第46話 メル先生の魔法講座。黒狼の弓の扱い方

 メル先生の魔法講座。番外編黒狼の弓の扱い方。

 ちゃららーちゃららーちゃらららら! っと、師匠は三角帽子をかぶり部屋の隅にいる。


 本日のメル先生が教えるのは『黒狼の弓』の使い方! 一見腕輪にみえるこの武器、装備すると狼が走ってるような腕輪が腕に張り付く。


 さぁ一体どうやって使うんでしょうね。


 と、心の中でナレーションを入れる俺。



 部屋の仕切りであるふすまを開けテーブルも片付けると少しは広く感じた。

 その壁際に俺が座っていて、頭の上にリンゴを乗せて座っている。



「もう、この時点でアウトと思うんですけど!!!」



 俺は部屋の反対側にいる師匠とクィルに声をかけた。



「なんじゃ。まだ何をするか言ってないのじゃ」

「わからんでかぃっ! その弓で俺の頭の上のリンゴを打ち抜くんでしょ!? ウイリアムテルだよウイリアム!」



 昔教科書にそんなような絵があって俺はリンゴに弓をあてるのではなく体に矢をささったイタズラ書きをした記憶がある。



「そのウイリアムが誰かしらんのじゃが、ドアホウ、まさか心を読める術なのじゃ……」

「くろうベル凄い、メルの考えあてた」

「いや、だれだってそう思いますからね……まったく」



 俺は頭の上のりんごを手ごろな台の上に置くと師匠側に並んだ。

 魔力を消費する一種の呪い武器と説明され、撃ち過ぎは寿命を削る、と言うありがたいお言葉をクィルに教えるとクィルは「わかっタ」と言ってはリンゴを打ち抜いていった。



「だんだん標的を小さくしたいのじゃが今日はこの辺じゃろ。これ以上今日撃つと寿命を縮めるのじゃ」

「メル、くろうベル。感謝、獣人クィルこのオンはわすれナイ」



 うーん。

 クウガも同じセリフを言われていたな。

 クウガがクィルを仲間に誘った時だ。文無しのクィルはこうして仲間になったはず……。

 クィルはもう一度俺の手を握り帰っていく、部屋に残ったのは俺と師匠の2人だけというだけだ。

 テーブルを戻しながら砕けたリンゴを口に入れる。



「で、アリシアの様子はどうでした?」

「あ奴は直ぐに回復魔法を打とうとして困ったやつじゃ。クウガが熱を出したからといきなりヒールするとは……で、ドアホウよ。血塗られた指輪はどこじゃったかの?」

「ええっと……大聖堂の地下ですけど」



 血塗られた指輪は、名前からして『つけたらアカン』の呪い装備。

 HP1.5倍になる代わりにすべてのステータスが10になるという奴で、それをつけたまま255回戦うと全ステータスプラス40アップになる。

 割に合わない武器で、売っても10ゴールドという何のためにあるのかよくわからない装備品。



「…………なるほどなのじゃ」

「あれ。師匠もしかして場所を確認するためにブラフって……」



 思いっきり俺やらかしたか。



「…………ドアホウがナニを知っているのは別に詮索しないと前にも言ったのじゃ。どうせ100年も生きる前に死ぬしの、効果はワラワが言うまでもなく知ってそうじゃの、それをアリシアに騙してつける。そうすればかけたくてもかけれんのじゃ」

