第23話 シグマとオメガ
「ついたぞおおおおおおお!!」
「お、おー?」
俺は両手を上げて膝を崩す。
手の上げた先には街を守る石壁が立派で、前に立つ兵士と目が合った。
次の町グラペンテ。
フユーンの街から馬車で4日ほどの場所で、徒歩では何泊も野宿をした。
馬を全力で走らせれば1日程度らしいけど、そんな無理はしない。
もちろん途中に小さい集落や宿場はあるが、魔物が出たりするのでその数は少ない。
「あれ。師匠喜ばないんですか? 新しい街ですよ新しい」
「ノラはともかく、ドアホウは子供かなのじゃ、街についただけで。いやノラですらそんなに驚いてないのじゃ」
「え!?」
子供は旅行をしたら喜ぶんじゃないの? 振り向くと、俺の真似して手をあげてくれたようで、喜びの感情は読み取れない。
「あの。ボクは元々別の街に住んでましたので……新しい街といっても」
「俺だけか、俺ほんっとうフユーンの街から出た事なくて」
貴族の3男となれば、戦略結婚や兄弟が全員死んで途中で当主になったり追い出されるとかしない限り街を出る事はない。
「出たこと無いのじゃ? ………………因みにドアホウ、ここの名物はなんじゃ?」
「ええっとですね、ミルクアイスですかね。珍しく放牧場があってそこのミルクを使って、氷属性の魔法使いさんがやっているアイテム……食べ物です」
「クロー兄さん物知り」
「いやぁ、それほどでも。あれ師匠?」
「さ、行くのじゃ」
何か言いたそうな師匠は口を数回パクパクさせただけで進んでしまった。
師匠と俺、ノラの分で門兵へと金貨5枚を払う。
ぶっちゃけ高い。
街によって違うけど金貨1枚日本円にして1万から3万の間だ。
ふり幅が大きい、金貨より上でプラチナ硬貨など1枚100万円以上の硬貨もある。
だって金貨って重たいよ?
1枚、2枚ならまだいいけど。ゲーム後半で魔獣の剣が5000ゴールド、たぶんゴールドって言ってるぐらいだから金貨5000枚だよね。
この世界がどうなっているかわからないけど、金貨5000枚も持ち運べるわけがない。
街中に入りとりあえず足を止めた。
「ええっと、まずはどうします?」
「アリシア達がどこに向かったかじゃのう」
こんな時にインターネットが恋しくなる。いくら遊んだゲームとはいえ全部を細かく覚えているわけがない。
確か……グラペンテでは腕自慢2人シグマとオメガを倒すイベントがあって1回目は金貨20枚で賞金が金貨50枚。
次の挑戦者が参加するのに金貨100枚で勝てば金貨500枚もらえると言うイベントがあったはず。
当然1回目は雑魚で勝ちやすく、クウガを操っているユーザーはまんまと2回目を選びボロ負けするクエストがある。
「ノラの鍛え移住先も考えないとだめですもんね」
「まだ訓練2回しかしてないよ!?」
ノラは俺のズボンをぎゅっと掴む。
俺としてもクウガのヒロインを連れて師匠を攻略は出来ない。いや、できるか?
ある程度育てて最悪クウガに押し付けるか、クウガのヒロインなんだし。
「いっ! った」
「クー兄さん、変な事考えてた?」
「ドアホウは常に変な事し考えて無いからのう。ノラこっちに来るのじゃ」
「はい! メル姉さん」
師匠が手を出すとノラはその手を掴んで歩き出す。
親子……って言えば怒られるから、似てない仲のいい姉妹かな。
「まー師匠の言う通りアリシアを見守ってもいいですけど、一応本人から話を聞いた方がいいって事でいいですよね?」
「そうじゃのう……それがいいのかもなのじゃ。もしかしたら治ってる可能性もあるからのう」
ここ数日、夕食の時に話した結果だ。
ノラにも俺と師匠の大切な友人が困っているので、その手助けをする。と言う事を説明している。
未だ具体的な解決作は出てこなく、本人に魔法を控えるよう。なんだったら強制定期少し休ませる案まで出ている。
アリシアはたぶん納得しないだろうなぁ。と師匠と2人で話し合うが他に案がない。
「あ、いたいた」
「ガラの悪い奴が座っておるのじゃ」
「そうですね。いきますよ」
俺は路地に座り込んでいるシグマを発見した。
ゲームではスキンヘッドで筋肉質な男であったが実際見てもその通りなのがちょっと笑う。
「なんだぁ? みせもんじゃねえぞ!」
「腕自慢のシグマだよね? 最近挑んで来た挑戦者で女性を沢山連れている男来なかった?」
「ああん? おめえらあの男の関係者か! どいつもこいつも女連れて」
シグマが文句を言うと、足を止めた師匠が俺を見てくる。
