第50話 忘れてた家

「どいたどいたどいた!」

「うあ! ミーティアちゃん吹き飛ばされ!」



 俺はミーティアを押しのけると小屋の中に入った。

 物は散らかっているが、師匠の家となれば話は別だ。

 大きく息を吸って「師匠の家の匂い! ふんふんふん」と叫んでいたら背中を蹴られた。


 はい、とっても痛いです。

 外に追い出されて転ぶ、振り返り見上げると師匠が仁王立ちしていた。



「きもいのじゃ」

「それはどうも」

めてないからなのじゃ? ドアホウその怖い時あるのじゃ。ほんっとこんなワラワの何所が……話がそれたるのじゃ、泥棒が入ったような荒らされた部屋ですまんかったの。柵も手作りで、畑はその面倒になったのも認める。こんな小屋にいたく無いだろ、ほらテントじゃ」



 師匠がテントを俺の横に投げてよこした。

 師匠の背後、つまり小屋の中ではアリシアがテキパキと小屋内を片付けている。


 見事な者だ、そういえば馬車の中の整理整頓もアリシアが主にやっている。



「うん。アリシアはパーティーのお母さんだな」

「クロウ君それほめ言葉じゃないからね?」



 軽い呟きをアリシアに聞かれていた。



「そうなの!? 俺はそのまぁごめん、で……なんでこれが師匠の家ってわかったの?」

「ええっと……動きながらでごめんね。私ね先生と旅した事あるよね。その時の宿の部屋と一緒なの、それでつい先生の家だっていったら本当だったみたい」



 そういえば昔師匠とアリシアが俺の実家に泊まっていた時、部屋はお部屋じゃなくて部屋だった気がする。

 当時のメイド長、アンジュが良くブチ切れていたっけ。



「え、でも俺達と一緒の時は――」

「ワラワだって成長するわ! …………その半分はノラに手伝ってもらってるのじゃ」



 振り返るとノラは小さく手を振ってそんな事ないよアピールだ。

 まぁなんにせよだ。

 俺は立ち上がりテントを小脇抱える。

 このままでは俺は1人で外に泊まる事確定だ、名誉挽回、汚名返上。こう見えても謝罪は得意だ。



「よく見たらアンバランスの中に芸術点が高い柵。雑草とおもった畑も草花も色彩に飛んでますし、部屋の汚さ? 俺の目が節穴だったようです。バランスよく配置された物。すばら――あのちょっと扉閉めないで扉!」



 俺が話しているって言うのに師匠はさっさと小屋の扉を閉め、鍵のかける音が聞こえた。

 必死で扉を叩くと、クウガが扉を開けてくれて中に入れてくれた。



「たっく、そこの小僧に感謝するんだな。ドアホウがかわいそうじゃと」

「まじか、クウガ。俺はクウガを勘違いしてた……ハーレム野郎の陰湿変態殺戮マシー――」

「あの、もう一度外にでますか?」



 クウガが笑顔で言うので俺は首を横に振った。

 アリシアが「クロウ君は先生の家に入って興奮してるんだね」と言っているが興奮してないからね。いや本当に。


 部屋の中は、大きめの1DKなつくりで、7人でも余裕で入った。

 奥にはベッドもあり、タンスや化粧台。

 手前にはテーブルなど生活スペースだろう。


 反対側にも扉があってあれは裏口かな。


 照明はあちこちにランプがあり電気の様に明るい。

 俺が今。座りたい場所は師匠が寝ていただろう、ベッド! その一択であるが、ミーティアとノラが座っており俺が座る場所がない。

 仕方がなく手前のソファーに座るとクウガが手を上げだ。



「メルさん。ここで一晩過ごせば一気に聖都タルタン出来るんですか?」

「ん。まぁそうじゃろうな……この家にはちょっとした魔法がな。奥にあるもう一つの扉あるじゃろ? そこと森の反対側をつなげておる。元々は転移の門の再現として……いや、難しい話じゃったかな」

