第61話 聖王様は懐が大きい
非常に眠い。
昨夜は色々あって師匠に窓から吊るされ『明日が天気なるように祈っていろなのじゃ』と、言われ外を眺める事に。
まぁロープ一本ぐらい何とでもなるんだけど……師匠の機嫌を損ねる事もないので甘んじてぶら下がっていたんだんけど、途中で眠れなさそうなアリシアと夜の話をしているとロープを切られた。
これは師匠の嫉妬に違いない!
…………と、思いたいだけ。
結局はアリシア本命。対抗で師匠。大穴で俺を狙ってきた青い服の集団を蹴散らせていたら朝になった。
俺は少しドンびいてる宿の主人に挨拶して入口から入ろうとすると、ボロボロな馬車が来た。
身なりも別によくはないが清潔感の固まりみたいなおっさんは俺を見ては軽く会釈をする。
「どうも」
「冒険者の方かね?」
「あー冒険者って事もギルド無登録だししいて言えば無職ですかね」
おっさんは小さく笑う。
なんだろう、空気感というかアリシアに近い感じがする。
昨日襲ってきたやつらは、もうやる気満々な気配をしていたが、このおっさんは隙だらけ……なはずなんだけど、師匠の気配に近い。
「無職か……教会に知り合いがいるんだが、そこで働くかね?」
「いやぁ一応コレでも予定あるんで」
「ほう、差し支えなければ何があるんだい?」
「ヒモ」
おっさんの表情が固まる。
いや、ギャグだからね、真に受けられても困る、訂正するか。
「冗談ですよ」
「そ、そうか。職業は自由というが……少し驚いてな。もう一ついいだろうか? 時にこの宿に……悪い魔法使いはいるだろうか?」
ふむ。
悪い魔法使いって言ったら師匠だろうな。
「宿に? いますよ。もう見ただけで悪いってわかりますから、短めの銀髪で背は高く……まぁ見たらすぐですかね」
「……………………君はその魔法使いの仲間かね?」
「そうですね」
おっさんが俺の答えを聞いて黙りだす。
俺もおっさんが黙るので、そのまま黙った。
やっぱ昨日、そして昨夜の関係者か。上司って所かな?
部下が失敗したから上司がしりぬぐいをする。良くある話で中間管理職だろうおっさんは様子を見に来たって所か。
中々に大変な仕事で頭が下がる。
どうしたものか……俺とて別に攻撃してこなければ攻撃するきはない。こうして話し合いに来てもらった方がやりやすい。
「その君から見て……そのこういったら失礼だが、その魔法使いは話し合いは通じるだろうか?」
お、相手も話し合いが通じそうだ。
「どうでしょうね。直ぐ殴るし、乳はでかいし、尻もでかいし、いい匂いはするし」
「……後半のそれは関係ないのではないか?」
「ああ、それもそうか。用があるなら一緒にいきましょうか?」
「それはありがたい」
俺がおっさんと一緒に宿に入ると、先ほど先に入って行った店主と目が合った。
「そういえば、名前を聞いてないかな。俺はクロウでいいよ」
「そうだな……バルチダンと呼ばれて」
「どこかで聞いた名前」
「どこにでもある名前だよ」
おっさんがそういうと、目が合ったはずの店主が尻もちをついている。
「せ、聖王様!!」
「ふむ……ばれないように変装をしたんだが……」
「聖王? ……確か聖王ってそんな名前だったような……いやまって! 聖王バルチダン!」
「そのあまり大きな声で叫ばんでくれ」
――
――――
宿の店主が閉店の看板を出して聖王とやらをもてなしはじめた。
幸い俺たち以外の客はいなく、そもそもアリシアに会いに来た。と言う事で1階で待つらしい。
騒ぎを聞きつけたクウガを呼び止めてアリシアを起こしに行ってもらった。
俺はその聖王と同じ部屋にいてアリシア達を待つ。
「店主よ。もてなしは結構だ、泊り客じゃないしな……その気持ちだけで。今日ここに来た事は秘密にしてほしい、そして部屋から出て行ってくれると助かる」
