忘れられた家

第48話 これが普通の冒険っすよ

 日も暮れた頃。

 野営地でたき火を眺めるメンバーその顔は全員疲れている。


 クウガが御者台にいき馬を抑えるも、クウガを乗せたまま馬は逃げて馬車は倒れるし、師匠は馬車に押しつぶされ、その間にサーベントウルフに襲われるし。


 サーペンドウルフを撃退した後に死体をあさりに来たグレイドゴブリン、さらに、グレイトゴブリンの死骸のおこぼれを狙った自称冒険者……いやもうあれ山賊だろ。

 彼らに魔物の素材を渡し、安全な場所を聞く。

 もちろんあいつらは、冒険者狩だろうなって事で俺は水龍を出していかくするとあっさり安全な場所を教えてくれた。


 なんだったら馬車の立て直しなども手伝ってくれた。

 その頃にはクウガも馬に乗って戻って来た、しきりに謝るクウガをなだめ、今は教えて貰った野営地が出来る場所まで来たのだ。



「それにしても良かったですね。師匠が潰れなくて」

「まったくなのじゃ……」



 死んだかと思った師匠であるが、大きな胸とお尻がクッションになったのか無事だった。



「……言うておくが地面に穴をあけたからじゃからな? ドアホウ、なぜワラワの尻と胸を見て喋るのじゃ」

「あ、別に他意はないです」



 どうやら、そのようだ。



「みんな。食事が出来たよ」

「ミーティアちゃんお腹ぺこぺこー」


 

 大きなたき火に師匠とクウガがマジックボックスから出した食材を合わせ大きな鍋料理。それも食べ終わり今は少しだけゆったりとした時間が流れている感じだ。



「色々すみません……まさかメルさんが御者をできないとは」

「俺に謝って貰ってもまぁ俺も師匠が思ったよりもポンコツだって言う事を教えなかったのが悪い」

「すまんかったのじゃ。いきなり手綱を渡された時に言えばよかったのじゃ」



 師匠がしょんぼりすると、アリシアが「まぁまぁ」と入って来た。



「先生も失敗するんですね」

「わらわだって失敗ぐらいするのじゃ」

「それで師匠。ここから何日ぐらいで『忘れずの森』に?」

「このペースなら6日ほどじゃな」



 思ったよりもかかるな。

 車でいけば2日ぐらいでつきそうだけど。



「ごちそうさまでした、じゃぁボクはクィルさんと馬車の点検してくるね、がんばってねクロー兄さん」

「ミーティアちゃんもいくー、クウ兄ちゃん負けないでね」



 何の話をしているのかと俺が思っていると、クウガが俺に笑顔を向けてくる。



「さぁ殺し合いをしましょう!」

「やだよっ!?」



 即答する。

 俺は殺されたくも無いし、別に俺は殺人に快楽を求めるような人間でもない。



「師匠!」

「ん? さっさと斬り合えばいいのじゃ?」



 師匠が疑問顔でいうが、すぐにアリシアが助け舟を出してくれた。



「先生、私回復魔法使ったらダメなんですよね? あぶなくないかな?」

「そ、そうだよ。今現在俺が使える『癒しの水』だけだよ?」

「何本当に斬り合いをするわけじゃあるなのじゃ、のう小僧」



 小僧と呼ばれたクウガは「………………もちろんです。僕の訓練をしてもらう約束ですし」と言ってくる。


 今の間はなんだ今の間は。



「そんな約束したっけ?」



 俺は全くした覚えはない。

 前々からクウガが俺に試合を申し込んできてはいたが全部断ったような……。



「ドアホウ、戦力の確認はパーティーの基本じゃぞ?」



 師匠は髪をかき上げながら色っぽい姿で俺に注意する、その右手には白いリング型の腕輪が装着されていた。



「あれ?」

「なんじゃ?」

「いえ、師匠そんなブレスレット持ってましたっけ? 素材は銀……いやプラチナ? あーでもイフに売っているのは銀のブレスレットか……買ったんですか?」



 銀のブレスレットは防御プラス5しかない。

 特殊効果でエンカウント(小)の効果があるぐらいの女性専用の装備品。

 宿が一泊300ゴールドとすると、ブレスレットは1個5000もする。



「ん? まっまあな。ノ、ノラとお揃いで買ったのじゃ」

「え、でも俺達は金が無くてカジノに……」

「え!? そ、そうじゃったかなぁ……いやその臨時に。どこかの小娘が珍しい財宝を売ったとか」



 どこかの小娘と師匠のリングの話が全くかみ合ってなくて俺は混乱する。

 


