第63話 復讐のクロウベル
「水槍! ……水槍連!」
俺が叫んでもウォーターシャベリンもウォーターシャベリン連、魔法が発動しなかった。
と、いうか魔力の流れが上手くいかない、水道を全開にしてもチョロチョロしか出ない感じ。
その隙に目の前の爺さんは手を振り下ろす、あちこちの物影から青い服を着た男達が襲ってきた。
「うーん……やっぱ結界……かこれ。あってるよね」
「ほう、馬鹿ではないようですね」
貴族は恨みを買う事が多い。
一番怖いのは、遠距離魔法や巨大魔法、そういうので一撃で屋敷など吹き飛ばされたらたまったものじゃない。
そこで開発されたのが対魔法使い用の結界。
元々は個人の魔力を打ち消す奴だったのを屋敷全体にかけたりと、恨みを買ってる貴族が良く使う結界だ。
俺が『マナ・ワールド』をプレイした時には何の説明もなかった設定である。
ちなみにスタン家はそういうのがない。
高いからだ、だからといって無意識に恨みを買うような事もしてないわけじゃないが……そこで死ぬならそれまでの人間だ。と父のサンドベルの教えがあるから。
結局ゲーム内では、そんな結界もないのでクウガ達に魔法も使われるし俺は屋敷で殺されるわけなんだけど。
後は街の中にも基本結界はない。
やっぱり高いし誰が管理するんだ? って話にもなるから。
「押しとおる!」
どこぞの正義マンが言いそうなセリフを言ってみる…………あ、これ恥ずかしいな。
「怒りに燃えて顔を赤くするとはまだまだ子供のようですな、それに中々お強い」
「いや、本当に恥ずかしいだけで……俺は別にうわっと!」
突っ込んでくる男を蹴り倒す。
どいつもこいつも剣や棒を持って俺を痛めつける満々だ。
ひどくない? こう表向きはトイレを借りに来ただけの一般人を袋叩きとか。
「いいでしょう。こういう日のためにゲイズ兄弟を雇っているのです。周りは下がっていなさい……邪魔になりますよ」
爺さんがそういうとニヤっと笑った。
俺の横から二人の男が襲ってきた、たぶん陽動だろう。そいつら2人に襲わせて本命が来るパターン。
俺は雑魚2人を倒し次に来る本命を待ち構える。
爺さんは口を開けてポカーンとしているが、俺とて負けたくはない。
「雑魚は倒した、そのゲイズ兄弟ってのを倒せば終わりかな?」
「………………今のがゲイズ兄弟」
「ん?」
爺さんは呟いた後、先ほどよりも力がない。
俺は警戒しながらも、構えを解いて先ほど倒した雑魚2名を見る。
左側に飛んだのは巨漢の男で、右に飛んだのが小柄な男。
どっちも俺の拳と拾った槍の
どっちもピクピクして生きてはいるが起き上がってこない。
闘争心がなくなったというか、俺と目が合うと露骨にそらして唸り始める。
「………………なんかごめん。で、でももっといるんだろ!? この屋敷を守る最大の強い奴が!」
「…………ゲイズ兄弟こそ裏ギルドトーナメントで準々々優勝まで惜しかった奴だ」
また微妙な強さだ。
何人の大会かしらないがベスト16、強そうで弱いようなきもする。
「じゃぁほら、本気を見せるようだなってアンタが俺と戦うんだろ?」
俺は爺さんに聞いてみる。
「普通に考えて老いぼれが戦えると御思いか?」
「…………無理か。まじでごめん」
「もはや敵はなし……わが命の代えて物申す! どうがウィリアム様の命だけは!」
「わ、馬鹿っ!」
爺さんはショートソードを出すと自らの腹に押し当てようとした、俺は突っ込んでその剣を奪い取る。
