地元出発
第22話 野外キャンプでテントは1つ!
「ボクを弟子にして、ううん強くなるのに連れて行ってください!」
お椀を置いたノラといった少年……じゃない少女は俺の方を向いて頭を下げて来た。
ずっと男と思っていたけど、あのノラであれば少女なはず。
「え、いやまって。ノラ……ノラってゾラ盗賊団の一人娘ノラ? であってる」
「やっぱり! ボクの事を知っているんですか!? しかも性別まで」
「いやええっと……」
攻略ページで何度も見たので知ってる。とは言えない。
師匠を見ると師匠は、ワラワは関係ないのじゃ。と言わんばかりに飯を食べている。
視線に気づいたのだろう、俺を見るとにやっと笑う。
「そうこのドアホウは何でも知ってのじゃ、良かったのう」
「し、師匠!?」
「ふっふっふっふっふ」
嬉しそうでなりよりです。
じゃなくて!
「いやええっと、君、クウガに助けられたんじゃ? ほらフユーンの街に入った所で襲われていたとか」
「クウガ……? 知らない名前です……ボクがフユーンの街に戻って来たときには父ゾラは死んでいて、おじのドラが団長でした。おばさんが死んで身寄りのないボクはフユーンの街に戻って来たそこを捕まえられて」
え、あーっふーん。
あれか? 俺が悪役貴族にならなかったからゾラ盗賊団をスカウトする事もなく、そうなるとゾラ盗賊団の色々変わり仕事がなくなって、数年前に壊滅したのかな。
「そう、で。何で俺?」
「え、父さんの事知っているんですよね? ドラおじさんの事を見てゾラ盗賊団って言ってましたし……ボクは父さんであるゾラみたいな義賊になりたくて……でも、ドラおじさんに騙され弱いから商品として売られる所でした」
「うっ」
心に響く。
ついでに君の父のゾラが設定では暴力と金が好きな父親だよ。
娘には激アマでその事を隠していたし、襲ったのも手違いだって事になっていたらしいけどね。
「行く当てもないんです。フユーンの街に戻ってもドラ盗賊団の下には戻れません」
「ぐあ」
「そんな中、父の事を知っているあなたがボクの前に現れて助けてくれて……ご、ごめんなさい。本当はお願いするお金もないのに」
ノラがしょんぼりして、持っているお椀に涙が落ちる。
「ノラとやら。ドアホウはドスケベじゃ、金以外あるじゃろ? ほれほれ」
「師匠!?」
「わ、わかりました」
何がわかったんだ。
「まっ! 脱がなくていいから。そんな貧相でぺったんこな体見ても俺は興奮しないし」
「え…………」
「ドアホウそれはちょっと……」
ノラが無言で泣き出した。
「いや、そうじゃなくて! 師匠おおおおおおおおおおおおお! た、助けてええええええ!」
俺のキャパオーバーである。
俺は師匠を攻略したいのであって、クウガのヒロインであるノラを攻略したいんじゃありません!
「連れて行って次の町で適当に金を渡して捨てればいいじゃろうに」
「え。師匠それはそれで薄情な」
「ドアホウが助けろ。というからなワラワはこうして考えて……」
「ボク。また捨てられるんですか……」
俺は手を挟むように叩く。
「師匠。あの……連れて行ってもいいですかね、ある程度一人で生きて行けるようになるまで」
「まっええじゃろ」
あれ。凄いあっさり。
「え! 良いですか!? 数秒前まで捨てろって言ってませんでしたよね」
「冗談に決まっておるじゃろ。ドアホウがゴミみたいな盗賊団を助けたからの、こやつだけ助けないってのもな寝ざめが悪いのじゃ。いいかノラよ」
「はい!」
「今回は特別じゃ、ワラワはメル。今後お主みたいな奴が来ても助けないからのう、肝に銘じおけじゃ」
「ありがとうございます! メル姉さん」
この場合の注意ってノラじゃなくて俺に言うんじゃないの? いいんだけどさ。
その師匠は「メル姉さんじゃ……ふっふっふっふっふ」と笑うと凄い嬉しそうだ。
あれか。
女性は何時までもお姉さんって呼ばれたい症候群の事かな? であれば。
「ええっとメル師匠お姉さんって俺も呼びましょうか?」
「ドアホウが、小さい子から呼ばれるのがいいのであって。お主みたなドアホウから呼ばれたくないのじゃ」
あ、はい。
塩対応されてしまった。
