第25話 それいけ一攫千金マンその2

 行く場所は決まった。

 と言う事で宿で一晩過ごした俺達は闇カジノのある場所へと来た。



「ここなのじゃ?」

「たぶん、ここです」

「クー兄さん普通の牧場ですよね?」



 見た感じ普通の牧場だ。

 牛が何頭も鳴いており、ぼとぼとぼと。とフンを垂らす。


 近くに小屋があり扉を開けると地下に進む階段がある。

 作りとしては転移の門と同じような階段だ。


 階段の前に農具をもったおっさんが座っていた。



「おいおいおい、ここは農具保管庫だよ」

「ええっと、合言葉が『雌牛めすうしの乳は揉めば揉むほどいいのが出る』」

「入りな」

「馬鹿みたいな合言葉じゃの」



 師匠が呆れ声で文句を言うが合言葉なので仕方がない。

 俺が地下の階段に進むと、背後で「待った!」と声がかかった。


 振り向くと先ほどの農具のおっさんが師匠を通せんぼしてる。



「何じゃ、退くどくのじゃ」

「こ、ここは、農具保管庫だよ。君は何の用かな?」

「なん? 今さっき前のドアホウが合言葉をいったじゃろ」

「こ、こ、ここは。農具! 保管庫だよ。君は何の用かな?」



 農具のおっちゃんは壊れたように喋りだす。



「あっ師匠。合言葉ですよ合言葉」



 農具のおっちゃんが首を縦に何度もふる。



「はぁ? 今ドアホウが……む、ノラは既に通ってるじゃろか!」



 俺の横にはすでにノラがいて階段の途中で待っていた。



「師匠! ほら『雌牛の乳は揉めば揉むほどいいのが出る』です!」

「そこの女性ええっとそう、雌牛の……あれなんだっけかなぁソレさえ聞ければ道が開くかもしれないんだ。ここは農具保管庫だよ」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「できればポーズも。はい、ご一緒に揉み揉み」



 止めるべきか迷ったけど俺も師匠から「揉み揉み」と言葉を聞いてみたい。


 師匠は農具のおっさんの顔を手で押さえつけた。



「牛の乳は揉むほど揉み揉みじゃったな。もみもみ」

「ふふう! やめべべべべえええ。いたっ痛い! 頭がつぶれ痛いいたあああ」



 泣きながら謝る農具のおっさんを横に俺が階段を降りていく、次にノラ、最後にハンカチで手を拭いている師匠が着いてきた。

 うん、農具のおっちゃんはやり過ぎたのだ、俺は助ける事は出来ないすまん。


 さて大きな鉄の扉を開け中に入ると光で目がかすむ。


 バスケットコートぐらいの大きさがある広さの空間があり、天井の中央にミラーボール。壁のはじには小さいステージ、音楽を奏でる演奏家。 

 後は数十人の男女がテーブルに座っては賭け事をしているのが見えた。



「凄いな、想像以上にカジノだった」

「クロー兄さん、初めてなんですか? 合言葉知っていたのに」

「え。ああ……ええっと俺の兄から聞いたから。ここにカジノがあるって」

「まったくあんな馬鹿みたいな合言葉あるなら先に言うのじゃ」



 師匠がさっさと俺の横を通り過ぎていく、近くのカウンターで袋から金貨を出した。

 カウンターの男は師匠を見ては「おまえ……」と声を出す。



「あれ。シグマ!?」

「やっぱ、あんたらか……昨日の今日で会うとはな。カジノまで来るとは中々の遊び人なのか?」

「悪いなシグマ、今日は本気だ。カジノをつぶすつもりで来た」

「はっはっは、まぁがんばってくれ、まっとうに働くのが馬鹿くさくなるぐらいに稼げればいいな」

「ああ、俺達もそれを狙いに来た」



 なんせ旅の生活がかかっているんだ。

 まっとうに働くという手もあるが、楽に越したことはない。


 ……………………あれ?



「どうしたドアホウなのじゃ?」

「どうしたんですクー兄さん」

「いや、先日ちょっとした集団に『まっとうに働いたほうがいいよ』って伝えた気がして」



 ノラの叔父さんである。ドラ盗賊団の事だ、説教とはいわないが諭したようなようなきも。



「………………時と場合じゃ」

「………………そ、そうです。クー兄さんは悪くないです」

「別に何でもいいが、チップに変えていいのか?」

「シグマ、頼む」



 シグマが催促してきたので師匠の全財産金貨8枚。俺の手持ち金貨14枚を全部取り換えた。


 交換レートは金貨1枚に対してチップが8枚。

 逆にチップを金貨1枚にするのにチップが10枚。


 これはゲームをプレイしながらも思っていたが上手い作りだ。



「全部で176枚。師匠に100枚、俺に50枚、後はノラでいいかな」

「任せるのじゃ。あっというまに1000枚にしてやるのじゃ」

「ボクは少し様子見してます」

「じゃぁ俺は石取りでもするかな」



 数か所に集まる人たち。

 碁石みたいな石が40個あって1回に1から3取る事が出来る。で最後の石を取った方が『負け』のシンプルなゲーム。

 勝てば倍。負ければ没収。

 すなわち50%で勝てる!