仮にもアリシアの実家だ、変な殺人事件は起こしたくない。
俺を捕縛でもするつもりだったのか、縄を持っていた男から奪いとると爺さんをぐるぐる巻きにする。最後に口を塞いで玄関前に転がしておいた。
「で……残ったやつはまだ戦う?」
俺は振り返って雑魚数十人に聞いてみる、誰も返事をしない。
「いないなら邪魔しないでくれ」
俺が言うと、立っていた人間はそそくさと端っこに逃げていく。
うーん、忠誠心がない。
普通だったら、俺が俺がって死に物狂いで襲ってきそうなのに。
俺は扉を開けて恐る恐る顔を覗き込んでみた。
一応不意打ちの可能性あるからね。
ってかだ。
俺だったら、扉の後ろで槍でも構えている、扉が開いた瞬間に突っ込む。開く前でもいい。
「なにもな……ひっ!」
メイド服を着た50人ぐらいの女性が土下座してるのだ。
「助けてください、助けてください、殺さないでください、助けてくだ――」
もうホラー映画である。
近くにいた女性の前にしゃがみ肩を軽くつつく。
「ひっいいいいい! い、命だけは!」
「いや、その……何もしないからね?」
「う、嘘です! 甘い言葉で騙して殺すんですよね」
殺すなんてもったいない。
ぱっと見る限り女性は40人ぐらいかな? 見える範囲でいえば全員若い。1人1晩相手しても十分楽しめるだろう。
「で、では体を差し出せば……命だけは」
慌てて首を振る。
万が一、俺がそんな事を希望して臨みがかなったとしよう。
ここはアリシアの実家だ。
アリシアの耳にはいり、そこから師匠の耳に必ず入る。
今回のコレだって何か良い言い訳ないかなーって思ってるぐらいなのに、それ以上はやばい。
「ちょっと、トイレを借りに来ただけだから殺しもしないし別に体も大丈夫」
「と、トイレでしたら」
「ああ、大丈夫場所は知ってるから」
大きな階段を上り3階へと上がる。
ゲームで知った屋敷よりめちゃくちゃ広いが角部屋がアリシアの義父の書斎だ。
扉を開けて中に入る。
一人の老人が座っており、テーブルには金塊が山になっていた。わーお、まぶしい。
「よく来たなのう、クロウベル=スタン」
「お?」
「驚く事もあるまい、追放された元貴族。ワシがウェスタン=スニーツじゃ!」
爺さんはそういうと宝石を眺めては俺に笑いかける。
「どうも」
「調べさせてもらったぞ。あのゲイズ兄弟を倒すとは少し腕が立つようだの。といってもどうじゃこの金や宝石を!」
「まぁすごいかな?」
スタン家じゃ見たこともないぐらいの金塊と宝石だ。
スタン家は貴族の中でも貧乏だ! 序盤の街だしな。
冒険者ギルドに頼まれて地下下水道掃除なんてするぐらい庶民的な貴族だ。
「これをお前にやろう。アリシアから手を引け。いやアリシアを連れてこい!」
金塊と宝石の中から宝石を一粒俺に投げて寄こした。
もう一度いう一粒。
別に欲しいわけじゃないけどこれだけ見せつけて1個なんてケチなんだ。
後、ここまで劣勢なのに強きに出れる貴族ってのはやっぱ馬鹿なんだと思う。
「やだよ」
「なんだと! お前だって追放されあの女魔法使いにこき使われているんだろ!? 金があれば自由になれるでないか」
今でも十分に自由だし。
稼ごうと思えば多分冒険者になってある程度は稼げる自信もある。
「その、本人が来たいなら連れてくるけど、そんなにアリシアの事が大事なの? 来たくないみたいだったよ?」
「当たり前じゃないか!」
おお、絶対悪人の義父とおもったが案外良い奴なのか?