店主は『はひ!』と興奮して部屋から出て行く。一瞬壁によりかかってる俺の方を見たので俺は聖王の顔をみた。
「俺はいてもいい? ダメって言われてもいるんだけどさ」
「ああ、ぜひにいてくれ。その悪い魔法使いが攻撃をしたら守ってほしい」
真顔で言うので俺は思わず噴き出した。
「いや。だからその悪い魔法使いの仲間なんだけど」
「そう聞いているが……その怖いだろ?」
「たしかに。
何となく聖王と言えと面白いな。と思っていると小部屋の扉がノックされた。
直ぐに開くとアリシアが顔を見せた。
「おはようアリシア」
「おはようクロウ君……そしてお久しぶりですバルチダン様」
「ああ、久しぶりだ。こういう形で再開したくはなかったが……スニーツ家からアリシア君の緊急逮捕の要請が来ている」
聖王が言うとアリシアは近くの椅子に座った。
「そうですよね。そういう人達ですから……」
「アリシア……その僕達も入っていいかな?」
扉近くでクウガが顔を出してアリシアに聞いている。
さっさと入ればいいのに、なんて真面目なんだ。
駄目だよ。って言われたどうする気なんだろう……そういう所がクウガらしいと言えばらしいけど。
「いいですよね?」
「ああ、かまわん……1、2、3、4おかしいな」
聖王は入って来た人数を数え始めてる。
クウガ。ミーティア。ノラ。クィルを数え終わって俺の方を向いて来た。
「悪い魔法使いがいないようだが?」
「捕まりたくないから逃げたんじゃ……偽名で入るぐら――っ!?」
「誰が逃げるんじゃドアホウ! 顔を洗っていただけじゃ……たっく。久しぶりじゃなバルチダン……少し老けたか? いやそれよりも悪い魔法使いとは誰の事じゃ誰の!」
聖王は俺の指さして来た。
「この青年が悪い魔法使いの事を聞いたら短めの銀髪で長身、スタイルもいい悪い魔法使いなら知っていると……メル様いつから悪い魔法使いに」
「ぬあじゃ!」
「まぁまぁ師匠も座って座って、今冷たい物でも持って来ますし、それとも肩でもおもみしますか? 胸大きいですもんね。足も疲れてませんか? 尻も大きいですし」
師匠は俺の善意な意見を手で跳ねのけた。
「ウウ、ひどい!」
「白々しいわ! で聖王バルチダンよ。聞かせてもらったのじゃアリシアを逮捕じゃと?」
「え。師匠盗み聞……あぶっ! 杖で殴ったら駄目ですけど!?」
「入る時聞こえたのじゃ……」
「は……はっはっはっは!」
突然聖王が笑うので、ミーティアがびっくりして少し後ろに下がるぐらいに引く。
「失礼。メル様のほうは極刑を希望されてますな」
「ほう……」
うわ。師匠が怒ってる。
うちの師匠、気にしてないつもりなのかしらないけど結構そういう所に細かいからなー。
特に自身が関係すること、自身が関係あった者に何が困り事があった場合本気でキレる。
…………でも、俺が困った時は助けてくれない。と、いうちょっと悲しい現実。
「こちらも困っているのです。スニーツ家は教会の有能な出資家ですから、自らの家から聖女を何としても出したいのでしょう」
聖王が言うと少し難しい話になりだした。
うーん。帰りたい。
聖女になるってそんな面倒な事じゃなかった! アイテムだけ渡して次の日からなれた!
「あーすみません。ちょっとトイレ」
難しい話をしているので俺が口を出す事はない。
「我慢しとけドアホウ」
「ええっと、漏らしてもいいなら……いいんですか? 普段師匠。師匠。と師匠をしたってる男性が、大事な会議の場所で突然ジョバーって失禁して。で何気ない顔で俺は『師匠もらしました』って言うんです。もちろん師匠は怒るでしょうけど……おれは師匠が『がま――」
「さっさといくのじゃ!」
怒られてしまった。
俺は個室からでると手足を伸ばす。
さて……スニーツ家を先に潰すか。
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