「……騙すんですか?」

「当たり前じゃ。あの回復馬鹿小娘が、つけると回復魔法打てなくなる指輪なんぞつけると思うのじゃ? ドアホウはともかくアリシアには長生きさせたいのじゃ」



 確かにアリシアは、ああ見えて頑固だからな。

 スゴウベルの嫌がらせに一切屈しなく、さらに諭して仲良くなったまである。



「そもそもアリシアって師匠のなんなんですか?」

「前にも言ったのじゃが友人の子じゃよ。色々知ってるくせに知識かたよっとるのじゃ」



 そういわれましても、攻略本に書いてない事まではしらない。

 後聞いたのは5年前だったようなきもするけど、まぁいいかこれ以上情報なさそうだし。


 俺は座布団に座ると冷茶を飲む。

 師匠も近くに『よっこらしょ』と座ると冷茶を飲みだした。



「…………なんじゃ?」

「別に何も言ってませんけど!?」

「ふむぅ」



 お互いに無言で茶菓子を食べ、俺はウォーターボールを出しては消して体の確認をし始める。少しであるけど魔力の感覚が戻って来た一晩寝れば何とかなりそうだ。



「師匠。魔女メルギナスって不老不死なんですか?」



 師匠のほうは女性らしく爪を磨いている。

 指先が細く何度見ても美しい。



「正確には長寿なだけじゃよ、痛みもあれば首を跳ねられても死ぬ、もっともそう簡単に殺させはしないのじゃ」

「…………案外すんなり答えてくれましたね」

「ワラワ自ら正体を言ったからのう、隠すつもりもないのじゃが面倒になるから周りには言う出ないぞ? それでドアホウはワラワの首が欲しいのじゃ?」

「ご冗談を最初に言ったとおりに師匠とスローライフをしたいだけですかね」



 師匠の眉が八の字になる。

 とっても嫌そうだ。



「そこまで嫌がらなくても」

「いや、昔を思い出してじゃの。同じ言葉を言った馬鹿がいたのじゃ」

「んまあああああ!」

「ひっ!?」

「どこのどいつで、師匠の顔がゆがむほど嫌いな奴と俺が似てるって事ですか!」

「ドアホウほど変態ではなかったのじゃ、あと普通に一般人じゃったよ一般人、さてはてアリシアの様子を見てくるのじゃ」



 師匠は爪を磨き終えて部屋から出て行く。

 シーンとなった部屋で俺はぬるくなった冷茶を口に含み飲み込んだ。



「逃げたよね。ちょっと先走ったかねぇ……ガードが固すぎる、見えない信頼度まだ10%当たりなんじゃない? にしても、あそこで首が欲しいって言ったらどうなったんだが。そもそも強さがわからん」



 夕食まで昼寝をし食堂で軽く済ます。

 クウガが寝込んでいるおかげで俺は温泉を堪能し、予定より4日目ほど遅れてクウガの体調が良くなった。



――

――――



「申し訳ございません……」

「いや、俺に謝られても」

「クロウベルさん。貴方は僕達の恩人です……クィルに武器やミーティアに財宝。命まで守って貰い、僕の代わりにクエスト完了まで……強敵に勝利、僕なんて役にたたないし現場にいたってすぐに死ぬんだ、そう死ねばいいんだ……」

「いやいやいやいいや」



 クウガってこんなに病んでいたっけ。

 ノラに言わせると、クウガが病気中に全部「クロー兄さんが万能ですべて手配したから恩を受けたんだね」と言ってくる。いや、それにしても病んでる。


 ギルドに連絡したのは師匠だし。

 看病はノラ。

 下水道討伐クエストやクィルに武器を渡す結果になったけど、武器をもって来たのはミーティアだし、俺は死にたくないから裏ボスアーカスと戦っただけ、それも別に勝ってない。


 負けよりの引き分けだ。




「クウガ君がんばって! 私も何にも出来なかったの……ごめんね、先生から魔法を禁じられて辛かったよね……ついて行く事も出来なかったよね。クウガ君が1人で寂しいならいっしょにいくよ」



 アリシアも凄い病んでる。

 他人の傷を回復したいガールのアリシアは師匠の監視のもと回復魔法を制限されているからだ。

 ミーティアが『かなりの誇張をして』説明したものだから、その場にいなかった事を悔やんでいる『私がいればもっと安全だったのに』と。

 そのストレスがヤンデレアリシアを作ったのだ。



「変態ちゃん、変態ちゃん。なんとかしてよおおお! ミーティアちゃん寝不足で死ぬ! 死ぬから!! 2人とも怖いんだよ……」



 俺の服を必死に引っ張るミーティアは目の下にクマが出来ている。

 そりゃまぁ同じ部屋ならそうなるか。

 師匠は放置してるし、ノラは新しい馬車の説明を御者から聞いている。クィルは馬の世話をしている所だ。


 仕方がない……。



「いいか! クウガ! いいから聞け!!」

「は、はい!」

「クウガは強いよ。それは俺が保証する……俺は水龍陣を唱えられるけど本物の天才にはかなわない」



 俺はクウガを褒めると『僕が天才……』とつぶやきだした。



「次にアリシア!」

「何かな? 何でも出来るクロウ君」



 て、手ごわい。

 クウガよりは俺の事を知ってる分、無自覚な攻撃が来る。



「アリシアは聖女になりたいんだろ? 聖女って回復魔法が使えなくなったら諦めるのか!? ダンジョンに潜ったパーティー全員が死にそう、MPも道具もない。魔法が使えないからって何もしないで全滅を待つのか?」

「そうはしないよ。たとえ魔法が使えなくても、普通のヒーラーが諦めても私は絶対に諦めない……あっ」

「そう、そうだよアリシア」



 アリシアの目に力が戻って来た。

 ちらっとミーティアを見ると俺に向かって音のない拍手をしている。



「馬車も来たんだし、この馬車だって2人がいなかったら……いやクウガ! アリシア! ミーティア! クィル! この4人がいたから手に入れたのだ。俺達なんておまけのおまけ、助けられたというけど俺達がいなくても馬車は手に入れたいただろ」

「そう……なんですかね」

「そう! だから行くぞ! ほら、クウガ。号令だ」



 俺がクウガの腕をとって上空にあげる。



「で、では……聖都タルタンに向けてしゅっしゅっぱーつ……」

「乗った乗った!」

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