第51話 男同士で深夜のコイバナ

「で何の話?」



 場所は雑草だらけの畑から少し離れた森の中。

 かっこいい男ならここで煙草の一つでもくわえるのだろうが、俺は吸ってはいない。

 吸えない事もないとは思うんだが異世界に来てまで肺がんの心配はしたくないし……あれ? でも解毒魔法とか聞くのかな、聞くのであればそれほどリスクは無い? 冒険者でも吸ってる人間は見た事あるし貴族時代も来客は吸っていた。


 俺が考えているとクウガの顔が近くに来た。

 おっとクウガがあまりにも思いつめた顔で外に誘うから仕方がなくついて来たのだ。



「メルさんの事です……その……」

「師匠の……?」

「言いにくいんですけど」



 こんな思いつめた顔で師匠の名前をいうのはきっと『好きなんです』だろう。おいおいおい。

 俺がこれだけ師匠の事を思っているのに師匠の良さに今さら気づいたとかの話か。


 って事はライバルだ。

 これだけ俺がアプローチかけてるのに一向にガードが堅い師匠。


 そこがいいって言えば長所でもある、それに絶賛フリーな女性だ。

 強いし綺麗で謎が多く、姿もエロイ。年齢も取らないし性格もなんだかんだで優しい。



 ど、どうする。

 とりあえず殺す……? いやまて、いくら俺が悪役令息れいそくだったからといっていきなり殺すの判断は駄目だ。


 だって俺が殺したらすぐばれるだろうし。


 殺さなくても諦めさせなければ……いやうーん、なんでも直結はだめだな……。



「人を好きになるのにそれを邪魔するのもなぁ……」

「あの、クロウベルさん? あのー」



 どうする……しかし、クウガがハーレム体質なのは知っていたがまさか師匠まで手を出そうとは……クウガには悪いがこれ以上俺の師匠を、まぁ俺のってわけでもないけどさ。

 やっぱ決闘かな、一度俺と勝負をして勝った方が師匠にアタックする権利をにする?


 今現在なら俺のほうがクウガよりは強い。

 クウガが激的にブーストがかからなければだ。クウガが強くなる前に俺が師匠のOKを貰えばクウガも諦めるだろう、いや諦めてくれ。




「わかった! とにかく男なら戦って勝った方師匠に先に告白できる。1回目は俺に勝ちを譲ってもらっていいかな? だってクウガそのアリシアとかもいるじゃん。俺は1人もいないしさ、なんでもかんでも女性をお持ち帰りするのは男性の敵だよ?」



 俺が解決案をだすと、クウガが無言になる。



「…………わかった! 百歩譲って1回目の勝負はちゃんとしよう、これだったらクウガも文句ないよね?」

「告白……勝負? 僕がメルさんに……ですか? あの、待ってください! 誤解があるようです。クロウベルさんとメルさんはお似合いと思いますよ!」

「ん? ど、どうも?」



 俺は浮かばせたウォーターボールを消してクウガと距離を取る。

 もしかしたら騙しのテクニックかもしれない。

 いや……あれ?



「もしかして、クウガが師匠の事を好きで俺を亡きものにしようとか、とかじゃない? 俺は殺されたくも無いし人を好きになるのは仕方がないし告白の順番は勝負でって……」

「なんでそういう話になるんですか……」



 違ったのかクウガが心底肩を落とす。

 なにもそこまで落とさなくても。




「いやぁ師匠ってほら魅力的だしさ」

「クロウベルさんがメルさんの事になると、少し常軌を超えるのをわすれてました。確かに綺麗な人とは思いますけど、僕は今は恋愛とかは興味ないんです」



 おー俺はクウガに拍手する。



「なんで拍手するんですか」

「いや、あれだけ美人や美少女にかこまれてラッキースケベさえ起きるのに恋愛が興味ない。とか言い出すので思わず」

「ふざけてますか?」

「素直に関心してるだけなんだけど……違うなら何? 結構眠いんだけど。で、師匠がなんだって」



 はっきりしない男は嫌いです! と女の子なら言っていたかもしれない。



「もしかしてメルさんって魔女なんじゃないでしょうか……」

「ん?」

「だから魔女です、貴族であるクロウベルさんが知らないのもおかしくありません。魔女とは人の血を吸って生き、災害をまき散らすと言います……殆どの国で重要人物や監視対象だったりも」



 なるほど?