「俺の師匠なんですよ美人でしょ」
「おい! そんな事を聞いているじゃなくてだな、てめえも関係者かって聞いているんだよ!」
「確かにちょっと怒っているノラも可愛いよ。でも師匠にはかなわない。この隠しようがない衣服の上からでもわかる大きな胸にキュッとしまった腰、強調する尻の形。しかも垂れてない」
「だからてめえは!」
なんで怒っているだシグマは。
「師匠駄目です。話が通じません」
「ドアホウ……」
師匠が肩を震わせている。あれ? 何か怒っているような気がする。
「メル姉さん……ボクが聞くよ。クー兄さん何を聞きたいの?」
「え? ああ、そのクウガとアリシア達この街来てどこ行ったかなって」
「うん。クー兄さん金貨を少し」
俺はノラに金貨を5枚ほど渡すとノラからシグマに金貨が手渡された。
「ひゅーボウズ話がわかるな。名前は知らんが、この街に来たおのぼりさんだろ。女3人連れたチャラ男であれば俺と勝負したよ。次にオメガっていう兄貴分に勝負を仕掛けたが返り討ちにあってな、あまりにも悔しかったが突然斬りかかって来てよ」
「え?」
いや。え? 斬りかかった? クウガが。
「悪い別の人だ」
「ああそういえば。オメガの奴はそのアリシアって奴に回復魔法をかけてもらったぞ、男の名前はしらないけど女の名前はそう言ってたな」
色々考えられるけど、どれもふに落ちない。
「斬りかかった理由は?」
「さぁ『弱い振りして僕を馬鹿にするな!』 って突然な。こっちも商売だ、オメガに勝ったらちゃんと500金貨払うってのによ。勝負後に斬りかかるのはご法度だぜ」
師匠が一歩前に出た。
たゆんたゆんと胸が揺れるとオメガの前にしゃがみだす。
まさかの色仕掛け!
「オメガと言ったのじゃ? その後のアリシア達はどうしたのじゃ? ほれ」
「っと。これ以上の金貨はいらねえよ。さすがに街中で剣をふるえばな、通報でギルドにつれていかれたぐらいだな」
有意義じゃった。と、いうと師匠はオメガに無理やり金貨を握らせた。
俺もこれ以上ここでの情報はなさそうなので歩き出す。
「ドアホウ。そのアリシアといるクウガと言う男は突然切れるのか?」
「いやぁ。俺と会った時はそんな事なかったんですけどね、周りに女性が3人もいて何が不満かなぁ。ノラよく情報をありがとう」
「クー兄さんが変だよ? ああいう時はお金を握らせた方が早いの、上げ過ぎると嘘つかれたり襲われたりもするけど……それで騙されてボクは捕まったし」
ノラの実体験か。
「でも、今回はクー兄さんがいるから全然平気! メル姉さんも強いんですよね」
「もちろん。俺の師匠だから俺より強い」
「………………どうじゃろうな、さてギルドはどこなのじゃ」
グラペンテの街のギルドは北東にある。
「メル姉さん、あそこに看板がみえます」
俺が道を言う前にノラが正解を見つけたので黙っておいた。
街はずれにギルドが見えると、何となくだけど力が入る。
カネが付いた扉を開けて中に入る、中はカウンターとクエスト掲示板があり広さは多くない。
「懐かしいな……」
「懐かしいのじゃ?」
思わずゲームでみた光景を呟いたら師匠に聞かれていた。
「いや。フェーンの街のギルドも連れて行ってもらったことがあるんですよ」
「ふーんなのじゃ」
あっぶね。
師匠鋭いからなぁ、俺がボロを出すとすぐに突っ込んでくる。
俺が情報を知っている事を気にしてない、と言いつつ気にしてるんだろうし。
「ここがギルド……なんですね」
「ノラは初めてかな」
「はいっ!」
カウンターの前に立つとお姉さんが笑顔で迎えてくれる。
「どのような御用で」
「数日前に来たクウガっていう冒険者を探してるんだけど」
「でしたら依頼ですね。現在は冒険者の数が少ないですがグラペンテの冒険者が力の限りクエストをするでしょう。前金で金貨50枚になります」
ニコニコとカウンターのお姉さんは俺に金貨を請求してくる。
「いや、クウガが来たか来ないかってだけを」
「でしたら依頼を金貨40枚です」
「やったーごねたら10枚も突然に下がった。ラッキーじゃなくて!」
まずは来たか来ないかを知らせて欲しい。
「こちらも仕事ですので! しかも特定の理由や紹介状もなしに仲間である冒険者を探すとなるとそれなりに金額をつんでもらわないと! ……失礼。今ならキャンペーンで38枚でいいですよ」
俺は振り向いて師匠の顔を色をうかがった。
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