「転移の門……」



 クウガがそうつぶやくと「初めて聞きました」と師匠の顔を見る。



「あー……古代技術の一種じゃな。遠い場所を繋げる門じゃな」

「危なくは無いのですか。その戦争に使われるとか、思い付きできいただけなんですか……」



 そうなんだよねぇ。

 普通そんな技術が野放しにされていれば悪用し放題だ。



「じゃから封印されてるし、そもそもある程度魔力のない奴は使えんのじゃ。この扉にもその手の魔法をかけて置いてあるのじゃよ」

「ミーティアが開かなくて僕が開けれたのはそういう理由が」

「じゃろな」



 師匠はなぜか俺をちらっとみる。



「実際に転移の門欠点もあってじゃの、片方が魔力を通しているのに反対側から魔力をぶつけると不安定になるし、体が挟まったり、尻だけ固定されたりするのじゃ!」



 今度はにらんで来た。

 なるほど……うん、あの時の事を思い出してるのね、ちょっとさわっただけじゃん。

 アリシアが手を軽くたたく。



「先生なんだが具体的ですね。でも、それでわかりました! 先生がフェーン山脈からここに来れた理由」

「説明してなかったっけ。俺が偶然フェーンの街で師匠を見つけてアリシアを追う事になった」

「その偶然の部分が不思議だったの」



 ああ、なるほど。



「何はともあれ、入って来た扉を開放した瞬間、奥の扉の魔力は消失する。それにこの人数では2日ぐらいかかるじゃろ」

「難しい話は終わりかな、じゃぁ夕飯の支度ークィルさん庭から食べれそうな野菜あれば。ミーティアちゃんは食器、ノラさんはこっちを手伝って、クウガ君は――」



 アリシアの指示で全員が動き出す。

 俺と師匠だけ名前が呼ばれない。

 これはもうイジメである、俺がアリシアを『お母さん』と呼んだばっかりのイジメだ。



「でも、俺はイジメには屈しない! アリシア俺も手伝うよ」

「話がよくわからないんだけど、クロウ君が動くと先生の下着などが入ったタンスとかあけるよね? だからじっとしてくれると、先生はその見張り」

「あ、そうなんだ……」



 俺はソファーに座りなおしてじっとするしかない。



「ドアホウ、そんな事しない。って事はいわないんじゃの」

「まぁ1人で行動できる用だったらすると思いますし」

「…………」

「…………」



 俺も師匠も無言のまま食卓が出来上がる。

 アリシア曰く簡単シチューの出来上がり、簡単というが手間暇はかけており一口一口が美味しい。


 アイテムボックスからパンも取り出しそれをつけると絶品である。

 街から離れた場所でこういう食事ができるのは本当に素晴らしい、一度携帯食料を試しに食べた事があるが、不味いのなんの。


 お腹がいっぱいになると後は眠気がくる。

 クウガが今後の予定を色々いっているが俺は眠い。その眠さが映ったのだろうミーティアも半分寝てる。

 

 俺がごく自然に師匠のベッドにいこうとしたら腕を捕まえられた。

 ふりかえると師匠である。


「外で寝るのと、床で寝るのどっちがいいのじゃ?」

「……床で」



 それでもソファーを開けてくれて俺はクッションを枕にして横になる、その姿をみたクウガも話を打ち切り、それぞれ就寝の用意となった。


 最低限の明かりだけ消され寝ていると、俺の肩をトントンとされる。俺は目を開け肩トンをしてきた相手を見た。



「なに?」

「あのクロウベルさん」



 目がギンギンになっているクウガだ。

 顔が近く俺の顔を見下ろす状態でもはやホラー案件、叫ばなかったのを褒めて欲しい。


 男性が寝ている人間に声をかける事案といえば選択肢は少ない。



 1、襲われる。これは物理的に。

 2、襲われる。こっちは性的に。


 どっちも嫌だ。



「…………ぐうー」

「いや、起きてましたよね」

「辞めてっ俺は男には興味ないから、襲わないでっ!」

「し、静かにしてください! 皆が起きますっ! あの少し真面目な話があるんです」

「なるほど3番のタイマンか」

「あの、何の話でしょうか」

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