「ええと、はい」

「やはり知りませんでしたか、気になっていたんですこの森の事。アリシアの病気の事。それに転移の門の存在などの魔法使い。では考えられません」

「うんうん?」



 さて。どうやって答えようか。

 別に俺は師匠が魔女ってのは最初から知ってるし、師匠からもカミングアウトされた。


 しかしだ。

 この正義感あふれる男は師匠を魔女と思い込んでいる。実際そうなんだけど。



「ええっと……」

「この森だって出口だって本当に聖都タルタンに着くのかも不明です。いや……今は信じる事しかできませんが」

「そ、その魔女だったどうすの?」



 ここはクウガの意見を聞いてみる。

 もしかしたら魔女だけと仲良くしたい。って意見かもしれないし。



「クロウベルさんがメルさんに好意があるのは知っています。しかし、魔女は魔女です、その僕はどうしたらいいんでしょうか」

「こっちが聞きたい! そもそも魔女だったら何が問題あるの?」



 攻略本でも魔女ってだけで特に何も書いてないんだよ。

 一応実家にいた時に読んだ本では恐れられていた存在ではあったけど。


 鬼ヶ島の鬼みたいな、とりあえず出会ったら逃げるか、倒せの二択ばっかりだ。



「先ほども言った通り、重要人物だったり通報案件だったり……これは迷信もありますが国が亡ぶときにその影に魔女あり! って言われるんです、そんな人を聖都に連れて行っていいのか。僕だけならまだしもアリシアやミーティア、クィルに迷惑が掛からないかと……それに魔女の血は不老不死の薬とも言われてますし、ある国は魔女がいるから攻め込む事が出来ない。という国も」



 あー……確かにそんな悪評があるならバレたら不味いな。

 そう考えると師匠は良く俺に正体ばらしたな。



「考えすぎだクウガ。その師匠は大人の女性でちょっと魔力が高く研究熱心、ナイスバディで最近は太ってないのに、俺がちょっと重いですねって言ったら、食事制限と運動を強化してダイエットにいそしむ普通の女性だよ」

「よ、よく見てますね」

「ついでに最近は香水にも凝ってるのか無臭タイプを使ってる」

「もしかしたら、それは以前にクロウベルさんが臭いっていったから……」



 俺はいい匂いって言っただけなのにだ。



「まぁでも、アリシアが治ったら俺も師匠も離れるんだし。本当に考えすぎだ」

「そうなんでしょうか」

「そうそう。この事は俺とクウガの秘密にしておいた方がいいな、アリシアだって嫌だろ? 先生と思っていたのがそんな魔女って存在だったら」

「そう……ですね……いえ、アリシアなら喜ぶかも」



 ふむ『先生が魔女? うん、知ってるよ? 凄いよね、クロウ君はそんな魔女にアタックかけてるんだし、魔女の男性版これは魔王にでもなるのかな?』


 うん。めっちゃいいそうだ。



「とにかく、師匠……メル師匠は昔からちょっと年齢不詳の魔法オタクで語尾を無理してる痛いお姉さんだから、ほら明後日に響くからねるぞ」

「そ、そうですか、そのすみません」



 もう無理やり納得させるしかない。

 後は無理やり話題を変えてやればクウガは忘れるだろう。いや忘れておいてくれ。



「所でだ」

「何でしょうか?」

「ノラの事どう思ってる?」

「ノラさんですか? ミーティアと同じぐらいの年齢なのに凄い子だなと。手先が器用で洞察力が凄いですね、最近ではクィルにも何か教わっているようです」

「ちなみに好きとか抱きたいとか……」

「先ほど恋愛は今は考えられないと」

「いや別に恋愛しなくても抱く事は出来るだろ」



 いわゆる大人の関係ってやつだ。



「…………僕は貴族とは違うのでお互いに好きなってからじゃないと抱きません! お話はありがとうございました! 寝ます」



 クウガが少し怒りながら小屋に戻っていく。

 俺は鼻で息をすると、背後で小さい音が聞こえた。


 人間サイズの何かかが落ちている枝を足で踏みつぶす音に近い。ってかその音だ。


 うん。


 振り向きたくはない。



「おい。ドアホウ」

「うーん、師匠の声で幻聴が聞こえる」

「誰が年増で魔法オタクで臭い太った語尾が痛い女じゃ」

「いや、疲れてるのかなー幻聴がとまら――おっと肩にまで手がこれが心霊現象か……」

「ドアホウだけ小屋に置いてくぞ」



 俺は振り返り師匠に向かって無言の土下座をした。

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