「アレは金の生む物だ。化物とおもっていたのじゃが聖女の血を引いている。アレは瀕死の奴でさえ治すのじゃ……勝手に逃げおって、やっと金の卵が戻って来たのじゃ」
あっだめだこれ。
「なぁ爺さん。これだけ戦力差があるのにまだ我がまま言うわけ? それにアリシアの小さい時に散々稼いだんでしょ?」
「当たり前じゃ! アレはワシが買ったのじゃ! それをあんなクソ生意気な魔法使いが連れ出しおって!」
うん。師匠の事だろう。
「何もしないなら帰れ! この金はワシの物じゃ!!」
困ったな……予定としてはちびった義父が泣いて謝るのを期待していただけにこう強きで来られると予定が狂う。
仕方がない。
俺は金塊の一つを手に取って壁に投げる。
「何をするワシの金じゃぶああああああああ!」
「よっと」
ウィリアムだが何だか知らないが爺さんの足をもって窓の外にぶら下げた。
「ひひゃあああああ! は、はなせ!」
「はい」
俺は一瞬だけ足を離した。
「ぶばあああああああ!」
「っと、暴れないでね。もう一度掴むの失敗すると本気で頭から落ちるから」
「ホ、本当に離すやつがおるか!」
「爺さんさ……死にたく無かったらわかるよね?」
アリシアから手を引け。と伝えているんだ。
流石に死ぬよりは生きる事を選ぶでしょ。
「ば…………馬鹿め! そ、そうじゃ! そうじゃったな。本当にワシを殺す事はできまい! 殺すなら最初に殺してるはず。ワシを殺せばアリシアに迷惑がかかるからな……あの小僧を捕まえて言う事を聞かせる事にしよう。ほれ、ほれ、さっさと持ち上げろ。今ならお主がワシに慰謝料を払う事で許してやろう」
「俺が払うの!?」
まいったな。
俺がアリシアの義父を殺せない事を知ってる。
あー……もう……窓の外には俺と戦った奴らや怪我人を手当てしているメイドなどと視線が合う。
あの子達だってこんなバカ貴族の下じゃかわいそうに。
俺がこのまま帰ったら首もしくは懲罰か。
「あっそうか」
「なんじゃ?」
俺はカーテンを千切って爺さんの手足を縛る。
先ほどと同じように窓の外に吊るした。
「暴れると落ちるから気をつけてね」
「な、何をするきじゃ! まさまワシの金を盗む気か!! 1つでも盗んでみろ? あちこちに手配して絶対に捕まえてやる! 宝石1個につき目玉1個じゃ!」
3個盗んだら目玉3個取るのか? 2個しかないけど。
「まぁまぁ、盗まないよ俺も誰も」
俺は爺さんが眺めていた金塊や宝石を適当に掴んで庭にばらまいた。もちろん当たると大けがするので人のいない所にだ。
「おーい! 爺さんからの退職金。どうせ君達、俺に負けたから首や罰あるんでしょ? 爺さんは君達全員首だって、そのかわり退職金をくれるってさ」
「あばばばば馬鹿やろう!! ワシの金じゃぞおおお!!」
爺さんは何かを叫んでいるが俺はどんどん宝石と金、ネックレスや指輪を窓からばらまく。
「いいか! これは爺さんからの退職金! 何か言われても絶対に退職金!」
俺は盗んでないし、持って行った奴らもこれが退職金じゃないのはわかっている。
しかしだ全員が退職金と言い張れば、多少大ごとになっても大丈夫だろう。
誰一人盗んでないんだから。
俺がそういうと、庭や屋敷内から「退職金」「退職金」とコールが鳴りやまない。
「そこ! 奪い合いしない。まだまだあるからなるべく均等にわけてくれ。独り占めすると仲間から裏切られるぞー」
俺が上からいうと多く持って行った兵士は足を止め、怪我をした奴に半分渡した。そうそう、それが一番だ。
苦楽をともにしたぶん仲間意識があるのだろう。
「わしの! そこのお前ら! 兵士のくもももごごご」
「うるさい口は塞ごうねー。俺も元貴族だからわかるんだけどさ……金でしか言う事を聞かない部下を持つ貴族。その貴族の金がなくなったら誰が言う事きくんだろうねぇ」
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