「親父! 勝負だ!」

「…………掛け金は?」

「っと10枚」



 親父やフンと鼻を鳴らすと俺と勝負してくれた。



「馬鹿な………………」

「何度数えても袋から出した石、すなわち卓上に残った石は1個だ。さぁまだ続けるか?」



 負けた。

 最初は勝てると思っていたが簡単に負けた。



「まっチマチマかけるおめえさんには勝負の神様が降りてこなかったのかもな。しないならどいてくれ」

「なっ! そこまで挑発されては俺だって本気を出す」

「掛け金は?」

「……20!」

「ふう……まぁいいけどよ」

「いやまってわかった。39枚!」



 まだ負けても1枚は残る。



「お、兄ちゃん。勝負に出たなこりゃこっちが負けるかもな」

「負けて貰わないと困る!」

「じゃぁサイコロ大きい数からだな」



 おっさんがサイコロを2つころがして10。俺がラッキー7。

 ラッキーセブンもう勝ったも当然だ。



「じゃぁこっちからだな」

「おう」



 おっさんが袋を広げ石を3個取る。

 俺が2個取ると次におっさんが2個取る。

 俺が1個取ると次におっさんが3個取る。



 その繰り返して試合はすすみ……。



「まけたああああああああああああああ!」

「ん。見た所チップも石も残り1枚だろ。けえんな」



 俺は席を追い出されると別の人間が石取に座る。

 インチキに違いない! 俺が負けるはずないんだ!!


 俺は石取のおっさんをじっとみてると、おっさんは次の客に普通に負けた。


 渋い顔をしながらも相手と握手しチップ40枚を払っている。



「じゃぁ……インチキじゃないかぁ」



 単に俺の運がなかっただけである。

 会場にどよめきが走った。


 中には「すげえええええええええ」「やべええええ」など声が聞こえ俺もそっちの方を見るとチップタワーが出来上がってる場所がある。


 その真ん中に座るのは我らが師匠である。



「師匠!?」

「お、ドアホウか。どうじゃった?」



 俺が結果を言うと、負けたにも関わず笑顔である。



「50枚なんぞチップとはよばんのじゃ、ほれみてみいこのタワーを」



 師匠がそういうのもわかる。

 俺達の借りたチップとは色違いのチップもまざったタワーが師匠の横にあるのだ。



「ざっとプラチナ金貨30枚って所かのう」



 日本円で3000万ぐらいか? 桁が多すぎて混乱してくる。

 元手が20万ぐらいなので大勝利だ。

 目の前いるディーラーの口元がピクピクしている。



「お客様……お帰りをお願いします」



 ディーラーの負け宣言で周りに歓声があがる。



「おかしいのう? ここの掛け金は上限はない。とさっき聞いたのじゃ」

「ですが……これ以上はこちらも潰れてしまいます」

「迷い事じゃな。こんなはした金で潰れるようなカジノではありえないのじゃ。よしダブルアップじゃ!」



 周りの空気が熱気にあふれる。

 女王、女王、女王となぜか師匠の事を女王と呼ぶコールまで起きた。



「ん?」



 俺のズボンをグイっと引っ張る力が加わった。



「ノラ? 師匠すごいよな。ここからダブルアップって負けても300万円は残るのか」

「クー兄さん、お金の桁が謎だけど今すぐメル姉さんを辞めさせた方がいいよ」

「え、なんで?」



 俺がノラに聞くのと同時にディラーが最終確認を取った。



「師匠ちょっとお話が」

「だまっておるのじゃ。よしその条件でやるのじゃ勝負じゃ!」

「え? 条件ってちょ。え?」



 1から13のカードを2枚配って数字が大きいほうが勝つゲーム。

 勝った方はダブルアップが出来て、数字の3から上か下を選ぶ。3であればドローでもう一回チャンスがあると言う。

 借りに負けても掛け金の10%は戻ってくる、圧倒的に上が勝つ勝負なのだが……。



「上じゃ!」

「その自信はどこから」



 ディーラーは蒼白な顔をみせながらカードを開く。

 出て来たのは数字の1。


 静けさが辺りを包み込むと、ディーラーがふうと息を吐いてにやっとする。



「こちらの勝ちです。では全額」

「え? 師匠……?」

「馬鹿な……カードの模様の……」



 他のスタッフがチップを全部回収して師匠は放心状態となった。


 先ほどの女王コールも、残念だったな……と数多くの慰めの言葉を貰って師匠は放心状態になった。

 俺は壁際にひっぱり放心した師匠にサービスでくれた飲み物を飲ませた。



「ええっと師匠……文無しに」



 俺が現実を言うとノラが小さくてを上げた。



「メル姉さん。どうしてあんなに勝てたんですか?」

「毎回カードを交換しているのを見てな最初にカードに小さな傷をつけたのじゃ……ワラワとて全部のカードに傷など無理じゃ。あ奴の持っていたカードは確かに13だったのじゃ」



 なるほど。

 さすが師匠である。



「と、言う事は相手はインチキ」

「騒がないのじゃ、指摘した所で逃げるに決まっておる」

「ノラ姉さんもクー兄さんも、最初にインチキしたのはこっちだからね……」



 これで地道に稼ぐことが決定した。



「さて……ノラ帰ろうか」

「そうじゃな素材狩でもしようかのう」

「この辺の雑魚3000体ぐらい倒せばいいですかねぇ」


 時間かかりそうだなぁ。



「うーん……クー兄さん、メル姉さん。ボクはまだ26枚もってるし。何とかなるかも、あと条件として何か高価なものを借りたいんだ。そして――」



 ノラが飛んでも発言で俺と師匠の素材狩りをキャンセルした。



「――――と、いうわけ。行けると思うんだ」



 ノラが喋り終わった。

 内容を聞いて俺と師匠はどうします? とアイコンタクトを取る。



「なるほどなのじゃ……わかったのじゃ。杖を出そう」

「本当にいいですか師匠」

「なに、負けた所でワラワの先ほどの馬鹿さ加減を考えれば安い物じゃ」

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