第26話 それいけ一攫千金ガール

 ノラの提案で俺達は石取りの男の前に戻って来た。

 俺と師匠の顔見ると、嫌な笑いを浮かべる。



「よう。残念だったな」

「おまえっ!」



 俺が文句を言う前に師匠に手で制される。



「なに。周りの熱気に飲まれただけじゃよ……ワラワもこのままでは帰れない。なんせ一時的にも



 師匠の言葉がだんだんと大きくなる。

 それにつれて周りに観客が足を止めはじめた。


 さっきの女王がまた勝負するみたいだぞ? と人だかりが増えていく。



「別に断る理由はないけどよ。金はあるのか? チップだよ」

「残念ながら27枚しかない」

「しょっぼいなぁ……それでも女王の部下かよ」



 まだ我慢だ。



「ノラ」

「はい! 石取のおじさん。僕達は3人パーティーなんです、手持ちは27枚しかないんですけど。この杖もかけて勝てば1000枚で勝負してくれませんか?」



 ノラは師匠の杖を石取に見せた。

 石取の顔が不機嫌になっていく。



「換金してからこい、杖の価値なんてしらんからな」



 もっともだ。

 俺も高いかもな。と、思うだけで正確な値段何てわからない。

 それでもノラは話を続ける。



「んーこの杖は出す所に出せば金貨4000枚は行くと思うよ。売るには時間がかかり過ぎて、ボク達はそんなに時間はないし、ちょっと儲かれば帰るつもり。今回の勝負に負けても無茶は言わない。別に信じなくてもいいんだけど、魔力を底上げする技法を使われてるし。もちろん杖が駄目だったら別の提案もあるんだ」



 ノラが一息つくと、周りを見る。

 先ほどよりも野次馬が増えて来た。

 4000枚の価値があるのかないのか、鑑定士をよべなどのささやきも聞こえてくる。



「僕達の3人の体を1ヶ月好きに使ってもいいよ」

「ノラ!?」



 待て。そんな話は聞いていない。

 負けたら師匠があんなこと、こんな事、はたまたアレな事されちゃうのでは。



「ドアホウ抑えるのじゃ、ノラを信じるのじゃ」

「ほう…………」



 石取のおっさんは、師匠を上から下に舐めるように見る。

 ぶん殴りたい。



「遊んでやれ石取名人ゴンズ」

「支配人!?」



 石取の横にいかにも。という太った男が立っている。

 俺の記憶では先ほどの大勝負でも近くで見ていた男だ。

 支配人と呼ばれていたので俺は聞いてみた。



「支配人さんですか?」

「いかにも。俺がここのオーナー、ブルットンだ。さっきの勝負は残念だったな、女王よ、まるでな勢いでこっちもハラハラしたわ、ぐっふっふっふ」

「時の運に負けただけじゃよ。真の勝負師はこのノラだけじゃ」

「ふーん。このボウズにねぇ」



 ボウズ呼ばわりされているノラであるが本人は気にしてない。



「うん。だからさっきの条件で良ければ1戦してほしいんだ」

「いいのか? その杖は4000は嘘でも1000は行くかもな。それに男2人と女1人。男のほうはともかく女のほうは、それなりの仕事になるぞ? ぐっふっふっふ。まずはこのブルットンとの特訓だな」



 あーーーーーーーーーーーぶちころしたい。

 ここで魔法唱えて暴れて金貨奪った方が早いだろ。



「杖と3人を無報酬で3ヶ月の仕事。それであれば受けよう」

「いいで? 支配人」

「かまわん」



  足元を見やがって。



「ありがとう支配人さん。ではその前に石を調べていいかな?」

「お前この石取をインチキだっていうのか!?」

「ねぇ支配人さん。そこの新しい石を使っていい? 中も確認したいんだ」

「ここの石を使えばいいだろ」

「まぁこの少年の言う事も一理ある、このカジノは不正など一切ないカジノだよぐふふ、何度でも石を調べればいい」



 支配人はニヤニヤと石のはいた袋を数個机に投げてよこす。


 ノラは3つの袋を調べて「全部ちゃんとあるよ」と言うとその中の真ん中を指さした。



「これで勝負したい」



 石取とノラのサイコロ勝負。

 これで先攻後攻が決まる。


 ノラは合計2。石取は5の先行だ。


 わずかな動きだけど石取とオーナーがにやっとした。

 

 先ほどのノラの説明を受けると『石取は絶対に負けれない試合は必ず先行を取るよ』と教えてくれた。


 俺と師匠は説明を聞くと、この石取。先行と後攻が絶対に勝てる仕組みがあり、今回のような石が40個の場合先行が絶対に勝てるように出来ている。との事だ。


 最初は3個。それ以降は相手のとった石に対して合計が4になるように取ると最後に1残せる仕組みらしい。


 何で?


