上がっている所、聖王が俺の方をちらっと見る、俺は小さく首を横に振った。

 聖王のほうも小さくだが頷く。



「それなんだが2人とも。君の実家であるスニーツ家当主ウィリアムは緊急入院をして……暫くは何もしてこないだろう」

「え……」

「ふん。色々とバチが当たったのじゃ」

「あの……バルチダンさん。私に義父であるウィリアム……様の治療をさせてください」

「ぶうううううううう!!」



 俺は思わず噴き出した。



「ア、アリシア!?」

「うん、私自身も変な事言ってるのは解る、でももし命に係わる病気だったら助ける力があるのに黙って見てるだなんて。昨日の夜考えていたの、どんなに絶望があっても光が見えた。それを教えてくれたのは……」



 アリシアが熱弁すると師匠が欠伸交じりにアリシアの話を止める。



「アリシアよ、あのクソ人間が何をしたが忘れてしまったのじゃ? 悪人は滅ぶ方がええのじゃ。今でも思うのじゃあの時に殺しておけばじゃと」



 師匠が諭すようにアリシアに言う。

 師匠にそこまで言わせるウィリアム爺さん。もう少し痛めつけたほうが良かったのかな。



「アリシア君。ウィリアム殿の入院はその肉体的ではない、わたしも見舞いにいったのだ。そのすべてが終われば顔を見せてやってくれないか?」

「は、はい!」

「では、本当に忙しいのでな失礼するよ」



 聖王は馬車に乗って帰っていく。

 俺達3人は宿の中にもどると朝食だ。

 宿の店主は今日も俺達に過剰なぐらいサービスをしてくれる、聖王と知り合いだったってわかったとたんにこれだ。


 持つべきものは有名人というやつか?



「と、いうわけじゃクウガ悪いが先にシスターフレイに会わせたいんじゃがいいのじゃ?」

「もちろんです。僕はこの街に詳しくないですしアリシアの事も心配です」

「クウガ君私頑張るからね」

「う、うん」



 アリシアの笑みにクウガが照れているのが見える、かぁいいねぇ若い奴らは。



「で編成はどうします?」

「ワラワとアリシアだけでいいじゃろ?」

「あの僕もついて行っても……」

「ふむ。小僧のパーティーだしそれもそうじゃな」

「じゃぁ俺も」

「ドアホウは残っておれ」

「うええええええええええええ!?」



 師匠が両耳を抑えた。

 ひどく眉をひそめ俺を見てくる。



「うるさいのじゃ……別に来た所で何もないのじゃ?」

「先生、クロウ君も一緒でもいいですよ。ねっクウガ君」

「え? ああ、うん僕は別に」



 これじゃ俺が我がままを言っている子供みたいな。



「いや、別に邪魔だったらいい。シスターフレイってあの孤児院にいる人でしょ。アリシアの病気を治すって少し興味あって」

「だからドアホウは何で」

「先生! そこは聞いちゃだめと思います!」



 なんだ、アリシアも師匠も変な顔をする。

 クウガに至っては俺を見て「さすがです」って言うけど何の話。




――

――――


 師匠達はさっさと馬車で出かけ、俺は宿の休憩室にいる。

 一階部分は一般客は泊れないようになっていて会議室やぼーっとできる場所。


 暇である。

 サービスの良くなった店主から貰った飲み物を片手くつろぐ。

 特にする事もなく座っていると、その隣にノラが座った。



「クロー兄さん。昨日のお土産本当にありがとう……大事にするね」

「大事って壊れる物だから大事にしないでくれ」



 俺が送ったのは『常闇のサングラス』名前の通りサングラスで、特殊効果はなんと、赤外線スコープみたいに見える品物だ。

 ゲーム内では『知力』『くらやみ耐性』があるアクセサリー品。


 義賊を目指してるノラであれば有効に使えるだろう。と思っての品物だ。



「そんなに高い物じゃないし」



 本当は高かったけどな。そこは言わないのがお約束って奴だ。

 ノラには世話になっているしこれぐらいはする。

 俺が昨日どこに何をしたか、など一切聞いてこない良く出来た女、もとい少女だ。



「ううん。大事にするよ」

「まぁいいけど、使いすぎると中の魔石に蓄えられてる魔力がなくなるらしく、無くなったら普通のサングラスになるって」

「そうなんだ……ますます大事にするよ」

「いや、使ってよ? 道具なんだし。2は?」



 日常的にうるさいミーティアと日常的に静かなクィルの姿が見当たらない。



「ミーティアちゃんの事呼んだ!?」

「いや、呼んでない」



 すぐ背後から声がしたのでとりあえず否定する。



「いや、変態ちゃんはミーティアちゃんの事を呼んだ! ね、クィルちゃん!」

「呼ばれタ」



 ミーティアは相変わらずだがクィルは接するたびに知能がなくなっていくような。最初はもっと頭良かったような。



「別に、しゃべリ遅イだけ。人語むずかしイ」

「俺は、なにも言ってない! と、所でその恰好は何?」



 ミーティアもクィルも少しオシャレをしてる。

 ダンジョンに行く時のような汚れてもいい服じゃなくてちょっと可愛らしい色合いの服だ。



「変態ちゃん、ミーティアちゃんもクィルちゃんも暇なの! 街にいこ街に、せっかくのタルタンなんだよ? もう3日もたつのにどこも行ってないし。なんだっけ……スイーツ家! あのへんなのは大丈夫っていってたよね。遊びに行きたい!」

「スニーツ家な」



 スイーツはもうデザートなんだよ。



「甘い物も食べたい!」



 俺はちらっとノラを見る。



「なんでボクを見るのかな? ボクの意見としてはこのまま宿にいたほうがいいと思うけど」

「よしいくか! ノラも行くぞ」

「え。ボクは留守番を」



 いいからいいから、と俺はノラを立たせて用意をさせる。

 偶然に孤児院いってアリシアや師匠の様子を見に行くか、俺一人であれば怒られるが偶然なら仕方がない。



「変態ちゃん悪い顔してるー」

「全然っ! ほ、ほら好きな物買ってやるから変な事いわないように」

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