第49話 忘れてた森

「あの森ですかね」


 俺は目の前に広がる森の入り口を見て師匠に声をかけた。


 初日が異状だったか、あと数日は比較的楽に冒険が出来た。

 もちろん魔物は出るので撃退はするが、ちゃんと馬車を止めて馬車を守る係、敵を倒す係と別れてやれば何も問題はない。


 …………はずだったけど、イレギュラーと言うのは起こるので、道に迷ったり馬が怪我をしたりアリシアが回復魔法の使い過ぎで倒れたりと……良く冒険出来たなこれ。


 

「そうじゃ『忘れてた森』じゃな」

「ん?」



 教えてくれた声はもちろん師匠で、その隣には御者代わりのクウガがいる。

 あれ、忘れずの森だったようなきがする。忘れてた森? 場所はあってるなぁ。俺が聞きなおそうとするとクウガに押されはじによる。


 一応落下防止は付いているが思いっきり押せば俺は落ちる。



「す、すみません」

「いや……別にいいよ、それにしても師匠……クィルと一緒の時は平気だったのになぁ」

「御者台に3人も乗ればそうなるじゃろうな……何が言いたいのじゃ? ドアホウお主、ワラワが太ってる? と」

「安心してください。ダイエット手伝いますよ!」



 俺が宣言すると、師匠の口からため息が出てくる。



「ドアホウ、デリカシーが無さ過ぎるし、ワラワは太ってないし、ワラワじゃなかったら女性に刺されるのじゃ……」

「師匠以外にいいませんけど?」



 師匠が押し黙りクウガ越しに俺を押してきた。



「うわメルさん! クロウベルさんが落ちます! クロウベルさんごめんなさい。何かにつかまって」

「いや、クウガのせいじゃない。おれは師匠の尻の話うわっ! 落ちる。落ちるから! 馬車から落ちるって」

「落そうとしてるのじゃ!」



 ちょっとからかうとこれだ。

 後ろのホロ馬車からアリシアの声で『今日もクロウ君元気だね』って声やそれに応えるノラとミーティアの声まで聞こえた。

 クィルの声が聞こえないのはクィルは基本静かな獣人だから。



 森の入り口が近くなっていく。

 日本では……ってか地球じゃ考えられないぐらいに勿体ない。



「何を考えているのじゃ?」

「いや、これだけの森があれば水場もあるでしょうし開拓しないのは勿体無いなって、木材だっていい値段でしょうし家作るのにも」

「魔物も多いぞ?」

「そこはほら冒険者がいるんだし駆除でき……」



 師匠から白い目で見られた。

 ああ、そういえばそうか……こういう所なんだよなぁ異世界と日本の違う所って。



「クロウベルさんは流石貴族ですよね。人の住む場所を無意識に探すだなんて」

「いや、別にそんな事ないからね。俺は師匠と住めればそれでいいわけだし」

「ドアホウに管理された生活はごめんこうむるのじゃ」

「そこは俺を管理してもらって、うおっと」



 小さい石に乗り上げて馬車が少し揺れた。



「小僧よ。少し左に大きく曲がるのじゃ。馬車程度であれば入れる道があるのじゃ」

「わかりました」

「じゃっ俺はクィルと交代しますよ」



 2人の返事を聞いて御者台から中に入る、クィルも声を聞いていたのだろう俺の代わりに前の席へと入れ替わりだ。



「クロー兄さん前にずっといなくていいの? メル姉さんがいるけど」

「ん? ああ、クィルのほうが気配よむの旨いから。いくら魔力があろうか俺が前にいるよりはいいでしょ」

「はいクロウ君」



 アリシアが俺にクッションを渡してくれた、暖かい……クィルが使っていたろう、そのクッションを裏返しにして枕にする。



「変態ちゃんはちょっと剣と魔力が高くて強いだけのとりえしかないですしー」



 ミーティアが俺をけなしてくると、ノラがちょっと不機嫌になる。まぁまぁそこは喧嘩しないでくれ……。



「ミーティアさん、それだけあればよくないかな? 逆にミーティアさんのとりえってなんなのかな?」

「かわいい事」