 いや本当に何で?

 ノラがそういうのならそうなんだろうって、すでに先手を取られて負け確定だ。



「俺は3個っと、どうやら何か石にイカサマでもあると思ったが? 残念だったなボウズ」

「ボクはまだ負けたと思ってません…………1個取ります」

「ふーん。まぁいいけどよ3個っと」

「1個……」

「けっちまちまちま延命か」



 繰り返し広げた袋から石を取っていく。

 勝負が中盤に差し掛かった時石取の顔が真っ赤になった。



「なん……おい支配人!」

「これは…………ぐふふふ、ボウズやったな……」

「何の事でしょう。ボクはまだ勝負の結果が見えてませんし心臓がどきどきしてます、どうぞ石を取ってください」



 ノラは淡々というと石取のおっさんへとターンを勧める。

 支配人と石取の空気感が伝わり周りもザワザワしてきた。


 近くの男が残った石を数え仮想ゲームを繰り返して小さい声をあげた。



「おい、しかし! だめだだめだまめだ! こんなのインチキだ!」

「インチキも何も……それはお客であるボクが言うセリフです」

「おい! 石を数えろ!」



 石取が取った石を数えようとした時に「ライトニング」と師匠の声が聞こえた。



「あががががが!」

「動くなのじゃ。負けそうになったかとインチキと騒ぎ立て試合を無しにはルール違反じゃのう。ワラワ達は最後の最後、この体までかけて勝負を挑み、お主らは乗ったのじゃ」



 周りの野次馬も、女王。女王。女王。と女王コールが止まらない。



 結局順番に石を取っていき、ノラは自分石を3つとっていく、机の上には石が1個、最後の石を取る羽目になったのは石取のおっさんである。



 支配人のブルットンがわめきだした。



「ぐぬぬぬぬぬ、わかったわ! 換金するんだろ、金貨で100枚用意させる。おい石取! お前の今月の給料から引くからな! 何が名人だ!」

「なん支配人の旦那それはひでえよ!」



 ノラの前に立つと石取のおっさんの腕を掴む。



「おい、石取のおっさん……小さい声で話すぞ、先手が絶対勝つって情報ばらされたくないだろ。あとそのサイコロに細工してあるよな、石は細工無しでサイコロとは」

「…………知ってたのかよ」



 石取のおっさんが落ち着いた感じで椅子にすわりため息を出した。



「詐欺やろうめ……怖いふりして条件をつけいい気にさせられたか、ボウズおめえ心臓に毛生えてるだろ」

「……あのずっと怖いと思ってましたしボクはその女の子なんです」

「なっ……はっはっはっはっは。この俺がこんな小娘にか嬢ちゃんいい女になれるわ。解散だ解散! ほら野次馬もちれちれ」



 石取りのおっさんが笑い出し手で野次馬を散らすとオーナーが金貨100枚入った袋をテーブルに置いて、フンっと怒って帰っていった。


 師匠と俺が金貨の枚数を数えていると、上機嫌の石取のおっさんが小さい声で話しかけてくる。



「嬢ちゃん。必勝法を知ってるとしてどうやって最後の石を誤魔化した? この石は同じ奴なんてそうそう準備出来ないぞ? それにお前らは初見だ準備も何もない」



 ノラが俺の顔見てくる。

 俺が頷くとノラは口を開いた。



「3つの袋調べる時に全部1個抜いて、勝負する時に真ん中の袋に2増やしました」



 ノラは余った石の1個をポケットからテーブルに出した。



「………………はっはっはっはっは。馬鹿じゃねえかお前、そんな単純かよ。お前と後ろの女に注意を集中し過ぎたわ」

「はい! 金額的にギリギリ行ける範囲で、金額が少なすぎると石袋は調べられませんし、多すぎるとボクの後に石袋しらべられるので」



 流石にここでこれ以上のカジノは出来ない。

 金貨100枚を貰って出ようとすると、師匠が手を抑えて来た。



「師匠?」

「もう一回カードで増やせばいいんじゃろ? なに今回はダブルアップは2回までに抑えるのじゃ」

「ダメですって!」

「メル姉さんだめだよ!」



 うーうー唸る師匠を裏カジノからやっとの事で連れ出した。

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