「じゃぁ……えっとボクが強くなるための先生だからマスターって呼んでいいですか!?」
どこぞの能力者を思い出すので簡便してもらいたい。
「やめて俺の名前はクロウベル、長いからクロウでいいよ。別に弟子を取る気はないんだけど」
「まったく同じ言葉をドアホウに送りたいのう」
「師匠、今良い所なので」
むう。と少し不機嫌な声が聞こえるが後、後。
「別けあって師匠の弟子をしているけど、ノラとは流石にずっと一緒ってわけにはいかないので、ある程度強くなって落ち着ける場所が出来たらそこで離れるって事でいいかな?」
「はい! ではクロー兄さん。メル姉さん。よろしくお願いします!」
うん。
ゲームでは、本当に序盤だけ活躍してイベントも少なく終盤では、クウガがフユーンに帰って来た時だけ現地妻みたいになる特徴的な事はない子だが、案外可愛いかもしれない。
「さて不機嫌な師匠お待たせしました」
「不機嫌じゃないわ! ドアホウの言葉を聞いて。ワラワとドアホウがいつ『わけあって』師弟を結んだのか『ずっと一緒』についてくる気満々で考え込んでいたのじゃ」
「師匠あれですよ、細かい事は気にしない方が」
師匠が無言で収納カバンから杖を出すと、思いっきりスイングしてきた。先ほどまで頭のあった場所を通り過ぎる。
「ちっ」
「あぶなっ! 頭、頭は駄目です」
「クウ兄さんとメル姉さんは仲がいいですね」
「でしょ!」
「ノラよく見るのじゃ! 全然仲良くないからの!?」
ノラは「そうなんですか?」と、言うと残った携帯食料を食べていく。
この世界に腕時計は無いので太陽? の高さで何となくの時間をはかる。少し斜めになって来たのでお昼を過ぎたあたりだろう。
俺達の前を何人かの人間が通り過ぎては挨拶する。
やっぱりフユーンの街のほうで起きた夜が昼になるぐらいの閃光。その話題で持ち切りで、確認しにきたり逆にフユーンのほうからは何も問題なさそうだ。など情報を交換していく。
知識では知っていても、フユーンの街から出た事のない俺にとって少しわくわくする時間だ。
旅なんて修学旅行で行った都内周辺の食べ歩きぐらいだ。
社会人になっても出張はあっても観光する時間なんてなかった。
ノラも座りながら頭をかくんかくんと寝始めてい、師匠も寝そべるように岩に背中をあずけ三角帽子で顔を隠している所だ。
久々にゆっくりした気分だ。
夕方になると街道を通る人間もいなくなる、辺りは暗くなり始めるとたき火のバチバチした音が心地よい。
テントの中には師匠が寝ていて、俺も欠伸が出る。
「クロー兄さん、火の番ならボクが! こう見えても毎回してたんで」
「へえ……」
元が盗賊だから細かい作業が得意なのかな。
先ほどからいい感じで気が利く。洗い物や衣服の洗濯。師匠の杖を磨いたり針と糸を渡したら破れた衣服をぬったりもしている。
「じゃぁ頼むよ」
「はい!」
俺はノラに背中を見せた所で、思わずにやけてしまう。
なんと! テントは1つ。
ずーっとずーっと我慢していたのだ。
師匠から何時つっ込まれるかなって、だって昼にテントを張った時から1個だよ? なのに旅は2人。
…………今は3人になったけど。
最初は火の番を交代でって話だったけど今は3人いる。
と、言う事は2人は寝れるのだ。
テントをペロンとめくると師匠横を向いて寝ている。
とはいえ。
子供が出来るような事は禁止されている。
……………………胸やお尻触るぐらいじゃ出来ない。うん。出来ない。
俺は師匠の横に寝そべるとゆっくりと手をあげ。
「さて。交代の時間じゃな」
師匠が突然テントの中で上半身を起き上がりだした。
「師匠!?」
「ん? なんじゃ」
振り向くと寝起きではなくて、おめめぱっちりの師匠が俺を見ている。
「オキテイタンデスカ?」
「テント前でごそごそと緊張したドアホウが要れば目も覚めるのじゃ。あれじゃろ? ワラワの横に寝るので緊張したんじゃろ? ドアホウは昼間の魔力消費もあるじゃろうに。3人寝るには狭いテントじゃしな、どれあの小娘も休ませるかのう」
「ソウデスネ」
俺は師匠にそういうと、テントのはじっこで丸くなった。
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