 それをはっきり言えるミーティアにノラも「……そうなんですね」と諦めた声をだす。

 森の中には色んな生物がいるのか変な鳴き声が凄い、まぁ敵の心配はあるけどクィルと師匠が前にいるんだ、何かあれば呼ぶだろう。



「クロー兄さん、この森の特徴は?」

「特徴っても入ったの初めてだし、地図上では20日かかる場所を数泊するだけで短縮できると言われてる場所」

「そんな場所を開拓しようとしたの!?」

「あぶないか? ルール守れば平気だし」

「あぶないよ!?」



 確かに、でも途中の家に泊まらないと短縮できないし、ゲームでは1回しか来なかったからなぁ。



「んじゃ、暇つぶしにトランプでも」

「よーし負けないからね」

「ミーティアちゃんも」

「あのボクも」



 馬車の荷台組なんてやる事がない。

 かの有名な太った商人や、どこかの王宮騎士だって馬車の中では暇だったはず。

 そこに城勤めの神官と口うるさい魔法使いの爺さん。

 いったいどんな会話をしたのか俺は気になる。


 勇者の結婚相手は姫がいい、占い師がいい、ダンサーがいいとかもめていたのかなぁ。

 結局勇者は誰も選ぶ事もなく、滅んだ故郷の村で死んだはずの幼馴染と再会した。いやぁいいゲームだったな……。


 

 ちなみに普通の冒険者ならやる事はそこそこあって内職とか非常食の準備などがある。

 このパーティー、アイテムボックスもちが2人いるので本当に簡単な非常食だけを用意すればいいので特に内職もない。


 散々トランプで遊んだ頃、馬車がゆっくりになると師匠が荷台の方に戻ってくる。



「何かあったんですか?」

「予定通りじゃよ? あとは日が暮れるまで進めば……まぁ小僧に伝えてるのでワラワの出番は終わりじゃな」

「じゃぁ、代わりにクウガ君見てくるね」



 アリシアが御者台に消えていった。

 すぐにクィル戻ってくる。あれか? 空気をよんだのかな。


 そのまま馬車が走り続け、師匠の言う通り日がくれてくると御者台のほうからクウガの「ついた」と、言う声が聞こえて来た。

 小窓を覗くと、本当に木造の家が不自然に出て来た。


 クィルがいち早く降りて馬を近くの柵につなげ、ミーティア、ノラがそれぞれ降りて周りを確認する。



「なんていうか、ずいぶんぼろっちい小屋ですね」

「どのへんじゃ?」

「まず柵っすね。手作り感はいいんですけど高さも違うし、畑と思うんですけど雑草ばっかりにみえる。クワとかあるけど使った様子ないぐらい新品ですかね?」

「まぁ新品じゃろな」



 師匠が馬車から降りたので俺も一緒に降りる。



「で、他には何かあるのじゃ?」

「え? 他にですか? 家の中に入らないとわからないですけど……」



 俺は必死に扉をあけようとするミーティアを眺める。

 両足を扉につけてドアノブを引っ張るミーティア、その体をノラが引っ張っている。


 クウガが「あぶない」といってドアに近づくと突然に扉が開いた。



「うあわわわわミーティアちゃんとぶ!」

「ボクが抑えてるから飛ばないよ……」

「扉が開いた」



 3人の声を聞いて俺は遠巻きに中を見た。

 物の散乱がひどい。



「封印されていたわりに、泥棒でも入ったんですかね。衣服が散乱してません? うわ何時食べたんですかね、果物の食べかすもありますし。小屋に泊まるより馬車の中のほうがよさそうで……」

「そ、そうじゃな」



 師匠が顔を引きつらせてきた。

 やっぱり師匠も泊るのを嫌がっている、まぁ汚いもんな。

 アリシアが小屋の中を覗き込んでいる。



「アリシア、入らない方がいいよ。汚いし」

「んークロウ君」

「何? 死体でも見つけた?」

「ここ、先生の家だよ」



 は?



 俺は師匠を見ると、師匠は小さく「こほん」っと咳をした。

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