第47話 合同パーティー出発

 かっぽかっぽと馬車は進む。

 以前もこんな感じで馬車に乗ったような気がするが……馬車の作りとしては大型の部類に入る。


 御者台には詰めれば4人は座れるほど大きく、現在はクウガ、アリシア、師匠が座って次の目的地に進んでいる。


 一方荷台になる部分はホロ馬車であり、中も広い。

 日本の車で言うと軽トラック……まぁ小さい目のキャンピングカーぐらいはある。

 購入したばかりで荷物も少なく、俺に至ってはクッションを枕にして横になっている状態。

 

 次に機動力、もちろん自動で動くエンジンなんて物はなく馬車なので馬。

 この馬が1頭ではあるが地球と違い魔力効率を重視した馬で馬力が根本から違うのだ。もちろん、そこらの馬が全部こういう馬ではなく特殊な訓練を受けた奴である。



「で、一通り感想を思った所でノラ」

「何かな?」

「どこに向かってるんだこれ」



 俺の言葉にノラが眉をひそめる。



「話を聞いてないの!?」



 ノラが驚く、それまで反対側でこれまた足を広げ寝ていたはずのミーティアが飛び起きた。



「変態ちゃんは本当に何も聞いて無いミーティアちゃんが教えてあげるわよ!」

「ミーティアさん、前から思っていたんだけどクロー兄さんを変態呼ばわりは駄目と思うんだ」

「でも変態ちゃんは変態ちゃんだよ? あっもしかして変態ちゃんの事が好きなの!? 『クロー兄さん』って甘えた声だして」



 ノラがスゥーっと息を吸った。



「ふぁイっ!」

「まてまてまてまてまて! クィルも変にあおるような声を入れるな。ノラええっと俺が何も言ってないんだし別にいいよ。そのへんはアリシアやクウガにも伝えてあるし、ノラに言い忘れていてごめん」



 ずっと一緒にいるわけじゃないし、変態だって言われると変態かもしれない。俺が我慢すればいい事。



「というか別に口が悪いのは知ってるし、ミーティアだってクウガの事を『クウ兄ちゃん、クウ兄ちゃん』って呼んでるだろ? 好きとか嫌いとかは無い」



 ノラはクウガの事が好きになるはずだし……なるよな……ちょっと不安でノラを見る。



「そうですね……ノラは『クロー兄さん』『メル姉さん』を尊敬してます。『クロー兄さん』がそれでいいのであれば」

「これでも変態ちゃんには感謝してるのっ! そんな怒らないでよ……」



 ノラは不満顔で「おこってません」というと静かになった。

 パーティーが大きくなるとこういう問題が起きるのか、いやぁクウガも大変だな。



「クロー兄さん、目的を知りたいだったよね。で行先だったよね、アリシアさんのために聖都タルタンに行く事は覚えてるよね、そこに行くのに3つの道があるって前にクロー兄さんが言っていたでしょ。メル姉さんが『忘れられた森』そこに向かおうって」

「ほう……近道一択か」



 敵が強いがまぁ師匠がいるから大丈夫だろう。



「アリ姉ちゃんを治す事にはミーティアちゃんも賛成ですしータルタンにいって治ったら変態ちゃんに、ノラちゃん、メルちゃんとバイバイだもんね」

「そうだな」

「少しは寂しがるのが常識よ、常識!」

「はいはい、俺はアリシア達と別れるのが寂しいです。っとこれでいいか?」

「そこはミーティアちゃんでしょ!」



 なぜ、人を小ばかにする子供と別れるのに寂しいと思わないといけないんだ。



「お子様だからな」

「むーー!」



 ミーティアは不機嫌になっていく、そういう所が子供というんだ。

 それよりも、馬車の速度が速くなっていくのか感じた。


 御者台にすわっていたはずのクウガが顔を出して馬車の中を覗き込んできた。



「皆敵だ! サーベルウルフの群れ。出来れば振り切る、クィルはこっちに来て弓で援護。ミーティアは後ろを警戒。ノラさんとクロウベルさんは追いつかれた時に散会してください」



 小窓から確認すると、ちょっとした草原でありその草原の中に殺気を感じる、目視できるだけでも確かに4頭ぐらいのサーベルウルフが馬車に追いつこうと走ってきている。


 正直ゲームでは雑魚敵。


 ゲームではだよ? 実際には狂暴なライオンが襲ってくると思ってくれたほうがいい、勝てるけど戦いたくはない。

 しかも今は回復魔法を制限中、そんな中に大けがをした場合アリシアの負担が大きくなるに決まってる。


 逃げる。と、言う選択肢をとったクウガは流石だな。

 ガクンっと尻が浮いた。

 


「うわっ!」


 

 その衝撃でクウガがほろ馬車内に滑り込んで来た。

 馬車の速度がだんだんと早くなる、早くなると言う事はちょっとした小石でも馬車は大きく揺れたり跳ねたりするのだ。




「いやそれよりもクウガ」

「なんでしょうクロウベルさん、ウォーターボル。シャベリンは出来ますか? クィルと一緒に――」

「それは当然するとして、馬車は今誰操縦してるの?」



 ごとんっと馬車が2回目のバウントするとミーティアが馬車から落ちそうになった。

 その手をノラがつかむと、ノラまで落ちそうになる。



「あっぶねっ!」

「のああああ、ミーティアちゃん落ちる、落ちるから!」

「ミーティアさん、絶対に手を離さないでね!」

「ノラちゃん……あ、ありがと。イジワルな事いってごめんね! ミーティアちゃん心入れ替えるから絶対に離さないでね、力抜いたら落ちる、落ちるから!」



 険悪と思っていた2人に友情が見栄えた瞬間を――馬車が3回目のバウントする。



「うおお!?」



 俺でさえ転びそうになる。



「み、みんな大丈夫!?」



 アリシアが馬車の中に顔をいれた。って事はだ。



「え、いま馬車の御者してるのって師匠!? クウガ、師匠は馬にも乗れないんだぞ!? 御者なんて逆立ちしたって出来るわけないよ!?」

「聞こえたぞ、ドアホウ! 馬車の御者ぐらいワラワにかかれば、ここを必死に掴んでじゃな。ええいまっすぐは走るのじゃ……あっ」



 ぶちって音と共に師匠の変な声が聞こえた。



「師匠!? あって何、あって」

「先生! 御者は任せてってさっき」



 一度アリシアの顔が御者台の方に消えると、もう一度後ろに顔を出した。



「皆何かに捕まっきゃ!」

「アリシアっ!」



 アリシアがバランスを崩すとクウガが抑えようとしてそのまま倒れた。

 アリシアのおっぱいがクウガの顔面を押しつぶしてるラッキースケベだ。



「ご、ごめん! クウガ君」

「だ、大丈夫……それよりアリシア手に持っているのは……」

「ええっと、先生がちぎったたづな……」



 やっぱり、その音か……。

 馬車がぐらんぐらん揺れると俺達は振り落とされないように必死に捕まった。



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