「クロウベルさん!」



 俺の名前を力強く言うクウガに思考が鈍る。



「細かい事はいいじゃないですか。クロウベルさんは一時的とはいえ合同パーティーです。お互いの力は知っておくべきと思うんです! 違いますか?」

「え、まぁ……そうなんだけど」

「僕がリーダーなのは頼りないかもしれません、だからこそクロウベルさんの胸をお借りしたいんです」

「あっ! クウガ君もしかしてミーティちゃんが寄付してくれたアクセ――」

「アリシア。その話はま、また今度ね。聖都で埋め合わせするから」



 アリシアがクウガに話しかけると、珍しくクウガが慌て始める、浮気がばれた男がいう言い訳みたいだ。



「うん、わかった」

「話が全く見えないんだけど……俺とクウガが試合すればいいわけ?」

「はい!」



 仕方がない。



「師匠練習用の剣あります? 無かったらまた今度って事で……いやー練習用の剣ってなかなかないんだよね。師匠だってそんなの持ち運んでないだろうしクウガ残念だっ――」

「あるのじゃ」



 師匠はアイテムボックスから二本の剣を取り出した。



「あるのか……」

「ノラと練習用にいるじゃろ。とおもってのうイフで買っといたのじゃ」



 俺は師匠から練習用の剣をもつと少し離れた場所に立つ。

 クウガも練習用の剣を握って俺と対峙するように構えた。



「一応言うけど、刃をつぶしていても骨折れたり命にかかわるからね……俺はアンジュに何度地獄を見せられたことか……その度に薬草やポーション飲まされて。最後の方はハイポーション。よくわからないオレンジ色の水とかさ」

「わかってます!」



 絶対にわかってない顔だ。



「安心しろドアホウ。即死以外ならアリシアに回復させてもらうのじゃ。魔力の流れも安定してるのじゃ」

「先生! いいの!? 私皆を回復させていいの?」

「あまり制限するとアリシアが病むからなのじゃ」



 確かに。

 出発前みたくヤンデレになっても困るし怖い。



「どっちでもいいから沢山怪我してね! 今の私なら腕ちぎれても治せる自信あるよ!」



 グロイからやめてくれ。



「ええっと……じゃっ師匠合図よろしくお願いします」



 師匠がカウントダウンを唱えていく。

 3、2、1。



「水槍!」



 先手必勝である。

 クウガの足元を狙い水槍を飛ばす。これで突進してくるクウガを抑え吹き飛ぶはずだ。



「甘いっ!」



 クウガは俺の水槍を斬り落とすとそのまま向かってくる、思ったよりも早く世間一般的な間合いに入り込まれた。

 剣と剣をぶつけクウガの顔が近くなる。


 周りから「うわ。クウ兄ちゃんかっこいい」「クロー兄さんとクウガさんのカップリング……」など変な声が聞こえたようなきがするが気のせいだろう。



「あれ。クウガ腕上げた?」

「僕は一度も貴方とまともに戦った事ありませんけど!」



 嬉しそうなクウガの顔が怖い。

 あれか? 戦闘になると豹変するサイコパスな思考なのかもしれない。

 ゲームでは別にちょっとえっちで正義感溢れる嫉妬深い男だったのに。


 ってかやばいな。

 これが主人公の力なのか、思ったよりも出来る。

 流石に裏ボスほどの無茶苦茶な強さは感じないが、そこらの盗賊の集団よりは強い。


 だから嫌なんだよなぁ自分を殺す相手と戦うのは……。



「まぁでも水龍」

「なっ」

「食べちゃって」



 俺は右手で水龍を出すイメージを作る。クウガの足元に水龍が現れると有無を言わさずに一飲みさせた。

 必死に中で暴れているけど、俺とて逃がす気は無い。

 そのうちにクウガが水龍の中でプカーンと浮いてきた。



「はい、終わり」

「クウガ君嬉しそう……よかったね」



 アリシアが変な事を言うのは俺は水龍の中に浮かんでいるクウガの顔を見る、ぷくぷくとしながらも顔が笑っている。



「怖いよ!」

「すっごいクロウ君と戦ってみたいっていっていたもん、よかったね。さぁクロウ君魔法といてあげて、本当に死んじゃうから」

「おぉぉ……」



 俺は水龍を解くとペタンと意識のないクウガが地面に倒れた。

 アリシアが嬉しそうにクウガにヒールをかけているのを横目で眺めた。

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